Title  グリーン・カード 62  緑の札 62  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年十月十五日(水曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  死の舞 四  Description  アキラの實驗室----。  奇怪な三つのキカイが廻轉する につれてグラス・ボツクスに縛ら れた猿の心臟部へ強力な波動光線 が放射された。アキラは懸命にグ ラス・ボツクスを睨んでゐる。室 内は異樣な化學光線と樣々なキカ       ヽヽヽヽ イの廻轉に、めまぐるしいまでの 騒々しさだ。グラス・ボツクスの 中では、まつたく猿の靈が、不思 議なキカイの力によつて奪取され た。それは屍に等しい姿であつ た。  アキラの研究は早くから、靈を 奪取することに異常な成功を示し たのだ。だが----靈を奪取した肉 體に、再び新しい靈を宿す「生靈 創造」の研究は、幾十度の失敗を 重ねて、今もそれを操返してゐる といふ----至難な、殆ど不可能的 な仕亊である。  けれ共、科學者特有の「自己信 念の盲從」に、アキラはまだ「生靈 創造」の可能を信じて疑はなかつ た。失敗がその度數を重ねると、 彼は更に明日といふものゝ光り に、今日の苦惱と失意を約束し た。  母に對する憎惡が、一日から一 日と深く鋭く、掘られゝば堀られ るほど、彼はキカイに對して深い 大きい魅力を感じた。  猿の姿が屍のやうになると、ア キラは凡ゆるキカイの廻轉を靜止 した。  間もなく----。グラス・ボツク スの中の猿は、大きい風車のやう なものゝ中心棒の上に引出され た。  風車がゆつたりと廻轉をはじめ た----と。  五十萬キロワツトと、六萬五千 アンペアの發電機が活動を始め た。二筋の光線が、左右から猿の 頭部中央に注射した。  凡ゆるキカイの廻轉がはじまつ た【。】風車の廻轉が、次第に速度を高 めると、二筋の光線は三筋とな り、四筋となり、速度に比例して 數を増した。  なんといふ奇怪な「生靈創造」の 怖ろしい光景であらう………【。】  アキラの形相はさながらの惡鬼 である。血走つた兩眼は鋭く輝 き、双手は飢ゑた獸のやうに戰 いた。  タズの居室----。  べツドの上に、タズはしよんぼ りと坐つてゐる。彼女の身と魂 は降り積る昏迷のために、見る影 もなくやつれてゐた。彼女には凡 ての人間が獸よりも、もつと醜い 姿で噛み合つてゐるやうに思は れた。  だが、その獸である母、その兄 を憎むことは出來なかつた。た だ、創造主の權能を奪つて、靈に 對する鋭いメスを握り構へたアキ ラの姿が、少しの濁りもないタズ          ヽヽ の心の眼に怖ろしいとげとなつて 映つてゐた。  考へると、彼女の胸底は眞黒な 怪しい雲に包まれて、きら!と一 筋の「生」に對する疑ひが走つた。  生きてゐることに疑ひをもつた ほど、人生に怖ろしい亊【合字】はない。  不意に彼女の心の暴風は鎭靜し た。  ----人生から獨立する!  それは所詮訂正することの赦さ れない人生に、獸として生きるこ との出來ない人間が選む唯一絶對 の逃れ道であつた。忽然と彼女の 心頭には澄み切つた----憎惡、叛 逆、鬪爭の醜惡な慾望から離脱し た限りない「靜」の淨土が燃え上つ た。  おゝ!北方處女星座の光り輝く 方へ!  彼女の心は晴れ%\と大虚のや うに無限な世界へと伸び展がつ た。その顏には何んといふ清らか な微笑が浮かび上つたことであら う。  彼女はべツドの上に立ち上つて 四方の樣子を手探りはじめた。             ダンス・マカブール3  人生への夜明けの道か?死の 舞か----。彼女は生の最後に 展げた一つの道を發見した。  End  Data  トツプ見出し:   特別會計を設け   官廳用品を統一   學校や軍隊をも包含させる   閣議で承認された大藏省案  廣告:   主婦之友 十一月號 定價五拾錢   小兒良藥 ヒヤ竒應丸 金二十錢ヨリ  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年十月十五日(水曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年09月02日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年09月07日    $Id: gc62.txt,v 1.7 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $