Title  グリーン・カード 05  緑の札 05  ----五十年後の社會----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年七月二十五日(金曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  プロローグ 五  Description 「警戒し出しましたね」 「ヱツ!」  ヒカルは吃驚してタキ博士を見 た。  しかしタキが無心に笑顏を見せ てゐるので彼女もまた笑顏ご答へ た。 「何も警戒なんかしやしません わ。あのね妾の野心つていふの は。これなんですの」  ヒカルはハンドバツグの中から 一通の手紙を取り出して見せた。  タキはその手紙の宛名を見てオ ヤと思つた。 「ハナド・アキラ」  それはタキ博士の親友で、若い 科學者として世界的に知られてゐ る彼にちがひなかつた。  手紙の差出人はハインリツヒ教 授だ。 「この手紙をどうするんです?」 「つまりね、この手紙は私の先生 から、ハナドヘ宛てた妾の紹介状 なんですの、ハナドはやつぱりハ インリツヒ教授の門下生だつたん ですわ、だからつまりは妾と同門 といふことになるでせう」 「なるほど」 「だから妾、先生の紹介でハナド に逢ふんですわ」 「それがどうして、あなたの野心 なのです」 「だから大袈裟にいつたゞけなの よ、御承知の通りハナドは世界的 に知られた科學者でせう、そして いま大變な高壓電機の發明にかゝ つてゐるつてこともよく知られて ゐるでせう、つまり妾がハナドを 訪ねて、その發明の手傳ひをしや うつていふんですの」 「へえーあなたが----」 「ヱヽ。だからずゐぶん野心とい つていへないことはないでせう」 「なるほどね」  タキ博士はいまゝでこの女性と ほんの旅のつれ%\として樂しみ ながら話し合つて來た。  ところが、いま彼女がハナドの 助手としてあの發明の手傳ひをす る、といふ話を聞かされてから は、いまゝで冗談半分、からかひ 半分に接してゐたのが恥かしいや うな氣がした。  ヒカルといふ、ある時は映畫女 優かとさへ疑つた女性が、世界的 に評判されてゐるハナドの高壓 電機のアシスタントを志望して日 本へ歸る途中なのだ。  これは素晴らしい女性である。 「それは全く素晴らしい野心です ね。そしてハナドはもうそれを承 知してるんですか」 「多分、でも先生から電報を打つ ていたゞいた筈ですわ、妾の出發 するときまでには、まだ返亊はな かつたのですけれど、ハナドから 先生のところへ以前良い助手があ つたら世話してほしいと云つて來 てゐたさうですから、大丈夫と思 ひますわ、妾そりや良い助手なの よ」  さう云つてまた笑つた。  美しい顏が笑ふとなほ魅力を生 んだ、美しい白い齒が見えるから だつた。 「そりやハナドもきつとよろこぶ でせう、あなたのやうな美しい助 手だつたら」 「アラ、先生、さういふ意味でい つたんぢやありませんわ」 「イヤ、それは判つてをりますよ ----すると僕も今後ます/\あな たとお逢ひするチヤンスが多くな るといふわけですね」  ニヤリとしてタキがいふ。 「アラ、どうしてですの?」  ヒカルは小首をかたむけて、い かにも不思議さうな顏つきをして 見せた。 End  Data  トツプ見出し:  廣告:  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年七月二十五日(金曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年7月19日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年7月26日  $Id: gc05.txt,v 1.5 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $