Title  グリーン・カード 42  緑の札 42  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年九月十八日(木曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  靈奪機 一  Description  ハナド・アキラの實驗室。  科學の世界!人間の智的全能が 描き出されている實驗室だ。アキ ラは今、數匹の猿に向つて、強力 な震動電波を送つてゐる。檻の中 をキヤーキヤーと飛び廻つてゐた 猿が、次第に睡眠状態に墮ちてゆ く----。  〃生きるものゝ靈を奪つて、そ の肉體に、異つた意志の靈を植ゑ ようとする怖ろしい靈奪機の實驗 が始められてゐるのだ……。〃  まつたくそれは怖ろしいアキラ の創案である。人間の靈を弄使す る!もし此の機械が完成するも のとすれば、科學の力は、一切の 神祕に解決を與へるものだ。---- キカイは人間の意志、行動に絶對 の命令を下す。ある一人の意志は 萬人を虐使する!けれどもキカ イ化した人間の靈はその一人の意 志のために、自由を、權利を、生       ヽヽ 活を要求するすべさへも奪はれて 終ふのだ。  それは想像するだも怖ろしい忌 はしい世界である。その世界には 神も愛も奇蹟も否定され、勞働の みが人間に與へられなければなら ない惡魔の世界だ。アキラは今そ の世界を築かう爲に、怖ろしい靈 奪機の完成に沒頭してゐるのであ らうか----?  さうではない。いかなる科學の   ヽヽ 力をもつてしても、母を征服する ことの出來なかつたアキラの、こ れは決死の----復讎が選んだ最後 的な發見である。亊實セキの靈は 黄金と權利と義務と自我のミイラ ではないか。彼女に人間的な、女 性的な----子に對する母性的な夫 に對する妻女的な美と潤ひがあつ たであらうか。  〃憎むべき靈!〃  それは人道的にも憎むべき靈で あらねばならない。その憎むべき 靈を、科學の尖鋭な力によつて奪 取更生することは、子が母に對し ての邪道な手段であると、アキラ は考へなかつたのだ。むしろ正し い子としての人道的な道であると 信じたのである。  睡眠状態に陷つた數匹の猿が、 更に強力な炭素液を通じた紫外線 の直射に、まつたく假死状態にま で墮ちて終つた。  に!とアキラの頬に凄い微笑が 走つたのだ。         ヽヽ  彼はその一匹をとり出すとグラ ス・ボツクスの中に、靜かに横臥 させたのだ。  奇怪な風車が廻轉を始めた。風 車の中心點から刺烈な躍動電波が 猿の心臟に放射された。猿の胸部 が異常に慄へた。  二十分が經過した。 「駄目だ!」  彼は頭を抱へてばつたりと倒れ た。猿の屍は動かなかつた。  老僕は死んだものゝようなアキ ラを抱へて研究室に慌たゞしく運 んだ。  漸て屈折べツドの上に横臥させ たアキラの身體に、あらん限りの 手當を始めた。  冷たい靜寂が、半刻も經過した        ヽヽヽ であらう。彼はむつくりとべツド の上に起き上つた。  彼は兩腕を組んで、ぼんやりデ スクの上に眼を落した。  彼は唇を噛みしめた。         ヽヽ  〃仕亊に疑ひをはさんではいけ ない----。〃  二つの理性が鬪つた。しかし、           ヽヽ 結局一つの理性が彼にかう命令し たのである。  End  Data  トツプ見出し:   案の運命を決する   けふの條約委員會   全員出席、樞府側のみで開く   開會前の個別的打合せ頻々  廣告:   かつけ アンチベリベリン   膓内強力殺菌新藥 ワカ末   喘息 ニハ アスト  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年九月十八日(木曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年08月18日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年08月27日    $Id: gc42.txt,v 1.8 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $