Title  『伝説 西行法師の御話』  Note  「富沢の民話と体験記」第1集  西行 遠藤 ふじゑ  Description  今はなき年寄りから聞いた西行法師のお話です。  其の昔法師が西行峠に向かう途中、その頃は部落の中にある畑の間の細い道が甲州街道であったそうです。昔は西行部落も六軒くらいしかなかったとか、村中をとおり沢口という所まで行くと若者が鎌を持って行くのに出合ったそうです。そこで法師は「これこれお前は何をしに行くのかな」と聞いたそうです。若者は「あっ坊さん、冬青む枯れ草を刈りに行くのだよ」といったそうです。法師はすっかり感心してしまいました。(それは麦を刈りに行くことです)それからまた少し行くと畑をうなっている小僧さんがいたそうです。法師はまた「これこれ小僧さん小僧さん今朝からいく鍬うなったかね」と聞くと、「坊さん坊さん今朝から幾足歩いたかね」と言い返したので峠の方に行ってしまわれたとか。  また峠に差しかかった時、急に便意をもようした。まわりの草原には萩がたくさん繁っていたらしくそれをふみ分けて用便をすませた。ところが萩がはね上り、そこで一句詠んだ「西行は旅をいくたびかするなれど、萩にはねぐそ、これもはじめて」と、これもあまりにも有名な話しです。  また、西行部落にある法師の像は、大玄坊(おそっさん)の像も遠藤澄江さんの宅庭にある像も笠はかぶらず手に持っております。法師が西行を通る時は、笠をかぶらなかったそうです。そして静岡県の富士郡にある「カブラザァ」というところまで行き「笠をかぶらざぁ」といてかぶったので、そこの地名が「カブラザァ」となったそうです。  今は旧墓地になっているが昔は甲州街道であった細い道に面して立っている石碑がある。それには「奉参詣で壱ヶ寺供養塔」と刻まれている。これは昔九左衛門という人がいて、その爺さんが或夕方、庭先から大声をあげて「婆さんや、早く表面に火をたきつけろ、お客様をお連れ申した」とさけびながら帰って来た。お婆さんは驚いて大急ぎで表に火をどんどん燃やし始めました。お爺さんはそこで馬の鞍から何やら降ろし始めました。見ると一匹の狐だった。タ方帰るころ、およそ人を化かして皆が困っていたのだそうです。足を縛ったまま狐のお尻に火をあぶり始めました。狐は熱くてたまらず「もう人を化かさないから許して」とキャンキャン泣いたので、お爺さんは「ほんとに化かさないか」と念を押して、縄をほどいて逃がしてやりました。狐は「尻やけ九左衛門キャンキャン孫子の代まで化かしゃせぬ」とキャンキャンいってにげてしまったそうです。それからは西行峠で狐に化かされなくなったとか。  九左衛門の供養塔は今も峠の旧甲州街道に立っている。  End   底本:  西行峠の伝説と文学   発行:  平成二年三月三十一日   編者:  富沢町/富沢町教育委員会   発行者: 富沢町/富沢町教育委員会   国際標準図書番号:   入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThinkPad s30 2639-42J   入力日: 2003年12月11日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年12月14日  $Id: densetu.txt,v 1.6 2020/01/06 03:45:05 saigyo Exp $