Title  グリーン・カード 33  緑の札 33  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年九月六日(土曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  悲しき饗宴 七  Description  強烈なホワイト・ミンドが人々 の神經から心臟に叩き込まれた時 に、輕快なコーラスが始まつた。 ダンス・ヱンターテインメント4 祝宴の舞----だ。  No.1,"YUKI NO ODORI"  プログラムの第一番が掲示され た。----「雪の踊り。」  掲示幕が更に次の文字を加へた【。】  THEATRE, HAZAKURA  "UZUKI, SHINOBU"  踊子が紹介されたのだ。その文 字が掲示幕に現はれると、拍手が 室内をゆるがせた。  テアトル・ハザクラの踊子、ウ ズキ・シノブ----。       アイドル2ヱピキユリアン3  彼女は夜の偶像だ!。享樂者の 夜の街には、なくてはならない存 在である。彼女を眼の當り見るた めには、人々は----(金錢の奴隸 の如き人々だ!)少しも金錢を計 算しない。テアトル・ハザクラの 宏壯な地上の建物が、もしウズキ ・シノブを失くするとすれば、明 日の日にも忽ち、それはなにかの 會社の倶樂部に代つてしまふ程な 素晴らしい人氣女優である。  二十一----彼女はまだ若い。青 春は、それも興春煙の力をかりな い青春の生きた血潮が、彼女の美 麗な肉體を支へてゐるのだ。  今までから彼女の媚を得るため に、幾人の人々が破産を宣告さ れ、幾十人の人々が失意の自殺を 遂げたことであらうか----。  しかし、彼女はどこまでも美し く、どこまでも朗かで、どこまで も無邪氣だ!。  〃彼女こそは永劫に咲く花、そ れは若人達にとつて、實に眞紅な 太陽であつた----。〃  今、その美麗なる暴君が、室内に 設置された移動スタヂオの上にそ の清艷な容姿を現はした。アンコ ールは續いて劇しくどよめいた。  清艷な容姿から、微笑が凡ゆる 人々に振り撤かれる……。  巨金を投じた今夜の祝宴に招か れた微笑。----人々はその微笑の 片々で滿悦し陶醉した。  〃彼女は美麗なる人生の魔術師 だ!〃  まつたく彼女は不可解な人生の 魔術師である。太平洋航空會社の 女社長として、凡ゆる男性に君臨 するハナド・セキも、この踊子、 シノブの前には眼に見えぬほどの 星でしかない。  音樂は、やがて彼女の容姿に美 の變化を求めた。  雪の踊りが始まつたのだ!。  この時、始めてアキラはこの踊 子の容姿に瞳を動かしたのである【。】  〃美なるもの〃  人生から、始めてアキラは美と いふものを發見した。こんな美と いふものが、黄金の奴隸!科學と 權利と義務の人生にかうして存在 してゐるとは、何といふ奇蹟だと アキラは不思議な新らしく發見し た人生に向つて吐息せずにはゐら れなかつた。  一瞬、かつて見たことのない奇 怪な幻想が、アキラの胸をかすめ たのだ!。  だが----、それは、その瞬間に おいて完全にふみにじられた。 「アキラ。」  その聲だ。その聲の主は無論セ キである。 「こんなことは妾がお前に聽くま でもないことだけれどね」  セキはこゝで、ホワイト・ミン ドのグラス・カツプをほんのちよ つとだけ舐めずつて、ちら!とア キラの顏色を讀んだのだ。  心持ちアキラの眼は光つた。  End  Data  トツプ見出し:   いよ/\けふから   兵力量問題に入る   統帥權問題は打ち切り   伊東委員長、金子子らと懇談  廣告:   精力之基 養命酒 定價 懷中用金一圓廿錢  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年九月六日(土曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年08月06日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年08月27日  $Id: gc33.txt,v 1.6 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $