Title  近来風体抄  近來風體抄  Author  二條良基  Description  歌連歌の亊は只四五十年名匠たちの申侍しことを、耳のそこにとゞめたるばかり也。更に天性をえたる亊もなし。稽古もたらず侍るなり、連歌の亊は多年の數寄によりて世の人もゆるし侍るにや、詠歌の亊はすべて立いらざる道にて侍れども、不思議の冥加にてや、四代の勅撰にも歌數おもふまゝに入て侍るうへ、此度の集無爲に申沙汰して和席をたてまつれる亊元久の跡かはらず和漢にたづさへ侍し。しるし身の眉目とも存ずる亊也。貞和の比は毎月三度月次百首會爲定大納言の點又判などにてありし也。家の人には爲忠爲秀卿之衆にて侍し。爲明卿は時々まじり侍し也。頓阿慶運兼好の衆にて所存を申しゝなり。齋藤道英などは又勿論なり。門眞霜臺入道顯阿などもよませ侍し、其比は頓慶兼三人いづれも/\上手といはれしなり。頓阿はかゝり幽玄に姿なだらかにこと%\しくなくて、しかも歌毎に一かどめづらしく、當座の感も有しにや、慶運はたけをこのみて物さびてちと古體にかゝりて姿心はたらきて、耳にたつやうに侍しなり。爲定大納言はことのほかに慶運をほめられき。兼好は此中にちとをとりたるやうに人も存ぜしやらん、されども人の口にある歌どもおほく侍るなり、都にかへれ春のかりがね此歌は頓も慶もほめ申き、ちと誹諧の體をぞよみし、それはいたくの亊もなかりし也。道英歌も爲定卿ほめ申されき、すくすくとよく仕しにや、門眞藥師寺など歌よみ名とり侍し、顯阿も四條道塲にありし比名譽し侍しにや、此外祖月ゑんせうなどいふものどもの亊は、終に不會合侍也。家の人々のことは、人のとかく申べきにあらず、されども世の人の口は、ふきがたき亊にや、其比の人申侍しは、爲定大納言は極てけだかくゆる/\とたけありて、しかも又もみもみとある方も出來しけるにや  0001: さりともと猶こそたのめいつはりのうらみやいつのゆふべなるらん  難及よしほめ申き。凡天下偏執もなかりし上手なり。爲明卿は生得に面白きやうにはなかりしかども、まことの道の人と思ふやうなる歌をよみ侍しなり。たゞしく聊古體に長あるやうに侍りき。  0002: おもひきやわが敷島の道ならでうき世の亊をとはるべしとは  元弘の亂の時よみて、人の口にありし名譽せられ侍りき。爲忠卿天性の堪能とは覺侍らざりしかども、晴の歌などはよくよまれしなり。古歌をとる亊を好みき。古今などは空にみなおぼえられき。誠に道の人とぞ覺侍し。爲季卿これは各別の風體一流の詠歌又あらぬ樣に侍しなり。俊成卿以往の歌こそ本意にてあれ、近頃の風體は下品なりと申されしにや、古體に物さびきらひ詞などいふ亊もなく、思ふさまによまれしなり。されども天性骨の人にてやさしくをだやかなる歌おほく侍るなり  0003: わすられて後こそさらに思ひしれはかなからぬはいのちなりけり  などいふ歌は殊更當世のおもしろく侍き。爲重御は近來の堪能也。若くより風骨天性面白き歌よみにて侍し也。頓阿慶運は異風なるやうに申侍しかども、よき歌をば又ほめ申き。玉津島歌合にまた初草のわかの浦浪偏執の爲忠爲秀もよくよみたると申き。わかくより爲定卿にそひて右筆をせられしかば、さだめて口傳故實も侍らん生得の骨のある歌にて、詞心はたらきて當座面白かりし也。近頃は大略宗匠にて侍るうへは不及是非愚意に叶ひ侍し間公家武家にて譽申侍りき。抑此人々の申されしむかし物語、思ひ出るにしたがひて書付侍るなり。ひろく人々にも尋られて治定せらるべしとなり。  一歌の風體の亊此人申されしは、心つよくたゞしくすぐにて、いまだ人の詠ぜぬ風情をやす/\とつゞけ侍るべしとぞ承りし。  一頓阿常に申侍し、あたらしき心をやすらかにこと%\しくなして、うつくしくつゞけべしと申き。こと%\しくはねたか歌をば不甘心よし申き。  一はじめより本歌ばかりにかゝりたるはわろし。よく我心中にてよみて後に古歌を見るべき也。  一百首の地歌文の歌の亊、よのつねはさゞめきてはたらかしたるを紋と心得、すぐに古體なるを地と申なり。但古風にたゞしくすぐなるを文と申べし。さゞめきたる歌のさしたる亊なきを、地と申べしと頓何申き。  一長高く病なくかゝりよきを、晴の歌とは申べし。  一勅撰は續後撰民部卿入道ひとりしてえらばれたれば、風體此集よしと申き。  一寶治の民部卿入道の御百首歌の本にて侍るべきよし申き  一新古今程おもしろき集はなし。初心の人にはわろし、心得たらん人は此集をみん亊いかであしかるべき。  一爲藤卿百首文保の爲定卿百首など能々見るべきなど申き。  一何としてむかしの上手の歌は、今の堪能にもまさり侍るべしと頓阿など申き。  一爲重卿申されしは、歌は同類あれば正體なし。縱令里雪の題當座に詠は伏見深草など、人のよみぬべき風情をする/\とよむなりと申き。但是はいかゞ侍らんと心中には存ぜし也、頓阿などはいつも伏見にて、あたらしき心あるべしと申付し。  一爲重卿は心はたらきたる歌をばよしと存ぜられけるやらん。愚身貞和最初の御百首は、爲兼卿異風をよみ侍しなり。今度の集に多貞和の歌入られ侍し程に、ちと異風にて侍し、いかゞと申たりしかば、第一の御百首のうち初度がよく候と申されき。無覺束亊也。其後御百首こそ、爲定大納言合點にて能々さたしたりしが、辨がたき亊也。  一後光嚴院爲定卿の樣をよませ給し亊は、愚身尊圓青蓮院宮申さたによりて、如此詠ぜしめ給也。御詠の伏見院樣は捨られき。いかさまにも異風は不吉亊也。  一左相府より誰をか歌の師にすべきとたづね承しほどに、爲遠以は家の嫡勿論なれども爲重卿は爲定大納言の右筆をして、おほく故實ども承侍らんと譽申き。仍近比は一向爲重卿に仰談られ侍しにや。  一本歌をとる亊むかしはまれなり。後鳥羽院のころほひより、殊に人毎に本歌をとり侍るにや、そのとりやう樣々なり。本歌を上下の句に置たるは、つねの亊なり。これをよしとす。歌の詞をとりて、風情をあらぬ物にしなして、本歌の詞あかでこそおもはん中ははなれなめと言歌をとりて、ちる花のわすれがたみのみねの雲とよめる、又本歌の心をもとりて、あらぬやうに取なす歌もあり、遠ざかりゆくしがの浦浪といふ歌をとりて、しがのうらや遠ざかり行浪間よりとよめる、又本歌に贈答したる體あり。心ある人に見せばやといふ歌をとりて、こゝろあれなと身をおもふかなとよめり。又本歌の心になりかへり、しかも本歌をへつらはでよむ體あり、てりもせずくもりもはてぬ春の夜のといふ歌をとりて、おほぞらは梅のにほひにかすみつゝとよめり。又詞斗をとりたる歌も常の亊也。此亊は先年頓阿問答の愚問賢注に、こまかにしるし侍しやらん。  一源氏狹衣などの歌をば、歌合などによむべからずといへり、それも作例は待らん。  一本歌には堀川院の百首の作者までをとる也。同者名人の歌をとるべし。勅撰は後拾遺までをとるべしと申き。但今は金葉詞花千載新古今などを取たらんは、何かくるしかるべき。此分左相府へも申侍亊なり。連歌には新古今までをもとる也。證歌には近代の歌よみの歌をも用なり。  一後輩申會に歌讀に二の樣あり。道をふかく執する人は、三昧に入がごとく心をしづめて、幽玄のさかひに入て、人のふかさぬ所を案ずべし。又亊かゝぬ程の歌よみは、當座のはぢをかゝぬまでにて、それまでは有べからず。さのみ歌數のはやきもわろし、をそきも然るべからず。當座の歌はまづわろくともよみおきて、かさねて、ともかくもなをすなり。貫之は立ながらしづくににごるとよみ、和泉式部ははるかにてらせなどいふ歌は、骨をおらずして秀逸を得たり、道のほとりにて金を得たるがごとし。  一姿詞だによくば風情のすぎたるもくるしからず、花に風をこひ月に雨をねがひなどする亊は、上手のしわざ也。さのみこのみよむべからず。  一歌は訶すくなきをよしと、俊成定家も申されき。連歌は詞くだけてはかなはぬなり。  一やすき二文字題などをば、樣あるやうによみなすべし。野の蟲を野べの蟲とよみ、山の鹿を山の鹿とよまん亊無念也。  一むすび題をばましてよむべし。又は本歌本設をとりてよむべし。  一歌の題にうつ文字、うたぬ文字あるべし。野外の外字江上の上の字などは、うたぬもくるしからぬ亊なり。  一題の文字をあらはさでよむ亊は、上手達者のしわざなり、初心の人は然べからず。近くも爲明卿もよみなをして侍き。  一歌の傍題と申亊は、題の物にてはなくて、こと物をよみそふるを申亊也。又歌數をよむに同じ亊のあるをも傍題と申也。三首五首の歌にはことにきらふべし。百首などの時は雲霞やうの物は幾度もくるしからず。  一三十一字よりあます亊は秀逸の時は子細なし。さなくては無用の亊也。  一寄月月前同じ亊也といへども、月前の題にて雨夜の月入後の月などわろし。  一海邊と浦と差別あるべし。社頭神祇又差別あるべし。  一早春の題立春とよむ亊、常の亊なれども猶差別あるべきよし、爲家卿申され侍り。  一雜題にて季をよむ亊は當季はくるしからず。他の字はわろし。作例はなし、但かやうの亊作例あればとて、細々に用亊しかるべからず。  一景物はつねによみつけたらん名所よかるべし。月雪などはいづくにもあれども、珍しき名所などをばよまぬ亊也。それも秀逸になればくるしからざる也。  一歌の病は同心の病と、第三第四の終の字とを嫌べし。其外は細々の歌にはくるしからざるよし頓阿申き。但歌合に猶先達嫌たる病ども侍るにや。  一ぬしある詞詠歌一體にしるせり   春  霞かねたる   うつるもくもる 花のやどかせ  嵐ぞかすむ  月にあまぎる  霞におつる   むなしき枝に  花の露そふ  花の雪ちる   みだれてなびく 空さへにほふ  浪にはなるゝ   夏  あやめぞかほる 涼しくくもる  雨の夕ぐれ   秋  昨日はうすき  ぬるともおらん ぬれてや獨   かれなで鹿の  おばな浪よる  露の塵なる   月やをしまの  色なる浪に  霧立のぼる   わたればにごる   冬  わたらぬ水も  こほりて出る  嵐ぞくもる   やよしぐれ  雲の夕ぐれ   戀  雲ゐるみねの  われても末に  身をこがらしの 袖さへなみの  ぬるとも袖の  我のみしりて  むすばぬ水に  たゞあらましの  我のみたけぬ  きのふの雲の   雜  すゑのしら雲  月もたびねの  浪にあらすな  以上詠歌一體にあり。所詮當世なりとも人のはじめて、よみ出したらん詞、ながくよむべからず。  一制詞の亊  近代おほく禁制の詞ありといへども、いまだ其出所不分明、或は定家卿爲家卿の一向可止之由申されたるもあるべし。或は其歌にとりてわろしと申されたるもあるべし。或は又あまりによき詞にて有間人毎にこれを用るゆへにやめられたるもあるにや、今見所にしたがひて少々これを注し出す用捨宜隨人所存。  一一向に不可用詞   けしき  浪しろし  ふくあらしかな   見やまべの里  已上文應中務卿宮の百首に、民部卿入道爲家卿亡父不可詠之由慥に申候き云々   玉のをやなぎ  見もすその歌合の詞に、俊成の判していはく、末の句のをの字やすこしいかさまによみて侍るにか、順徳院御百首に定家申云、玉のを柳の子細先度披露せしめ畢云々  一中々の五文字  承久二年八月十五夜定家卿判云末向に不開合とて是をきらはる。文永五年九月十三夜爲家卿判にも、中々いひおほせても見え侍らずと難ぜらる。皆其歌に付樣なれども近頃嫌うへから止之歟。   けしき  中務卿親王家三百首歌合に、爲家卿判云けしきと云詞不可詠之由亡父申き。又同歌合可止之由毎度申之   雨の夕ぐれ   みゆる明ぼの  ありければ   おもひせで   心ちこそすれ  物にぞ有ける  身こそつらけれ 身をいかにせん   花盛かも    峯ごし     谷ごし     うきが身  以上可止之由爲家卿子慶融法眼抄にみえたり   ゆかしき  嘉應二年十月住吉の歌合に、俊成卿判云ゆかしきとをけるまことに歌の詞にあらざるべし。撰集には時々なれどもゆかしきと云詞也。まことの詞ならぬことばはい(ら)ざるなるべし。治承二年右大將家歌合詞判に、ゆかしきと云詞兒女の略せる詞にて、庶幾すべからず。   かなしき、うれしき  六百番歌合に俊成卿判云、あまりにや侍らん、又云かなしきと云詞あまりなるものゝ、又はうるはしくやうれしかりけりかなしかりけりと云文字を、未練の歌よみは常にこのみよむなり。げにうれしき亊ならでは、つねによむまじき亊にこそ申されし、已上四條局阿沸の抄にみゆ。此詞はうるはしくかなしき亊には、くるしかるまじきにや。うれしき同前。   つゞく  廣田社歌合承安二年十二月八日俊成卿判云、つゞく鹽路といへる聞よくもあらぬにや、歌合建久六年正月同卿判云、つゞくの詞もいかにぞやときこゆ、つゞきの詞猶庶幾せずや侍らん。千五百番歌全判云、梢につゞくといへる此つゞくなどいへる詞は、こひねがふべからず。おほく侍る亊にてさき%\も侍るを、此歌にとりては殊勝につゞくとこそ申べかりけれ、この判のごときは、秀逸の時はこれをゆるすべき歟。   雪のあけぼの  經房卿歌合俊成卿判云、此雪の曙といふ亊を、いまの世の人常にこのむ、俊惠法師が讀出しける詞と、老僧其時もゆるさず申侍き。近く爲定卿文保の御百首にをかのやかたの雪の曙といふ歌あり、ことなる秀逸のときはゆるすべき歟。   春の夕ぐれ   秋のあけぼの  六百番判云、春のあけぼのこそえんなる亊ににひ侍るを、秋の曙春の夕ぐれあたらしくや。   春すさむ  千五百番判云、すさむの詞やあたらしきやうに聞ゆらん、又同定家判云、すさむと云詞のふるく聞ならはずや侍らん、建保二年八月定家の判に、すさむと云歌を難ぜずして勝せられたり。又うちだにすさめあさの狹衣と云歌をば定家ほめられたり。   まに  六百番歌合の判云、まにの詞庶幾せられざるなり。   うき人  建仁二年九月水無瀬殿歌合に、俊成卿判云、うき人のといへるや近比も人よみては侍しかど、いかにぞやよはきやうにやときこえ侍る。但うき人とよめる亊難ぜられざるもおほし。   なさけ  六百番歌合判云、なさけありなどいひて侍る亊は、詩などにはよき詞なれど歌には、さまで侍らぬにや。又云なさけの詩よせなくてはこひねがふべからざるにや。又文永二年八月仙洞御歌合に、なさけの詞ありといへども、爲家卿難ぜられず。   うす霧  六百番歌合判云うす霧尤よろしからず、又建仁の歌合にうす霧耳にたてども歌の樣はよしとてかたせられたり。   色はへて  六百番歌合判云色はへてのことに不可庶幾。   ひぢて  古來風體云、ひぢてと云詞今の世にはふりて侍るらん。つも・かも・べら也などはさる亊にて、かやうなる詞の猶侍る也。僻案抄今の世にはよむべからざるよし是をのせらる。   見らん  是もふるき詞不可然之由古來風體にみえたり。但頼政がよみたるをばほめられたり。又僻案抄にはなどか此比もよまざらんと見えたり。   月花ををのがとよむ亊  住吉歌合判云、月花ををのがとよむ亊、いとおしくやと難ぜられたり。   なにかほ  六百番判云、色かほといへる尤不庶幾。又云、うちとけたる詞也。又文永仙洞歌合に爲家卿ありかほといふことばを難ぜられず。   かはす  順徳院御百首定家卿判云、かはすの詞愚意存せる旨あり。   あたら夜  千五百番判云、あたら夜庶幾せざる所存侍り。但御室歌合にあたら夜難ぜられずしてかたせられたり。   北へ行などのへの字  御裳濯川歌合に、いづくへと云へ文字は、人のよむ亊にて侍れども、こひねがふべからず。   夜もすがら  新熊野歌合に俊成卿判云、夜もすがらの詞不可庶幾。   思はぬ おもはぬ松をなど云詞也。  貞應元年九月歌合に定家卿判云、思はぬ中などにはあらで、かやうの詞をよみ侍る、いつよりよみ侍る亊にか侍らん。   ちかふ  永萬二年重家朝臣家歌合に、此たびの歌に多くちかふといふ亊の見え侍は、もし此比出來たるおかしき詞にて侍るやらん。   月やあらぬ  定家卿云、かやうの名歌の五文字は不可然。   雁のおほひ羽  定家卿云、いふよろし、やさしからずやあらん。   ふるやあられ  建保五年十一月歌合に定家卿判云、ふるやあられ、やすからずや聞え侍らん。これはや文字を嫌也。   こなた  貞應元年七月關白家歌合に定家卿判云、こなた近年おほし。不甘心。   人ごゝろ 貞永歌合定家卿判云、人心と云五文字、今はこのみよむまじきよし沙汰有。   うとき  歌合に定家判云、うとき、この比は此句いはまほしげになりて侍る。郭公にはことかなはずや侍らん。   紅葉しにけり  度々の判にとめ所にしかるべからざるの由沙汰有。   あをき  定家卿云、此比歌は青き白きにて侍ると難じ侍りき。   大かた  文永二年九月爲家卿判云、大かたの風荒凉にぞ侍る。又云、大かたは月をもめでしといふ五文字あれども、おぼろげならんは、此五文字相應しがたしと爲家卿申さる。   つく%\と さくらちる  など云名歌の五文字斟酌すべし。   草のはら  六百番には俊成卿無子細よし申さるゝか、但近年いさゝか沙汰ある哉。   名もしるし  これも名歌の五文字なり。  此一卷道之數竒異他之間書遣松田丹州者也老耄亊等不可爲指南歟不可有他見                後普光園攝政殿也                        御判                     准三后   嘉慶元年十一月十二日  右和歌祕抄隨一覽連々加書冩今作一帖於座右爲披見也敢不可出窓外耳矣   天正十九暦〓(虫+昔)月初四                玄 旨(印)  解題           【久松潛一】  二條良基の著であり、今來風體抄ともいはれる、古語深祕抄本の奧書によると道の數寄異なるために、松田丹州に書遣したとあり、嘉慶元年十一月十二月の年附があるが、續群書類從本では辨内侍に送つたとある。家藏の冩本には古語深祕抄本と同じ奧書がある。古語深祕抄、續群書類從本に收められて居る外、冩本を種々傳へる。こゝには古語深祕抄本によつて收めた。本書は連歌に造詣深く、和歌を頓阿に學んだ良基の和歌に對する見解を記したものごあるが、特に當時の歌人である爲忠、爲秀、頓阿、慶運、兼好、爲定、爲重等の歌風を批評した點に注意せられる。近來風體抄といつたのもその點から來たものと思はれ、俊成の古來風體抄が萬葉以來の歌の風體を説いたのに對せしめたのであらう、良基は歌人としては、頓阿風の歌を踏襲して格別注意するに足りなく、本書も新しい見解は尠いが、實際批評として注目されるのである。なほ本書と併せ見るべきものに頓阿の井蛙抄や頓何と良基との問答である愚問賢註があるが、是等を本書によつて代表せしめた。  End  底本::   著名:  中世歌論集   編者:  久松 潛一 編   発行所: 岩波書店   初版:  昭和九年三月五日   発行:  昭和十三年七月三十日 第四刷  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年5月19日〜2003年5月  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年06月20日