Title
山家集類題
Note
注意:翻刻作業中・新渡戸
*印:検討思案中
「序文」「凡例」「目録」は作業中につき誤謬が存在します。
【序一オ】
Description
苔のころも着たらむ人のうらな
るたまに心かけてはつとまとてもあ
らしを大和歌をは仏の真言に
もかなふへけれとわかのうらにおり
たちてとろはるゝことに宝珠なら
ぬなかりしと円位ひしりのおの
つから難事風骨にてよのつねの
【序一ウ】
こかね糸か絵をちりはむとてかたな
のあとをあらはし花鳥をぬひもの
すとて針目みらるゝたくひのうた
人らはひとつむしろにねてかたらは
れむやと此ひしりの集のむかし
よりつたはれるくさ/\ありて異
同すくなからぬを我友柳斎せち
【序二オ】
にたゝしあはせたりしかさるを書
肆のもとむるまゝに題によりて歌
をたくへみわきよきさまにかいつら
ねられしは文化のこゝのかへりの年
になむ有けるかく物をらるゝはと
し*のひろはれたる玉の光をゆ
くすゑのよにかゝやかさむの心かまへ
【序二ウ】
ならむとよろこひて***の*
**しにかくはそのとしの秋たつ
日にそありける
【凡一オ】
Description
凡例
一 山家集はよにもてはやす人多あなれはふみのいちくらも
いつもむなしきまてにあかなひぬされは桜木もいつしか
かけて紙にすりてはいとわかりかたくなむこれをたゝして
*にちりはめむと元長等かせちにもとむるもいなみ
かたけれはひらきみるに一朝一夕にあらためかたし
にておよそ*類の題をならへて一帖となせしは
今の山家集のこときをよくたゝして板にゑりつく
るまてのためになん
一 今の山家集西行上人の手択そのまゝつたはりしもの
とはみえさることあまたありされといつれをもて
【凡一ウ】
正本とすへきなけれは今の集はしめてすりし一本あり
それをもてこたひの類題は書集ぬしかれはかへ字仮名
もそのまゝにて誤れりとおほしきもたゝし侍らす
一 或人秘蔵して頓阿法師のもたりし山家集といふあり
またやことなき官家の御蔵本と云あり其他異本の山
家集五六本はかりたゝし合せしに悉異同あり此異本の
集は板本にある所の歌みつか一つ斗にしてならへかたも
またことなりされとも**かよはしてみれは**な
きにしもあらすこれらをたゝし合せてかたはらに
しるして在来のことき山家集をつきて出すへし
一 集中の歌勅撰にいりたるも多しこれまた異同あり
【凡二オ】
嗣出の大本につはらかにしるすへし
一 近代の識者此上人の歌を難破せしあり*難あたれりと
もおもほへねと*に**をかきけるその中に心なき
身にもあはれはしられけり鴫たつ沢の秋の夕くれといふ
歌をも*せりまた或人は此歌を秋の歌とせりしかれとも
詞書に物へまかるとてと有をもて**を考いまは哀傷
の部に出せりかゝるたくひのことあまたありこれら大本*
正にくはしく**へし
一 集中の歌伝写あまたらひにして畢竟誤れりとみゆるも
ありはた愚なる心にはいかむともよみときかたき歌もあなり
これらの考もかたはらにしるさまほしくおもほゆれと大本
【凡二ウ】
嗣出をまちてこたひはもらし侍る
一 今原本とせしにも闕句ありまたかんなをかへ字にかきう
つせしより一首きこえぬ歌となれるもありそかたくひは
彼異本等にたゝしあはせてあらため置ぬ
一 今の集に題のあらはなるもありまた雑の中はた題
しらすなとあるに或は初春或は月雪花等をよめり
とみゆるありそは其たくひにならへ出せとも題しらすと
あるはしかしるして何くれの題とこまかに事つけおくこは
初学の人の詠例なともとめむ一助とせんとなりにて
目録の所にしるして集には本のまゝを出しぬみたり
かはしく題を書付は上人の作意にたかはんことの
【凡三オ】
はゝかりあれはなり
一 遁世の後は住所いつれとさためたまはさりけりとみゆる
に大かたは高野に住たまひけるよしなれと高野にての歌
も羇旅の部にくはへ置ける
一 みちのくつくしかた四国なとの修行も一たひのことゝも
みえ侍らねと**国**ならへ出し置されはいつれ
のことは書も本のまゝに出しぬ*心してみたまふへし
一 在来の山家集歌数千五百六十九首ありその中に
恋の歌一首秋の部に重出せりこれを除て千五百六十
八首かりそめに類題とすること左のことし
文化九年壬申三月 松本柳斎識
【凡三ウ】
類題上巻
春之部 二百廿五首 夏之部 百五首 秋之部 二百八十六首
冬之部 百九首 離別之部 七首 羇旅之部 百九十首
賀之部 十四首 計九百三十六首
同 下巻
恋之部 二百五十六首 雑之部 二百六首 哀傷之部 九十三首
釈教之部 五十六首 神祇之部 廿一首 計六百三十二首
*歌数千五百六十八首
【目一オ】
Section
山家集類題上巻目録
Subtitle
春部
Description
0001 0002 0003
○年内立春雨 ○山居年内立春 ○深山立春
0004 0005 0006
○山立春 ○浪華立春 ○初春逢坂山霞
0007-0011
○立春朝の歌 五首 △初夢 △春曙 △山霞
△霞 △若水 等
0012 0013 0014
○立春日 ○元日雨 ○家々春を翫ふ
0015 0016 0017-0018
○春きて猶雪ふる ○題しらす△里残雪 ○静忍法師贈答△残雪
0019-0022 0023-0028
○題しらす 四首 △氷解 △小せりつむ ○子日 六首 △元日子日
△峯霞 △雪解 △小松引
0029-0036
△子日霞 △子日鶯 ○若菜 八首 △初子日わかな △雪中わかな
△子日に松を送 等 △雨中わかな △わかな懐旧
0037
△老人わかな △若菜述懐 ○題しらす △ゑくの草茎
△野辺にわかなつむ人 等
0038 0039
○海辺霞 ○いせのふたみにて海辺霞
【目一ウ】
0040 0041
○霞によせてつれなきことを ○世にあらしと思ひ
0043
ける頃東山にて霞を 二首 ○題しらす △みよしの
霞
0044 0045-0047 0048
○梅 ○山里の梅 三首 ○旅泊梅
0049 0050
○古砌梅 ○さかに住ける云云梅の風にちりけるを
0051 0052
○庵の前の梅を ○いせのにしふく山にて庵の梅
0053 0054 0055-0058
○閑中鴬 ○雨中鴬 ○住ける谷に鴬の声せす
0059 0060-0061
なりにけれは 四首 ○鴬によせて思を述 ○梅に鴬の鳴ける 二首
0062-0065 0066
○題しらす 四首△谷の鴬 △梅に鴬 ○鳴たえたる鴬の谷
△田舎の谷の鴬△鴬を聞
0067 0068
に声のしけれは ○深山不知春 ○山里柳
0069 0070 0071
○柳風にみたる ○雨中柳 ○水辺柳
0072 0073 0074
○早蕨 ○霞に月の曇れるを ○山里の春雨といふこと
【目二オ】
0075-0078
を大原にて ○きゝす 四首 △曙のー △枯のゝー
△片岡のー △焼のゝー
0079 0080-0081 0082
○帰雁 ○霞中帰雁 二首 ○山家呼子鳥
0083 ???? 0084
○題しらす△ませに ○花 ○春の月あかゝりけるに
蝶のとふ
0085-0086
花またしき桜の枝を風のゆるかしけるを ○花を待心を 二首
0087 0088-0092
○待花忘他 ○題しらす 五首 △またき桜 △よしのゝ風
△花を尋 △花の*の雲 等
0093 0094 0095
○独山の花を尋 ○老木桜処ゝ ○老見花
0096 0097-0098
○春は花を友とす ○せか院の花盛なりけるころ 贈答
0099-0100
○上西門院の女房法勝寺花みられけるをり 云云 贈答
0101 0102 0103
○白川の花 ○庭の花波にゝたり ○山寺の花盛に昔
0104
をおもひ出て ○若き人ゝはかりなむ云云雨の降けるに花の下に車を立て
0105 0106
○世をのかれて東山に云云白川の花盛に ○かきたえこととはす云云人
【目二ウ】
0107
の花見に山里へまうてきたりと聞て ○花の下に月をみて
0108 0109
○曙の花に鴬の啼けれは ○屏風の画に春の
宮人むれて花みける所によそなる人のみやりてたてりけるを
0110-0111 0112-0113
○花のをり高野より寂然と 贈答 ○閑ならむと思ひける
0114-0140
ころ花見に人々のまうてきけれは ○花の歌あまたよみけるに
△花雪にゝたり △花に鴬の鳴ける △よしの山の花数多あり
△花雲にゝたり △花によせて述懐 △**の花かす/\あり
0141-0144
△みねの花 △山の花 ○題しらす △侘人の涙に
△しら川の花 △閑居花 等二十七首 にたる桜
0145-0159
△よしの山の花ををしむ△山さとの花 ○花の歌十五首よみける
△花ををしむ 等 四首
△白雲花にまかふ △山に花を尋 △花のつほむ
△風前の初花 △青柳の糸に花を △花ををしむ
0160-0169
△峯の落花 △山おろしに花のちる○百首歌の中花十首
△花のちるに △寄花述懐 等
△よしの山の花数多あり△山さくら △花の雪
△花のたき △ねにかへる花 等
【目三オ】
0170 0171-0199
○遠山残花 ○落花の歌あまたよみけるに
△花ををしむ △風前落花 △山の落花あまたあり
△落花似氷 △落花似雪 △峯落花
△花の別 △花の衾 △夜落花
△しら雲によせて花ををしむ 等 二十九首
0200 0201 0202
○雨中落花 ○風前落花 ○山路落花
0203 0204 0205
○夢中落花 ○散て後花を思ふ ○桜にならひてたて
0206
りける柳に花のちりかゝりける ○花のちりたりけるに
0207
ならひて咲はしめける桜を ○苗代
0208-0209 0210-0211
○題しらす 二首 △たしろみゆる ○かはつ
△庭のしみつ
0212
△山田の蛙 ○題しらす 一首 △みつの蛙
△江の蛙
0213-0214 0215-0216
○菫 二首 △庭のすみれ ○題しらす 二首
△あら田すみれ
0217 0218
△よこのゝすみれ ○山路のつゝし ○つゝし山のひかりたり
△北野のすみれ
【目三ウ】
0219 0220-0221
○かきつはた ○山吹 二首 △きしの山ふき
△山吹井手のことし
0222 0223
○伊勢のみつにて海辺の春の暮 ○三月一日たらて暮けるに
0224-0225
○三月晦日に 二首
Subtitle
夏部
Description
0226 0227
○題しらす △更衣 ○夏の歌よみけるに △山居初夏
0228 0229-0230 0231
○夜卯花 ○水辺卯花 二首 ○社頭卯花
0232 0233-0235
○春のうちに郭公をきく ○時鳥 △待時鳥 三首
0236 0237-0238
○雨中待郭公 ○郭公をまちてあけぬ 二首
0239 0240
○人にかはりて △待郭公 ○無言なりける頃郭公の初声を聞て
0241 0242 0243
○不尋聞子規 ○雨中郭公 ○夕暮郭公
【目四オ】
0244 0245-0249
○山寺の時鳥 ○時鳥を△**時鳥 △ーー聞めつらし△ーーをきく
△夜ーーを聞△花橘にーー 等五首
0250-0254
○時鳥の歌五首よみけるに △尋ーー △待ーー △山ーー
△川ーー △山路ーー
0255-0664
○百首歌の中郭公十首 △待ーー**△尋ーー △聞て猶まつ
△雨中ーー △暁ーー △深山ーー
0265-0266
△夜ーー ○題しらす 二首 △山のほとゝきす
△月前ーー 等 △夜のーーーーー 等
0267:
○五月晦日に山里にまかりて立帰にけるを時鳥もすけなく
聞捨て帰りしことなと人の申つかはしける返ことに
0268 0270
○五日さうふを人の遣したりける返事に ○さることありて人の申
0271-0271
つかはしける返事に ○高野に中院と申所にあやめふきたる坊の
0272-0274
侍けるに桜のちりけるかいとめつらしく覚て○五日山寺へ人のけふいる
二首
物なれはとてさうふをつかはしたりける返事に△西にのみ心を云云
△みな人の心の云云
0275
△五月雨の軒の雫云云○題しらす △空晴て云云あやめもふかぬ
等 三首 五月なるへしてふ歌
【目四ウ】
0276-0282 0283-0298
○五月雨△江五月雨△橋五月雨△古郷五月雨○五月雨の歌十五首よみ
△閑居五月雨△小田五月雨 等七首
侍し人にかはりて △浦五月雨△橋ーーー△川ーーー△江ーーー
△湊ーーー△船ーーー△舟橋ーーー△沼ーーー
0299 0300
△池ーーー△原ーーー ○深山水鶏 ○題しらす △夏の夜
△山田ーーー 等歌ハ十六あり
0301-0302 0303 0304
○夏の月歌よみけるに△原夏月○雨中夏月 ○海辺夏月
△山川ーー
0305 0306-0307
○池上夏月 ○泉に向て月をみるといふことを 二首
0308 0309 0310
○撫子 ○雨中撫子 ○ともし
0311 0312 0313
○夏野の草 ○旅行草深 ○行旅夏
0314-0316 0317
○題しらす △蓼のほ △蚊遣火 ○蓮池にみてり
△からす扇
0318 0319 0320
○隣のいつみ ○題しらす△いつみ ○水辺納涼
0321 0322-0324
○木陰の納涼 ○題しらす △山下風涼しさ △河風蝉のことし
△ひさき生て云云 等 三首
0325 0326 0327
○涼風如秋 ○水声秋あり ○山家待秋
【目五オ】
0328-0329 0330
○題しらす △沢田のくらゝ生 ○六月祓
△山田のみつ
Subtitle
秋部
Description
0331 0332 0333
○山里の初秋 ○山居初秋 ○初秋松風
0334 0335-0340
○題しらす△秋初風 ○七夕 △七夕露 △ーー夜
△ーー風 △蜘の井かき
0341 0342-0343
たるをみて ○秋の歌に露を ○題しらす△*露
等 六首 △原露
0344 0345 0346
○萩 ○萩風露を払ふ ○隣の夕の萩の風
0347 0348 0349
○題しらす△秋の哀 ○野萩似錦 ○萩野にみてり
0350 0351-0352
○萩野の家にみてり ○題しらす △萩のひまにこのてかしはの花
△萩の花すり 等 二首
0353 0354 0355-0356
○終日野の花をみる ○野径秋風 ○女郎花 二首
0357-0358 0359 0360-0361
○水辺女郎花 二首 ○女郎花水に近し ○女郎花帯露 二首
【目五ウ】
0362-0363 0364
○草花露重 二首 △女郎花* ○草花時を得たり
0367 0268 0367
○霧中草花 ○行路草花 ○草花道をさいきる
0368-0369 0370
○忍西入道と草の花の贈答 ○草花
0371-0372 0373
○題しらす 二首 △池のうきくさ ○薄路にあたりてしけし
△露草のはな
0374 0375-0384
○古籬苅萱 ○人々秋の歌十首よみけるに △野秋風
△野原花
0385-0386
△野虫 △萩風 △山鹿 △秋時雨 ○秋の歌 △秋夕暮
△山月 △鹿月 △庭月 △暮秋 △秋哀 等 二首
【0387-0388:不明】
0389 0390-0391
○山里にて秋歌よみける △秋の蝉 ○田家秋夕 二首
0392 0393 0394-0409
○題しらす△秋夕暮 ○野の家の秋の夜 ○虫の歌よみ侍けるに
0410
△夕蛬 △月前虫 △野蛬 △夜虫 △野虫 ○独聞虫
△野秋虫 △閑*虫 △枕虫 △虫声幽 等十六首
0411 0412 0413
○深夜聞蛬 ○故郷虫 ○雨中虫
0414 0415 0416
○田家に虫を聞 ○夕の道の虫 ○物心ほそく哀なる
【目六オ】
0417
折しも庵の枕近う虫を聞 ○伏見に住ける人を尋て庭の草
0418-0419 0420
しけきに虫を聞て ○秋の末に松虫を聞て 二首 ○十月初に
0421
山里にまかりけるに蛬の声の僅にしけれは ○朝に初雁をきく
0422 0423 0424
○船中初雁 ○夜に入りて雁を聞 ○雁声遠
0425 0426 0427
○霧中雁 ○霧上雁 ○題しらす △風前雁
0428 0429 0430
○暁の鹿 ○夕暮鹿 ○田庵の鹿
0431 0432
○幽居に鹿を ○人を尋てをのにまかりけるに鹿の鳴けれは
0433 0434-0440
○小倉の麓に住侍けるに鹿の鳴けるを聞て ○鹿 △萩のすかひにー
△原のー
0441 0442
△夜ー △夕ー ○霧 △里の霧 ○霧行客をへたつ
△山里ー 等 七首
0443-0444 0445 0446-0447
○山家霧 【二首】 ○題しらす△山居霧 ○寂然高野に詣て
0448
立帰て大原よりつかはしける贈答△嶺朝霧 ○ときはの里にて
【目六ウ】
0449
初秋月 ○松の絶まより僅に月のみえけるを △三日月
0450 0451
○入日影かくれけるまゝに月の窓にさし入けれは ○久月を待
0452 0453 0454-0460
○雲間に月を待 ○閑に月を待 ○八月十五夜
0461
△山ーー △川ーー △依月命を惜 ○くもれる十五夜
△こよひの月 等 七首
0462 0463 0464-0465
○終夜月をみる ○霧月を隔つ ○名所月 △清見潟
△明石
0466 0467 0468
○月瀧をてらす ○池の氷ににたり ○池上月
0469-0470 0471
○同心を遍昭寺にて 二首 ○海辺月
0472 0473-0474 0475
○海辺明月 ○月前草花 二首 ○月前野花
0476 0477 0478
○月照野花 ○月前萩 ○月前女郎花
0479-0480 0481 0482
○月前薄 【二首】 ○月前紅葉 ○月前鹿
0483-0484 0485 0486
○月前虫 二首 ○田家月 ○題しらす △月夜道
【目七オ】
0487:
○松の木のまより僅に月をみて月をいたゝきて道を行といふことを
0488 0489-0491 0492
○旅宿の月を思ふ ○旅宿月 三首 ○月前に遠く望
0493 0494
○月前に友にあふ ○遙なる所にこもりて都なりける人のもとへ
0495-0496
月の頃遣しける ○人々住吉に参て月を翫けるに 二首
0497:
○春日に参りたりけるに常よりも月あかく哀なりけれは
0498 0499
○月寺のほとりに明なり ○月前に古をおもふ
0500-0505 0506 0507-0508
○月によせて思ひを述けるに 六首 ○月前述懐 ○題しらす △依月惜命
△月前思*
0509-0521
○月 △夕月夜 △月前雲 △待月 △くもれる月△灘の月
△海の月 △山月 △月明 △原月 △月を雪 等
0522-0563
十三首 ○月の歌あまたよみけるに△月出山 △宵の月 △風前月
△荒屋月 △古郷月 △月催哀
△月前虫 △山月 △嶺月 △袖月 △*家月 △草庵月
△月** △朝日山月△月前鳥 △月前雁 △月前嵐 △せとの月 等
四十二首?】0564-0576
四十四首 ○題しらす△かり田の月△岩井月 △閑居月 △月似雪
【十三首?】
△谷月 △雨もる宿の月 等 十一首
【目七ウ】
0577-0586
○百首歌中月十首 △*月 △池月 △浦月 △浜月
△観月 △月前風 △月前述懐 等
0587-0588 0589
○九月十三夜 △月菊の露に映す ○後九月月を翫ふ
△月秋の半にまされり
0590 0591 0592-0593
○独聞擣衣 ○隔里擣衣 ○菊 △摘菊
△菊厭霜 等二首
0594 0595
○月前菊 ○鳥羽殿にて菊の御遊に
0596-0597 0598
○覚堅阿闍梨と菊の贈答 ○題しらす △秋時雨
0599 0600 0601
○紅葉未遍 ○山家紅葉 ○霧中紅葉
0602-0603 0604
○紅葉色深 二首 ○賎かりける家に蔦の紅葉面白かりけるを
0605 0606-0607
○寂蓮高野に詣て山の紅葉を ○題しらす △秋時雨 二首
0608-0613
○秋の末に法輪にこもりて △川暮秋 △山暮秋
△里ーー △ーー風 等六首
0614 0615 0616
○終夜秋ををしむ ○題しらす△野暮秋 ○秋の末に寂然高野
に参て暮の秋によせておもひを述けるに
【目八オ】
Subtitle
冬部
Description
0617 0618
○長楽寺にて夜紅葉を思ふといふことを ○時雨 △あつまやのあまり
0619 0620 0621
○山家時雨 ○閑中時雨 ○題しらす △夜時雨
0622 0623 0624
○落葉△あらしの庭 ○暁落葉 ○月前落葉
0625 0626 0627
○瀧上落葉 ○水上落葉 ○落葉網代にとゝまる
0628 0629-0630 0631
○草花野路落葉 ○山家落葉 二首 ○題しらす △深山辺里
0632-0633 0634
○冬のうたよみけるに △なには江の霜 ○水辺寒草
△をみなへしの霜
0635-0637 0638 0639
○枯野の草 三首 ○山家枯草 ○野の枯草 双林寺にて
0640 0641 0642
○氷留山水 ○瀧上氷 ○氷筏をとつ
0643:
○世をのかれてくらまの奥に侍りけるに懸樋の氷て水まてこさりけれは
0644-0648 0649
○千鳥 △潟千鳥 △迫門ーー△河ーー ○題しらす △嶋千鳥
△汀ーー △湊ーー 等 五首
【目八ウ】
0650-0651 0652 0653
○月かれたる草を照す○しつかなるよの冬月○庭上冬月
二首
0654-0655 0656 0657
○山家冬月 二首 ○舟中霰 ○深山霰
0658 0659-0660 0661
○桜の木に霰のたはしる○題しらす△山家霰○冬の歌よみける中に
二首
0662 0663
△初雪 ○題しらす△山桜の雪○夜初雪
0664 0665 0666
○庭雪似月 ○枯野雪 ○雪道を埋む
0667 0668
○雪埋竹 ○仁和寺の御むろにて山家閑居見雪といふことを
0669 0670 0671
○山居雪 ○雪朝待人 ○雪朝会友
0672 0673
○雪の朝霊山と申所にて眺望を ○社頭雪
0674:
○加茂の臨時の祭かへり立の御神楽土御門の内裏にて侍り
0675-0682
けるに竹のつほに雪のふりたりけるを ○雪の歌よみけるに
0683-0685
△山雪 △旅雪 △苔雪 △山家雪 ○題しらす△山雪
△雪似卯花△閑居雪 △かしきそりの歌 等八首 △山路雪
【目九オ】
0686-0695
△きその雪 等三首 ○百首歌中雪十首 △杣雪 △山里ー
△湊ー △筏ー
0696-0697
△梢ー △大原ー △比良雪 ○大原寂然入道贈答
△閑居ー △雪述懐 等
0698:
○秋の頃高野へ参るへきよしたのめて参らさりける人の許へ雪降て後申遣しける
0699:
○雪に庵うつもれてせむかたなく面白かりける今もきたらはとよみけむ
を思ひ出てみけるほとに鹿の分てとほりけるをみて
0700-0709
○冬歌十首よみけるに△山家閑 △山里冬月△芦の丸やの冬△池の氷
△河氷 △浦千鳥 △山家霰 △湖の氷
0710 0711-0712
△みよしのゝ雪 ○鷹狩 ○雪中鷹狩 二首
△山家烟
0713 0714 0715
○月前炭竃 ○山里冬深 ○山里冬
0716 0717-0719
○冬のうたよみける中に △冬山里 ○題しらす △山家嵐
△山家風
0720 0721
△山風 等 三首 ○山家歳暮 ○東山にて人々年の暮
0722-0723
に思ひを述けるに ○年の暮にあかたより都なる人のもとへ申
【目九ウ】
0724
つかはしける△山家歳暮 ○歳暮に人の許へつかはしける
△残紅葉 等
0725:
○つねなきことをよせて △歳暮述懐
Subtitle
離別部
Description
0726:
○あひしりたりける人のみちのくへまかりけるに別の歌よむとて
0727:
○とし頃申なれたりける人に遠く修行するよし申て罷た
りける名残多くて立けるに紅葉したりけるをみせまほし
くて侍つるかひなくいかにと申けれは木の本に立寄てよみける
0728:
○遠く修行に思立侍りけるに遠行の別と云ことを人々よみ侍しに
0729:
○年久しくあひたのみたりける同行に放れて遠く修行して
かへらすもやとおもひけるに何となく哀にて
【目十オ】
0730:
○遠く修行することありけるに斎院の前斎宮にまいり
たりける人々別のうたつかふまつりけるに
0731:
○同折つほの桜の散けるをみてかくなむ覚え侍ると申
0732
ける ○かへしせよとうけたまはりて扇に書て
さしいてける 女房六角局
Subtitle
羇旅部
Description
0733:
○嵯峨に住ける頃隣の坊に申へきこと有て罷けるに道も
0734
なく葎のしけりけれは ○しほ湯にまかりたりけるにくしたりける人
九月晦日にさきへのほりけれはつかはしける人にかはりて
0735 0736
○かへし 大宮女房 ○しほ湯出て京へ帰りまうてきて
加賀
【目十ウ】
古郷の【花】霜かれにけり哀なりける急帰りし人の許へ又かはりて
0737 0738
○かへし をなし人 ○八月つきの頃よふけて北白川へまかりける
よしある様なる家に秋風楽と申ことの音の聞えけれは
0739-0743
○新院さぬきにをはしましけるに便に付て女房のもと
0744
より 贈答 五首 ○山里にまかりて侍けるに竹の風の荻に
0745
まかひて聞えれは ○世をのかれてさかに住ける人のもと
にまかりて後世のことをこたらすつとむへきよし申て
0746-0747 0748 0749
○題しらす△草庵風 ○海辺重旅宿 ○寒夜旅宿
△野閑居
0750 0751-0752
○旅にて晩鐘を聞て ○旅の泊にて △月の歌 二首
0753:
○四国のかた修行しけるとて仁和元年十月十日のよ賀茂に参りて
0754 0755-0760
○題しらす△ふしみ過ひの○うち川をくたりける云云 六首
まて行てのうた
【目十一オ】
0761
△猟船 △ふしつけ△たな井 ○天王寺へ参りけるとて天川と申
△** △*なは △鱸釣船
0762-0763
所にて昔を思出て ○天王寺へ参りけるとて江口と申所にて贈答
0764:
○天王寺へ参りて松に鷺の居たりけるを月の光にみて
0765 0766
○天王寺へ参りて亀井の水をみて ○六波羅太政入道持經
者千人集て津の国和田と申所にて云云万燈会しけり夜更る
0767
まゝに灯の消けるを各ともしつきけるをみて○あかしに人をまちて
0768
日数へにけるに ○はりまの書写へ参るとて野中の清水をみて
0769:
○四国のかたへ具してまかりたりたる同行の都へかゑりけるに
0770 0771-0774
○いつか都へはかゑるへきなと申けれは ○旅の歌よみけるに
0775-0784
△旅宿露 △山霞 ○讃岐の国へまかりてみの津に着て月の
△海月 等 四首
あかゝりけれは云云 △月前鳥 △月前袂 △月前袖 △月前雲
いつれも月を*する歌すへて 十首
【目十一ウ】
0785-0786
○さぬきの松山に詣て院の御跡を尋て △松山の波云云
二首
0787 0788-0791
○しろみねと申所の御はかに参りて ○同し国に大師のをは
しましける御あたりの山に庵むすひて △海月 △閑栖隣
△庵前松 等 四首
0792-0798
○雪の降けるに △山路雪 △松雪 △月前雪 △雪似梅
△*路雪 △各雪 △**氷 等 七首
0799 0800-0801
○花をしきに霰の降かゝりけれは ○大師のうまれさせ給
0802-0803
ひしと申所にて△しるしの木△あか井の月 ○まむたら寺の行道
等 二首
0804
ところへのほりて △法依随喜 ○備前国小嶋と申
△筆の山 等 二首
0805
嶋にわたりあみと申物をとる所にて ○ひゝのしふかはと申方
0806-0807
へまかりてつみと申物をひろふをみて ○まなへと申嶋に京
よりあき人とものくたりてしはくの嶋に渡るときゝて △つみの
うた
0808-0809
△かき蛤の歌 ○うしまとのせとにてあまの云云 △さたえ
等 二首 △あはひ 等二首
【目十二オ】
0810-0813 0814
○題しらす 四首 △小鯛ひく△桜鯛 ○国々めくり春帰り
△小にし蛤△いそな 等
0815
て吉野の方へまからむとしけるに ○西国のかたへ修行し
侍とてみつのと申所の同行をいさなひけれとゆかさりけれは
0816:
○西国へ修行してまかりける折小嶋と申所の八幡にて
0817:
○あきの一宮へ詣けるにたかとみの浦にて苫もる月をみて
0818 0819-0821
○詣つきて月をみて ○つくしのはらかと申いを
0822
をつる所にて △三首 ○りうもむにまいるとて
0823-0834
○承和元年六月一日院熊野へまいらせ給ひけるついてに
0825
住吉に御幸ありけるをみて 二首 ○夏熊野へ参りけるに岩田と申
0826
所に涼て*の同行のもとへ ○かつらきを尋けるに折にもあらぬ紅葉をみて
0827:
○熊野へ参りけるにやかみの王子の花をみて △みすの山風をよめり
【目十二ウ】
0828:
○那智にこもりて瀧に入堂し*の花をみて
0829 0830-0831
○熊野へ参りけるになゝこしの嶺の月をみて○新宮より
伊勢のかたへまかりけるにみきしまにて白髪の海人をみて 二首
0832 0833
○みたけよりさうの岩屋へ参りたりけるに ○をさゝのとまりと申所
0834-0836
にて露を ○大峯のしむせむと申所にて月をみて△深山月
△嶺の月
0837 0838
△各月 ○をは捨と申所にて月をみて ○こいけと申すくにて
等 三首
0839
月をみて ○さゝのすくにて月をみて
0840:
○へいちと申すくにて月をみけるに露の袂にかゝりけれは
0841-0842
○あつまやと申所にて時雨ののちの月をみて 二首
0843 0844
○ふるやと申すくにて月をみて ○平等院の名かゝれたる
0845
そとはに紅葉の散かゝりけるをみて ○ちくさのたけにて
【目十三オ】
0846 0847
○ありのと渡りと申所にて ○行者かへりちこのとまり屏風た
0848
てなと申所にて ○三重の瀧ををかみて △三業の歌
0849:
○転法輪のたけと申所にて釈迦の説法の座の石と申を拝て
0850 0851
○題しらす△近江やす○伊勢のかたへまかりけるにすゝか山にて
かはらの歌
0852 0853
○太神宮に参りて ○伊勢にまかりて月をみて
0854 0855-0858
○錦のしまの磯わの紅葉の散けるを ○いせのたうししま
0859
すか嶋と申所にて △こいしの ○伊勢のふたみの浦にてかひあ
歌 四首
0860
はせのためのはまくりひろふと申を聞て ○いらこへわたりゐかひ
0861
あこやなととるをみて ○かつを釣舟の帰るをみて
0862-0863
○ふたつ有けるたかのいらこわたりすと申けるか云云 △たかの歌 二首
0864 0865-0866
○するかの国くのゝ山寺にて月をみて ○みちのくのたわしのねと
【目十三ウ】
0867
申山の桜の花をみて 二首 ○みちのくにまかりたりけるに実
0868
方中将の御はかをみて ○みちのくへまかり白川の関に
0869
とまりて ○さきにいりてしのふと申渡りにて
0870 0871
○たけくまの松の跡をみて ○しのふの奥に侍りける社の紅葉をみて
0872 0873
○をもはくの橋と申にて紅葉をみて ○下野の国にて柴のけふ
0874
りをみて ○名とり河にて岸の紅葉をみて
0875 0876
○十月十二日衣河みにまかりて ○陸奥国にてとしの暮に
0877-0878
○又のとし三月に出羽国へこえてたきの山と申山寺にて △さくら
△旅宿風
0879 0880
○修行し侍るに花をもしろかりける所にて ○修行して遠くまか
りけるをり人の思ひへたてたるやうなることの侍りけれは
0881-0882
○秋遠く修行し侍ける程に侍従大納言成道*贈答
【目十四オ】
0883-0884
○みやたてと申けるはした物花と申くた物を送ける贈答
0885-0886 0887
○雪ふかゝりける頃時忠*贈答 ○寒かりける頃宮法印高野にこも
0888-0889
らせ給て小袖給はせたりける又の朝申遣ける○宮法印高野に
こもらせ給千日果てみたけに参らせ給ていひつかはしける贈答
0890:
○待賢門院の中納言の局世をそむきて小倉山の麓に住ける
0891 0892-0893
をとふらひて ○此歌をみて同院兵衛局の詠○同院の帥
の局ともなひて***ふるさ吹上**にて時雨を祈歌 二首
0894-0895 0896
○待賢門院の女房堀川の局贈答 ○深夜水
0897-0898
声といふことを高野にて ○高野の奥の院の橋の上にて
0899-0918
月をみて西住上人、贈答 ○入道寂然大原に住けるに高
野よりつかはしける贈答 二十首△山ふかみと初句にすゑて十首を
【目十四ウ】
をくられけるに△谷川水 △山月△はし紅葉△ましら△とちひろふ
△ふくろふ△嶺嵐△斧の音 △山家*△かせき
△】
○大原の里と*句の置て十首かへされけるに△暮秋哀△朧清水
△炭窯烟△引板露
0919
△山家枕△草庵露△さゝくり ○高野にこもりたりける頃草庵に
△***△落葉深△暮秋鹿
0920
花の散つみけれは ○高野より都なる人の許へいひつかはしける
0921:
○思はすなること思ひ立よし聞えける人の許へ高野よりつかはしける
0922:
○高野にこもりたる人を京よりいつか出へきと申たる由聞て其人に
かはりて
Subtitle
賀歌
Description
0923:
○むまこまうけて悦ける人のもとへいひつかはしける
0924-0936
○祝 △雨によす △年に △苔に △鶴に 二首 △海に
△松に すみのえ かめ山 ひらの 等△星に △日に
△竹に 等 十三首
【目十五オ】
Section
山家集類題上巻目録
Subtitle
恋部
Description
0937 0938
○名を聞て尋恋 ○自門帰恋
0939 0940-0943 0944-0945
○涙顕恋 ○夢会恋 四首 ○後朝恋 二首
0946 0947 0948
○後朝時鳥 ○後朝花橘 ○後朝霧
0949 0950-0951 0952
○帰る朝時雨 ○逢てあはぬ恋 二首○恨恋
0953 0954
○ふたゝひ絶恋 ○商人に文をつくる恋
0955 0956
○海路恋 ○九月ふたつ有ける年閏月を忌恋
0957:
○御あれの頃賀茂にてさうしに憚恋
0958 0959
○同社にて神に祈恋 ○かものかたにさゝきと申里に
0960 0961-0962
て山里の恋 ○寄糸恋 ○寄梅恋 二首
【目十五ウ】
0963-0964 0965 0966
○寄花恋 二首 ○寄残花恋 ○寄帰雁恋
0967 0968 0969
○寄草花恋 ○寄鹿恋 ○寄苅萱恋
0970 0971 0972
○寄霧恋 ○寄紅葉恋 ○寄落葉恋
0973 0974 0975
○寄氷恋 ○寄水鳥恋 ○月 △寄月待恋
△寄月*恋
0976-1011
△忍恋あまたあり △弓はりによす △別恋 △涙に 数首
△よな/\忍恋 △依月思をそふ △入さの月△*に
△袂によす あまた有△くもれる月に △心から月をうつす
△袖によす あまた有△もりによす △有明によす 等 三十七首
1012-1071
○恋 △身を恨恋△*思 △忍恋 △***恋 △川によす
△経年恋 △恨あまた有△**△岩代の松に△しのたの杜に
△*に △逢てあはぬ△*に△*****いひてあはぬ△井に
△不二に△あまに △あいの中山に △煙に △関に△しは鳥に
△夢に会 △夢を俟 △夏草に △紅に △荻風に △露に
△みるめに△渕に △来世を △暁のかねに 等 六十首
1072-1181
○恋百十首 △池によす△忍恋 △市に △**に数多有
△梅に △露に △五月雨に△七夕に
△花に △夕立に △*風に △川にあまたあり △鴫に
△恨あまたあり △枕に △露に △浦に △山に
【目十六オ】
△うたかたに△祈 △衣にあまたあり △涙にあまたあり
△命にあまたあり △思 あまたあり △煙に △ふしに
△瀧にあまたあり △蓑に △をさなひて恋 △児めきて恋
△涙に △かけみちに△葛に △もに住虫△空蝉に △小芹に
01182
△依恋世をいとふ 等○みなつき晦日に人にかはりて
1183-1192
○百首歌の中恋十首 △なつなに △紅に △思
△しけめゆい△松に △月に
△衣に
△千鳥に 等
Subtitle
雑部
Description
1193:
○東山にあみた房と申ける上人の庵室にまかりて
1194:
○世をのかれけるをりゆかりなりける人のもとへいひ送りける
1195-1202
○題しらす △山家つゝら△山家苔 △しるしの竿△かさとり山の雨
△杣か家 △杣くたす△山家草 等 八首
1203 1204 1205-1209
○山寺の夕暮 ○夕暮山路 ○題しらす △鳩
△鷺の村鳥
【目十六ウ】
1210-1212
△をし △つる ○ことりのうた △ひはの村鳥△てりうそ
△水乞鳥 等 五首 △こから 等 三首
1213-1214
○屏風のゑに海のきはにをさなき賎しきものある所 以上 二首
1215-1226
○題しらす △海上眺雲△くま山をろし△磯わの神△いせの浜荻
△荒磯松 △浦松風 △あはちのせとあまたあり
1227 1228-1240
△ひたのひくしほ △あさつま舟 ○竹風驚夢 ○題しらす
△いふきをろし 等 十二首
△風** △あらし △松風 △こからし△嶺あらし△暁あらし
△山家* △晩鐘 △ひくらしの声△谷松 △夕日の山△岩井の水
1241
△庵水音 等十三首 ○八条院の宮と申ける折白川殿にてむし
1242ー
あはせられける云云水に月のうつりたるを ○内に貝あはせせむと
せさせ給ふけるに人にかはりて △小貝ひろふ △須崎の小貝
△みしまえの桜貝△衣浦の袖貝
1251-1260
△吹上の簾貝△色浜ますを貝△竹泊雀貝○百首歌中雑十首△沢のちどり
△しらゝ浜烏貝△貝によす祝 等 九首 △湊のふね
1261-1263
△よしのゝ瀧△岡への松△山家暮秋△しつはらの里△山家風○庚申のよ
△詠月 △芦やの沖の舟△さゝかにの糸 等
くしにて詠 三首 △古今集梅によす △後撰集桜によす
△拾遺集山吹によす 以上物名
【目十七オ】
1264 1265-1269
○月蝕をよめる ○題しらす △ゑそか千嶋 △ものゝふ
△壺の石ふみ △鳥の歌 等 五首
1270:
○年頃聞渡りける人に初て対面申て帰る朝に
1271:
○同行に侍ける上人月の頃天王寺に籠りたりと聞て遣しける
1272-1273
○堀河の局仁和寺に住侍けるに参へきよし申て程へにける
月の頃まへを通りけれは聞えける贈答
1274:
○ゆかりなくなりて住うかれ古郷へ帰りける人のもとへ
1275:
○ある人よをのかれて北山寺にゐたりけるを尋て
1276:
○ある宮はらにつけつかへ侍りける女房よをそむきて都は
なれて遠くまからむと思立参らせけるにかはりて
1277-1278
○侍從大納言成道のもとへ後の*をとろかし申たりける贈答
1279-1280
○中院右大臣出家思立よしかたらひて後贈答
【目十七ウ】
1281-1282
○爲なりときはに堂供養しけるのち贈答
1283-1288
○ある人さまかへて仁和寺の奥に住たりけるを尋てあはさ
りけれは其後人つかはして申たる贈答 六首
1289-1290
○後の世のこと無下にをもはすしもなしとみえける人へ贈答
1291-1292
○ある所の女房世をのかれて西山に住侍けるを尋て贈答
1293:
○阿闍梨兼堅よをのかれてのち仁和寺に出て僧綱に
1294-1297
なりぬと聞て遣しける ○新院歌あつめさせをはし
ますと聞て大原の寂然寂超相空等贈答 四首
1298-1299 1300-1301
○をなし頃右大将きむよし贈答 ○俊成歌あつめらるゝ
1302-1303
と聞て歌つかはすとて贈答 ○院少納言の局此集
1304
をみて贈答 ○范蠡かちやうなむのこゝろを
【目十八オ】
1305:
○世につかうへかりける人のこもりゐたりけるもとへ遣しける
1306:
○人あまたしてひとりにかくしてあらぬさまにいひなしける
1307:
○世の中に大事いてきて新院あらぬさまにならせをはしまし
1308-1315
仁和寺の北の院にをはしましけるを尋参りて ○さぬきにさそらひ
侍て後御心ひきかへ後の世の御つとめせさせ給ふと聞て女
1316-1317
房の許へ贈答 八首 ○ゆかりありける人の新院のかむたう
なりけるをゆるしたまはりなむよしを申て御贈答
1318-1319
○さぬきへをはして後歌といふことのよに聞えさりけれは寂然と贈答
1320:
○新院位にをはしましけるをりみゆきのすゝのろうを聞て
1321 1322-1326
○述懐 ○心に思ひけることを△月に △こゝろの月
△終に行道△こゝろのし
1327-1331 1332
△枝なき木 ○五首述懐△山に ○寄藤花述懐
等 五首 △露に 等
【目十八ウ】
1333 1334-1336
○花立花によせて述懐 ○題しらす △しの竹に△はせをに
△はまゆふに 等 三首
1337 1338-1343
○老人述懐 ○題しらす △時雨に △涙に △せりに
△花に △朝顔に △かけ橋 等 六首
1344 1345
○故郷述懐 ○大原の良暹の庵にて述懐
1346:
○周防内侍我さへ軒のと書付ける古郷にて述懐
1347-1355
○百首歌の中述懐十首 一首 △嶺に △山にあまたあり
不足 △月に △ぬさ 等
1356 1357-1383
○七月十五日舟岡と申所にて ○題しらす △山に
△かゝみに
1384
△露にあまたあり △竹に △月に △ぬえに ○泉のぬし
△夢にあまたあり △しての山 等 二十七首
かくれ侍て後泉に向てふるきをおもふといふことを
1385 1386
○友にあひて昔をこふる ○題しらす △花立花に昔をしのふ
1387 1388-1389
○寄紅葉懐旧 ○十月中の十日頃法金剛院にて紅葉みける
に上西門院をはしますよし聞て待賢門院の御時思ひ出られて兵衛の
【目十九オ】
1390-1394
局にさしをかせける贈答 ○題しらす △かねに △古郷蓬
△古郷の人 等 五首
1395 1396
○さかのゝみしよにもかはりけれは○大覚寺の金岡かたてたる石を
1397
みて ○瀧のわたりこたちあれて松斗並立けるを
1398:
○瀧殿の石とも閑院にうつされけると聞てみにまかりて
Subtitle
哀傷部
Description
1399:
○例ならぬ人の大事なりけるかう月に梨の花の咲たるをみて
なしのほしきよしねかひけるに或人かしはにつゝみてつかはしたる返ことに
1400-1401 1402-1403
○あき頃風わつらひける人を訪て贈答 ○院の小侍従例ならぬ
こと大事と聞て訪ひけれは少しよろしくて人にもきかせぬ和琴の
1404-1408
手ひきならしけるを聞て贈答 ○風わつらひて山寺へか
【目十九ウ】
1409
えり入けるを人々訪て 五首 ○同行にて侍りける上人例ならぬこと
1410-1411
大事に侍けれは ○待賢門院かくれさせをはしましける御跡に
1412
て堀河の女房の許へ贈答 ○近衛院の御墓に参りて
1413:
○一院かくれさせをはしまして御所へ渡し参らせけるよ参り合
1414 1415
せて ○をさめ参らせける所へ参らせけるに ○納参らせて後
1416-1419
○右大将きむよし父のふくのうちに母なくなりぬと聞て 贈答
四首
1420:
○母なくなりて山寺にこもりゐたりける人を程へて人のとひたり
1421
けれはかはりて ○ゆかりありける人はかなく成けるわさにとりへ
1422
山へまかりて帰るに ○父のはかなくなりにけるそとはを見て
1423:
○おやかくれたのみたりけるむこうせ又程なく娘にさへをくれけり
1424
と聞て ○五十日の果つかたに二條院の御墓に参りて
【目二十オ】
1425-1426
○御跡に三河内侍さふらひける九月十三夜人にかはりて贈答
1427:
○親にをくれて歎ける人を五十日過まてとはさりけれはあやしまれ
1428
ける人にかはりて ○ゆかりにつけて物を思ひける人のもとより
1429
なとかとはさらむとある返ことに ○はかなくなりてとしへにける
人のふみを物の中よりみ出て人の許へみせにつかはすとて
1430-1433
○同行に侍ける上人をはり思ふさまなりと聞て △寂然贈答 四首
1434-1437
○侍従大納言入道はかなくなり給ひて云云贈答 四首
1438-1439 1440-1441
○同日のりつなのもとへ贈答 ○おなしさまに世をのかれて
大原に住ける妹のはかなくなりけるをとふ贈答
1442-1451
○院の二位の局身まかりける跡にとをのうた人々よみけるに
△うたかたに △末のつゆもとのしつく △露に △舟岡のすそのつか
△浅ちか原 △わすれかたみ △古郷云云 △しての山 △七日の数 等
【目二十ウ】
1452-1457
○跡のことゝも果てなかのり院の少納言局等 贈答六首
1458-1468
○兄の入道想空はかなくなりける頃寂然より五首ををくる
1469
かへし五首 付ニ一首 ○はかなくなりける人の跡に五
十日のうち一品経供養しけるに化城喩品を
1470:
○なき人の跡に一品経供養しけるに寿量品を
1471 1472
○秋ものへまかりける道にて △心なきみにも ○とりへ山にて
あはれは云云
とかくのことしける月をみて諸行無常のこゝろを
1473 1474-1481
○暁の無常 ○無常の歌あまたよみける中に △露に
△夢に
1482-1491
△塚夕暮 △舟に △山に ○百首歌の中無常十首
△蓮臺野 等 八首
△夢に △さゝかにの糸 △露に △燈に
△いろくつに△大網に △浦嶋の箱 等
【目二十一オ】
Subtitle
釈教部
Description
1492:
○心さすことありて扇を仏に参らせけるに新院より給ける
1493
女房承てつゝみ紙に ○御かゑし承りける
1494 1495
○仁和寺の宮にて道心逐年深 ○同夜閑中暁心
1496-1497 1498-1499
○寂超入道談議すと聞て贈答 ○さたのふ入道觀音寺に
1500-1501
堂つくり結縁すへきよし申て贈答 ○阿闍梨勝命千人
あつめて法華経結縁せさせけるに参りて後つかはしける 二首
1502-1503
○世につかへぬへきやうなるゆかりあまたある人さもなかりけるを
思ひて清水に年越にこもりたりけるに遣しける 二首
1504 1505
○心性さたまらすといふことを ○懴悔業障といふことを
1506 1507
○遇教待龍花といふことを ○日のいるつゝみのことし
【目二十一ウ】
1508 1509 1510
○見月思西 ○暁念仏 ○易往無人
1511 1512
○人命不停速於山水 ○菩提心論の乃至身命而不恍惜
1513 1514 1515-1516
○疏文の心自悟心自証心 ○観心 ○序品 二首
1517 1518
○方便品深著於五欲 ○譬喩品
1519 1520-1522 1523
○五百弟子品 ○提婆品 三首 ○勧持品
1524-1525 1526 1527
○寿量品 二首 ○一心欲見仏 ○神力品於我滅度後
1528 1529 1530
○普賢品 ○心経 ○無上菩提の心を
1531 1532-1537
○和光同塵は結縁のはしめといふことを ○六道のうたよみけるに
1538-1547
△地獄 △餓鬼 △畜生 ○百首歌の中釈教十首
△修羅 △人 △天
△きりきわうの夢 三首 △無量義経 三首
△千手経 四首
【目二十二オ】
Subtitle
神祇部
Description
1548 1549-1550
○月の夜かもに参りて ○題しらす △みあれのしめ
△里人の大ぬさ小ぬさ 等二首
1551:
○俊惠天王寺にこもりて人々具して住吉に参りて歌よみけるに
1552:
○伊勢に斎宮をはしまさてあれたりけるをみて
1553-1554
○斎院をりさせ給て本院のまへを過けるにあはれなることの侍り
1555
けれはせむしの局のもとへ遣しける贈答 ○斎院をはしまさぬ
ころにて祭のかへさもなかりけれは紫野を通るとて
1556-1557
○北まつりのころかもにまいりたりけるに何ことも昔にかはりたる
1558 1559
をみて 二首 ○神楽に星を ○百首歌の中神祇
十首 △神楽 二首 △賀茂 二首 △男山 二首
△熊野 二首 △みもすそ 二首
【目二十二ウ】
【白紙】
【上一オ】
Section
山家集類題巻上
Subtitle
春歌
0001:1076
としのうちに春たちて雨のふりけれは
春としも猶をもはれぬ心かな雨ふるとしの心ちのみして
0002:1075
山こもりして侍けるに年をこめて春に成ぬと聞けるからにかすみ
わたりて山河の音ひころにも似す聞えけれは
かすめとも年のうちとはわかぬまに春をつくなる山川の水
0003:1080
山ふかく住侍けるに春立ぬときゝて
山路こそ雪の下水とけさらめ都の空は春めきぬらむ
0004:0008
山さとにはるたつといふことを
山さとは霞わたれる気色にて空にや春の立をしるらむ
【上一ウ】
0005:0009
難波わたりに年超に侍けるに春立心をよみける
いつしかも春きにけりと津の国の難波のうらを霞こめたり
0006:0010
春になりけるかたゝかへにしかのさとへまかりける人にくしてまかりけ
るにあふ坂山の霞たりけるをみて
わきてけふあふ坂山のかすめるはたちおくれたる春やこゆらむ
0007:0001
立春の朝よみける
年くれぬ春くへしとは思ひねにまさしくみえてかなふ初夢
0008:0002
山のはのかすむけしきにしるき哉今朝よりやさは春の明ほの
0009:0003
春たつと思ひもあへぬ朝戸出にいつしかかすむ音羽山哉
0010:0004
たちかはる春をしれともみせかほに年をへたつる霞なりける
0011:0005
とけそむるはつ若水のけしきにて春立ことのくまれぬるかな
【上二オ】
0012:1078
春立ひよみける
何となく春になりぬときくひより心にかゝるみよしのゝ山
0013:1079
正月元日雨ふりけるに
いつしかも初春雨そふりにけるのへの若なも生やしぬらむ
0014:0006
家々に春を翫といふことを
門ことにたつる小松にかさゝれて宿てふやとに春はきにけり
0015:0011
はるきて猶雪
かすめとも春をはよその空にみてとけむともなき雪の下水
0016:0981
題しらす
春浅みすゝのまかきに風さえてまた雪消ぬしからきの里
0017:1082
さかにまかりたりけるに雪ふりかゝりけるをみをきて出しことなと申
つかはすとて
をほつかな春の日数のふるまゝにさかのゝ雪は消やしぬらむ
【上二ウ】
0018:1083
かへし 静忍法師
立帰り君やとひくと待ほとにまた消やらすのへのあは雪
0019:0012
題しらす
春しれと谷の下水もりそくる岩まの氷ひま絶にけり
0020:0999
小せりつむ沢の氷のひまたえて春めき初るさくらゐの里
0021:1000
【の】
くる春は嶺の霞をさきたてゝ谷けかけひをつたふ也けり
0022:0990
雪とくるしみゝにしたく唐崎の道行にくきあしからの山
0023:0007
元日子日にて侍りけるに
子日してたてたるまつにうへそへむちよかさぬへき年のしるしに
0024:0016
子日
春ことにのへの小松を引人はいくらのちよをふへき成らむ
0025:0017
子日する人に霞はさき立て小松かはらをたなひきにけり
0026:0018
子日しに霞たなひくのへに出て初うくいすの声をきく哉
【上三オ】
0027:1201
五葉の下にふたはなる小松ともの侍けるを子日にあたりける
〔うイ〕
ひをりひつにひきそへてつかはすとて
君かためこえうの子日しつる哉たひ/\ちよをふへきしるしに
0028:1202
たゝの松ひきそへてこの松の思こと申へくなむとて
子日するのへの我こそぬしなるをこえうなしとて引人のなき
0029:0021
若菜
春日野は年のうちには雪つみて春は若菜のをふる也けり
0030:0020
雪中若菜
けふはたゝ思ひもよらて帰りなむ雪つむのへの若な也けり
0031:0022
雨中若菜
春雨のふるのゝ若な生ぬらしぬれ/\つまむかたみ手ぬきれ
0032:0019
わかなに初子のあひたりけれは人のもとへ申つかはしける
わかなつむ今日に初子のあひぬれは松にや人の心ひくらむ
0033:0023
若莱によせてふるきををもふといふことを
【上三ウ】
わかなつむのへの霞そ哀なる昔を遠く隔つと思へは
0034:0024
老人の若菜といへることを
卯杖つき七草にこそ出にけれ年をかさねてつめる若なに
0035:0025
寄若菜述懐といふことを
若な生る春ののもりに我なりてうき世を人につみしらせはや
0036:1077
野に人あまた侍けるをなにする人そと聞けれはなつむものなり
〔にイ〕
とこたへけるにとしのうちに立かはる春のしるしの若なか
さはとをもひて
としははや月なみかけて越にけりむへつみけらしゑくのわか立
0037:1452
題しらす
【ゑ】
沢もとけすつめとかたみにとゝまらてめにもたまらぬえくのくさくき
0038:0014
海辺の霞といふことを
【上四オ】
もしほやく浦のあたりは立のかて烟あらそふ春霞かな
0039:0015
〔にイ〕
おなし心を伊勢のふたみといふ所にて
波こすとふたみの松のみえつるは梢にかゝる霞なりけり
0040:0786
霞によせてつれなきことを
なき人をかすめる空にまかふるは道をへたつる心なるへし
0041:0738
世にあらしとをもひける頃東山にて人々霞によせて思ひを
のへけるに
空になる心は春の霞にてよにあらしとも思ひたつ哉
0042:0739
おなし心をよみける
世をいとふ名をたにもさはとゝめ置て数ならぬ身の思ひ出にせむ
0043:0013
題しらす
かすますは何をか春と思はましまた雪消ぬみよしのゝ山
0044:0037
梅を
かにそまつ心しめ置梅の花色はあたにも散ぬへけれは
【上四ウ】
0045:0038
山里の梅といふことを
かをとめむ人をこそまて山里のかきねの梅のちらぬ限は
0046:0039
心せむしつか垣ほの梅はあやなよしなく過る人とゝめける
0047:0040
この春はしつかかきほにふれわひて梅かゝとめむ人したしまむ
0048:0046
旅のとまりの梅
ひとりぬる草の枕のうつりかは垣ねの梅の匂ひ也けり
0049:0047
古き砌の梅
何となく軒なつかしき梅故に住けむ人のこゝろをそしる
0050:0041
さかに住けるに道をへたてゝ坊の侍りけるより梅の風にちり
けるを
ぬしいかに風渡るとていとふらむよそにうれしき梅の匂を
0051:0042
庵の前なりける梅をみてよめる
【上五オ】
梅かゝを山ふところに吹ためて入こむ人にしめよ春風
0052:0043
いせのにしふく山と申す所に侍りけるに庵の梅かうはしくにほひ
けるを
柴の庵による/\梅の匂ひきてやさしきかたも有住ひ哉
0053:0027
閑中鴬といふことを
鴬のこゑそ霞にもれてくる人めともしき春の山里
0054:0028
雨中鴬
うくひすの春さめ/\と鳴ゐたる竹の雫や涙なるらむ
0055:0029
すみける谷に鴬の声せすなりにけれは
ふるすうとく谷の鴬なりはては我やかはりて鳴むとすらむ
0056:0030
鴬は谷のふるすを出ぬともわか行方をはわすれさらなむ
0057:0031
うくいすは我をすもりにたのみてや谷の外へは出て行らむ
0058:0032
春のほとはわかすむ庵の友になりて古巣な出そ谷の鴬
【上五ウ】
0059:0026
鴬によせておもひをのへけるに
うき身にて聞くもをしきは鴬の霞にむせふ曙のこゑ
0060:0044
梅に鴬の鳴けるを
梅かゝにたくへて聞は鴬の声なつかしき春の山さと
0061:0045
つくり置し梅のふすまに鴬は身にしむ梅のかやうつすらむ
0062:1006
題しらす
山ふかみ霞こめたる柴の庵にことゝふものは谷の鴬
0063:1007
過て行羽風なつかし鴬のなつさひけりな梅の立枝を
0064:1008
鴬は田舎の谷のすなれともたみたる声はなかぬ也けり
0065:1009
鴬の声にさとりをうへきかは聞嬉しさもはかなかりけり
0066:1084
鳴たえたりけるうくひすの住侍りける谷に声のしけれは
思ひ出て古巣にかへる鴬は旅のねくらや住うかるらむ
【上六オ】
0067:1081
深山不知春といふことを
雪分てとやまか谷の鴬は麓のさとに春やつくらむ
0068:0055
山里の柳
山かつのかた岡かけてしむる庵のさかひにたてる玉のを柳
0069:0056
柳風にみたる
み渡せはさほのかはらにくりかけて風によらるゝ青柳の糸
0070:0057
雨中柳
中々に風のをすにそ乱ける雨にぬれたる青柳のいと
0071:0058
水辺柳
水底にふかきみとりの色みえて風に浪よる河柳かな
0072:0163
さはらひ
なをさりに焼捨てしのゝさはらひは折人なくてほとろとやなる
0073:0054
霞に月のくもれるをみて
雲なくてをほろなりともみゆる哉霞かゝれる春のよの月
0074:0048
山さとの春雨といふことを大はらにて人々よみけるに
春雨の軒たれこむるつれ/\に人にしられぬ人のすみかゝ
【上六ウ】
0075:0033
きゝすを
もえ出る若なあさると聞ゆ也ききす鳴のゝ春の曙
0076:0034
生かはる春の若草まちわひて原の枯野にきゝす鳴也
0077:0035
片岡にしはうつりして鳴きゝす立羽をとしてたかゝらぬかは
0078:0036
春霞いつち立出て行きにけむきゝすすむのを焼てける哉
0079:0051
帰雁
玉つさのはしかきかともみゆる哉とひをくれつゝ帰る雁かね
0080:0049
霞中帰雁といふことを
何となくをほつかなきは天の原霞にきえて帰る雁かね
0081:0050
かりかねは帰る道にやまとふらむこしの中山霞へたてゝ
0082:0052
山家よふことり
山さとに誰を又こはよふこ鳥ひとりのみこそすまむと思ふに
0083:1042
題しらす
ませにさく花にむつれてとふてふのうら山しきもはかなかりけり
【上七オ】
0084:1085
春の月あかゝりけるに花またしき桜のえたを風のゆるかし
けるをみて
月みれは風に桜のえたなへて花かとつくる心ちこそすれ
0085:0061
花を待心を
今さらに春を忘るゝ花もあらし安く待ちつゝけふもくららさむ
0086:0062
おほつかないつれの山の峰よりかまたるゝ花の咲はしむらむ
0087:0059
待花忘他といふことを
まつによりちらぬ心を山さくら咲なは花のおもひしらなむ
0088:1001
題しらす
春になる桜のえたは何となく花なけれともむつましき哉
0089:1002
空晴る雲なりけりなよしの山花もてわたる風とみたれは
0090:1003
さらに又霞にくるゝ山路哉花をたつぬる春のあけほの
0091:1004
雲もかゝれ花とを春はみて過むいつれの山もあたに思はて
0092:1005
雲かゝる山とは我も思ひ出よ花故なれしむつひ忘れす
【上七ウ】
0093:0060
独山の花をたつぬといふことを
誰かまた花を尋てよしの山苔ふみわくる岩つたふらむ
0094:0097
老木の桜の所々に咲たるをみて
わきてみむ老木は花も哀也今いくたひか春にあふへき
0095:0096
老見花といふことを
老つとに何をかせまし此春の花待つけぬ我身なりせは
0096:0095
春は花を友といふことをせか院のさい院にて人々よみけるに
をのつから花なきとしの春もあらは何につけてか日をくらさまし
0097:0102
せか院の花盛なりける頃としたゝかいひ送りける
をのつからくる人あらはもろともになかめまほしき山さくら哉
0098:0103
返し
なかむてふ数に入る可身なりせは君か宿にて春はへなまし
---- 上七
0099:0104
上西門院女房法勝寺の花みられけるに雨のふりて暮にけれ
は帰られにけり又の日兵衛の局のもとへ花の御幸をもひ出さ
せ給らむと覚てかくなむ申さまほしかりしとてつかはしける
みる人に花も昔を思ひ出てこひしかるへし雨にしほるゝ
0100:0105
返し
いにしへを忍ふる雨と誰かみむ花もそのよの友しなけれは
0101:0139
白河の花庭面白かりけるをみて
あたにちる梢の花をなかむれは庭には消ぬ雪そつもれる
0102:0138
庭の花波に似たりといふことをよみみけるに
風あらみ梢の花のなかれきて庭に波立つしら川のさと
0103:0099
山寺の花さかりなりけるにむかしを思ひ出て
よしの山ほきちつたひに尋入て花みし春は一むかしかも
0104:0106
わかき人々はかりなむ老にける身は風の煩しさにいと
はるゝことにて有けるなむやさしくきこえける雨の
ふりけるに花の下に車を立てなかめける人に
ぬるともとかけをたのみて思ひけむ人の跡ふむけふにもあるかな
0105:0107
世をのかれて東山に侍る頃白川の花さかりに人さそひけ
れはまかり帰りけるに昔をもひ出て
ちるをみて帰る心や桜花むかしにかはるしるしなるらむ
0106:0092
かきたえてこととはすなりにける人の花見に山さとへまうて
きたりと聞てよみける
年をへてをなし梢とにほへとも花こそ人にあかれさりけれ
0107:0093
花の下にて月をみてよみける
---- 上八
雲にまかふ花の下にてなかむれは朧に月はみゆるなりけり
0108:0094
春の明ほの花みけるに鴬の鳴けれは
花の色や声に染らむ鴬のなく音ことなる春のあけほの
0109:0098
屏風のゑを人々よみけるに春の宮人むれて花みける所に
よそなる人のみやりてたてりけるを
木のもとはみる人しけし桜花よそに詠て我は惜む
0110:1090
寂然もみちのさかりに高野に詣て出にける又のとしの
花のをりに申つかはしける
もみちみし高野のみねの花盛たのめし人の待るゝやなそ
0111:1091
かへし 寂然
ともにみし嶺のもみしのかひなれや花の折にもをもひ出ける
0112:0090
閑ならむと思ひける頃花見に人々のまうてきけれは
花見にとむれつゝ人のくるのみそあたら桜のとかには有ける
0113:0091
花もちり人もこさらむをりは又山のかひにてのとか成へし
0114:0063
花のうたあまたよみけるに
空に出ていつくともなく尋れは雪とは花のみゆる也けり
0115:0064
雪とちし谷の古巣を思ひ出て花にむつるゝ鴬のこゑ
0116:0065
よしの山雲をはかりに尋入て心にかけし花をみる哉
0117:0066
おもひやる心や花にゆかさらむ霞こめたるみよしのゝ山
0118:0067
をしなへて花のさかりに成にけり山のはことにかゝるしら雲
0119:0068
まかふ色に花咲ぬれはよしの山春は晴せぬみねの白雲
0120:0069
よしの山梢の花をみし日より心は身にもそはすなりにき
---- 上九
0121:0070
あくかるゝ心はさても山桜ちりなむ後や身にかへるへき
0122:0071
花みれはそのいはれとはなけれとも心のうちそくるしかりけり
0123:0072
白河の梢をみてそなくさむるよしのゝの山にかよふ心を
0124:0073
引かへて花みる春はよるはなく月みる秋は昼なからなむ
0125:0074
花ちらて月はくもらぬ世なりせはものを思はぬ我身ならまし
0126:0075
たくひなき花をし枝にさかすれは桜にならふ木そなかりける
0127:0076
身を分てみぬ梢なくつくさはやよろつの山の花のさかりを
0128:0077
桜さくよもの山辺をかぬるまにのとかに花をみぬ心ちする
0129:0078
花にそむ心のいかて残けむすてはてゝきとをもふわかみに
0130:0079
白河の春の梢のうくひすは花のことはをきくここちする
0131:0080
ねかはくは花の下にて春しなむその二月のもちつきのころ
0132:0081
仏には桜の花を奉れわかのちの世を人とふらはゝ
0133:0082
何とかや世にありかたき名をしたる花に桜にまさりしもせし
0134:0083
山桜かすみの衣あつくきて此春たにも風つゝまなむ
0135:0084
思ひやる高ねの雲の花ならはちらぬ七日ははれしとそ思ふ
0136:0085
のとかなる心をきへに過しつゝ花故にこそ春をまちしか
0137:0086
かさこしの嶺のつゝきに咲花はいつさかりともなくやちるらむ
0138:0087
ならひありて風さそふとも山桜尋る我を待つけてちれ
0139:0088
すそのやく烟そ春はよしの山花をへたつる霞也ける
0140:0089
今よりは花みむ人につたへをかむ世をのかれつゝ山にすまむと
0141:1051
題しらす
わひ人の涙に似たる桜哉風身にしめは先こほれつゝ
0142:1052
よしの山やかて出しと思ふ身を花ちりなはと人や待らむ
---- 上十
0143:1053
人もこす心もちらて山さとは花をみるにも便ありけり
0144:1011
をなしくは月の折さけ山桜花みるをりのたえまあらせし
0145:0145
花のうた十五首よみけるに
よしの山人に心をつけかほに花よりさきにかかる白雲
0146:0146
山寒み花咲へくもなかりけりあまりかねても尋きにけり
0147:0147
かたはかりつほむと花を思ふよりそらまた心物になるらむ
0148:0148
おほつかな谷は桜のいかならむ嶺にはいまたかけぬ白雲
0149:0149
花ときくは誰もさこそは嬉けれ思ひしつめぬ我こゝろ哉
0150:0150
初花のひらけはしむる梢よりそはえて風のわたるなる哉
0151:0151
おほつかな春は心の花にのみいつれのとしかうかれそめけむ
0152:0152
いさことしちれと桜をかたらはむ中々さらは風やをしむと
0153:0153
風ふくと枝をはなれておつましく花とちつけよ青柳のいと
0154:0154
吹風のなへて梢にあたる哉かはかり人のをしむ桜を
0155:0155
なにとかくあたなる花の色をしも心にふかく染はしめけむ
0156:0156
おなし身のめつらしからすをしめはや花もかはらす咲はちるらむ
0157:0157
嶺にちる花は谷なる木にそ咲いたくいとはし春の山風
0158:0158
山をろしに乱れて花の散けるをいははなれたる瀧とみたれは
0159:0159
花もちり人も都へ帰りなは山さひしくやならむとすらむ
0160:1471
百首歌中花十首
よしの山花の散にしこの本にとめし心は我を待らむ
0161:1472
よしの山高ねの桜咲そめはかゝらむ物か花のうす雲
0162:1473
人はみなよしのゝ山へいりぬめり都の花にわれはとまらむ
---- 上十一
0163:1474
尋いる人にはみせし山桜われとを花にあはむと思は
0164:1475
山桜咲ぬと聞てみにゆかむ人をあらそふ心とゝめて
0165:1476
山さくらほとなくみゆる匂ひ哉さかりを人にまたれ/\て
0166:1477
花の雪の庭につもると跡つけしかとなきやとゝいひちらせて
0167:1478
なかめつるあしたの雨の庭の面に花の雪しくはるの夕暮
0168:1479
よしの山ふもとの瀧になかす花や嶺につもりし雪の下水
0169:1480
ねにかへる花ををくりてよしの山夏のさかひに入て出ぬる
0170:0144
遠山残花
よしの山一むらみゆる白雲は咲をくれたる桜なるへし
0171:0109
落花のうたあまたよみけるに
勅とかやくたす御門のいませかしさらは恐れて花やちらぬと
0172:0110
波もなく風ををさめし白川の君のをりもや花はちりけむ
0173:0111
いかてわれ此よの外の思ひ出に風をいとはて花をなかめむ
0174:0112
年をへて待もをしむと山さくら心を春はつくす也けり
0175:0113
よしの山谷へたなひく白雲は嶺の桜の散にや有らむ
0176:0114
山颪の木のもとうつむ花の雪はいはゐにうくも氷とそみる
0177:0115
春風の花のふゝきにうつもれて行もやられぬ志賀の山道
0178:0116
立まかふ嶺の雲をははらふとも花をちらさぬ嵐なりせは
0179:0117
よしの山花ふきくして峰こゆる嵐は雲とよそにみゆらむ
0180:0118
をしまれぬ身たにも世には有物をあなあやにくの花の心や
0181:0119
うき世にはとゝめおかしと春風のちらすは花ををしむ也けり
0182:0120
もろともに我をもくしてちりね花うき世をいとふ心ある身そ
0183:0121
思へたゝ花のなからむ木のもとに何をかけにて我身住なむ
---- 上十二
0184:0122
なかむとて花にもいたくなれぬれは散わかれこそ悲しかりけれ
0185:0123
をしめはと思ひけもなくあたにちる花は心そかしこかりける
0186:0124
梢ふく風の心はいかゝせむしたかふ花のうらめしき哉
0187:0125
いかてかはちらてあれとも思ふへきしはしとしたふなさけしれ花
0188:0126
木のもとの花にこよひは埋れてあかぬ梢を思ひあかさむ
0189:0127
このもとの旅ねをすれはよしの山花のふすまをきする春風
0190:0128
雪とみてかけに桜の乱るれは花のかさきる春のよの月
0191:0129
ちる花ををしむ心やとゝまりて又こむ春の誰になるへき
0192:0130
春ふかみ枝もうこかてちる花は風のとかにはあらぬ成へし
0193:0131
あなかちに庭をさへ吹あらし哉さこそ心に花をまかせめ
0194:0132
あたにちるさこそ梢の花ならめすこしはのくせ春の山風
0195:0133
心えつたゝ一すちに今よりは花ををしまて風をいとはむ
0196:0134
よしの山桜にまかふ白雲の散なむ後は晴すもあらなむ
0197:0135
花とみはさすかなさけをかけましを雲とて風のはらふなるへし
0198:0136
風さそふ花の行方はしらねともをしむ心は身にとまりけり
0199:0137
花さかり梢をさそふ風ならてのとかにちらむ春はあらはや
0200:0143
雨中落花
梢うつ雨にしほれてちる花のをしき心を何にたとへむ
0201:0142
風の前の落花といふことを
山桜枝きる風の名残なく花をさなから我物にする
0202:0108
山路落花
ちり初る花の初雪ふりぬれはふみ分まうき志賀の山越
0203:0141
夢中落花といふことを前斎院にて人々よみけるに
春風の花をちらすとみる夢は覚てもむねのさはく也けり
---- 上十三
0204:0160
散て後花をおもふといふことを
青葉さへみれは心のとまる哉散にし花の名残と思へは
0205:1089
桜にならひてたてりける柳に花のちりかゝりけるをみて
吹みたる風になひくとみしほとは花そ結へる青柳の糸
0206:0787
花のちりたりけるにならひて咲はしめけるさくらをみて
ちるとみれは又咲花の匂ひにもをくれさきたつためし有けり
0207:0053
苗代
苗代の水を霞はたな引てうちひのうへにかくる也けり
0208:1454
題しらす
たしろみゆる池のつゝみのかさそへてたゝふる水や春のよのため
0209:1455
庭になかすし水のすゑをせきとめて門田やしなふ頃にも有かな
0210:0169
蛙
ま菅生る山田に水をまかすれは嬉しかほにも鳴蛙かな
0211:0170
みさひゐて月もやとらぬ濁江に我すまむとて蛙鳴なり
0212:1034
題しらす
かり残すみつのまこもにかくろひてかけもちかほに鳴蛙哉
0213:0161
菫
あとたえてあさちしけれる庭の面に誰分入て菫つみけむ
0214:0162
誰ならむあらたのくろに菫つむ人は心のわりなかりけり
0215:1031
題しらす
菫さくよこのゝつはな生ぬれは思ひ/\に人かよふなり
0216:1462
つはなぬくきたのゝちはらあせ行は心すみれそ生かはりける
0217:0165
山路のつゝし
はひつたひをらてつゝしを手にそとるさかしき山のとり所には
0218:0166
つゝし山のひかたりといふことを
つゝし咲山の岩かけ夕はへてをくらはよそのなのみ也けり
0219:0164
かきつはた
沼水にしけるまこものわかれぬを咲隔たるかきつはた哉
0220:0167
款冬
きし近みうへけむ人そうらめしき波にをらるゝ山ふきの花
0221:0168
山吹の花さくさとに成ぬれはこゝにもゐてとをもほゆる哉
【款冬(かんとう):フキノタウ 倭俗款冬二字云山吹大誤也(文明本節用集)】
---- 上十四
0222:0172
伊勢にまかりたりけるにみつと申所にて海辺の春の暮
といふことを神主ともよみけるに
過る春潮のみつより船出して波の花をやさきにたつらむ
0223:0173
三月一日たらて暮けるによみける
春故にせめても物を思へとやみそかにたにもたらて暮ぬる
0224:0174
三月晦日に
今日のみと思へはなかき春の日もほとなく暮る心ちこそすれ
0225:0175
行春をとゝめかねぬる夕暮は明ほのよりもあはれなりけり
Subtitle
夏歌
0226:0176
題しらす
限あれは衣はかりをぬきかへて心は花をしたふなりけり
0227:0177
夏のうたよみけるに
草茂る道かりあけて山さとに花みし人の心をそみる
0228:0180
夜卯花
まかふへき月なきころの卯花はよるさへさらすぬのかとそみる
0229:0178
水辺卯花
たつた川きしのまかきをみ渡せはゐせきの波にまかふ卯花
0230:0179
山川の波にまかへる卯花を立かへりてや人はをるらむ
0231:0181
社頭卯花
神垣のあたりに咲も便あれやゆふかけたりとみゆる卯花
0232:0171
春のうちに郭公をきくといふことを
嬉しとも思ひそわかぬ郭公春きくことのならひなけれは
0233:0185
時鳥
我やとに花たちはなをうへてこそ山ほとゝきす待へかりけれ
---- 上十五
0234:0186
尋れは聞かたきかと時鳥こよひはかりはまちこゝろみむ
0235:0187
時鳥まつ心のみつくさせて声をはをしむ五月也けり
0236:0201
雨のうちに郭公を待といふことをよみける
ほとゝきすしのふ卯月も過にしを猶こゑをしむさみたれの空
0237:0189
郭公をまちて明ぬといふことを
時鳥なかて明けぬとつけかほにまたれぬ鳥のねそ聞ゆなる
0238:0190
ほとゝきすきかて明ぬる夏のよの浦島のこはまこと也けり
0239:0188
人にかはりて
まつ人の心をしらは郭公たのもしくてやよをあかさまし
0240:0182
無言なりけるころ郭公の初こゑを聞て
時鳥人にかたらぬ折にしも初ね聞こそかひなかりけれ
0241:0183
不尋聞子規といふことを賀茂社にて人々よみけるに
郭公卯月のいみにゐこもるを思ひしりても鳴なる哉
0242:0202
雨中時鳥
五月雨の晴まもみえぬ雲路より山ほとゝきす鳴て過也
0243:0184
夕暮時鳥といふことを
里なるゝたそかれときの郭公きかすかほにて又なのらせむ
0244:0203
山寺の時鳥といふことを人々よみけるに
郭公きゝにとてしもこもらねと初瀬の山は便有けり
0245:0196
時鳥を
ほとゝきす聞折にこそ夏山の青葉は花にをとらさりけれ
0246:0197
時鳥思ひもわかぬ一こゑをきゝつといかゝ人にかたらむ
0247:0198
【斗:はかり】
ほとゝきすいか斗なる契にて心つくさて人の聞らむ
0248:0199
かたらひし其よの声は時鳥いかなるよにも忘むものか
0249:0200
時鳥花たちはなはにほふとも身をうの花のかきね忘るな
---- 上十六
0250:0191
時鳥のうた五首よみけるに
ほとゝきすきかぬ物故まよはまし花を尋ぬ山路なりせは
0251:0192
待ことは初音まてかと思ひしに聞ふるされぬほとゝきす哉
0252:0193
聞をくる心をくして時鳥たかまの山のみねこえぬ也
0253:0194
大井河をくらの山のほとゝきすゐせきに声のとまらましかは
0254:0195
時鳥そのゝちこえむ山路にもかたらぬ声はかはらさらなむ
0255:1481
百首歌之中郭公十首
なかむ声や散ぬる花の名残なるやかてまたるゝ時鳥かな
0256:1482
春くれてこゑに花咲ほとゝきす尋ることもまつもかはらぬ
0257:1483
きかて待人思ひしれ時鳥聞ても人は猶そまつめる
0258:1484
所から聞きかたきかと郭公さとをかへても待むとそ思ふ
0259:1485
初声を聞ての後は時鳥待も心のたのもしき哉
0260:1486
五月雨の晴ま尋て郭公雲井につたふ声聞ゆ也
0261:1487
郭公なへて聞には似さりけりふかき山へのあかつきの声
0262:1488
時鳥ふかき山へにすむかひは梢につゝく声を聞くなり
0263:1489
よるのとこをなきうかされむ時鳥物思ふ袖を問にきたらは
0264:1490
ほとゝきす月のかたふく山のはに出つるこゑのかへりいる哉
0265:1466
題しらす
山さとの人もこすゑの松かうれに哀にきゐる時鳥かな
0266:1467
ならへける心はわれか郭公君まちえたる宵のまくらに
0267:0204
五月の晦日に山さとにまかりて立帰にけるを時鳥もすけなく
きゝ捨て帰しことなと人の申つかはしける返ことに
時鳥名残あらせて帰りしか聞捨るにも成にける哉
---- 上十七
0268:0736
五日さうふを人のつかはしたりける返事に
世のうきにひかるゝ人はあやめ草心のねなき心地こそすれ
0269:0206
さることありて人の申つかはしける返ことに五日
折におひて人に我身やひかれましつくまの沼のあやめなりせは
0270:0207
高野に中院と申所にあやめふきたる坊の侍けるに桜のちりけるか
めつしくをほえてよみける
桜ちるやとにかさなるあやめをは花あやめとやいふへかるらむ
0271:0208
散花をけふのあやめのねにかけてくすたまともやいふへかるらむ
0272:0209
五月五日山寺へ人のけふいる物なれはとてさうふをつかはしたりける
返事に
西にのみ心そかゝるあやめくさこの世はかりのやとゝ思へは
0273:0210
みな人の心のうきはあやめ草西に思ひのひかぬ也けり
0274:0211
五月雨の軒の雫に玉かけて宿をかされるあやめ草哉
0275:0205
題しらす
空晴て沼のみかさををとさすはあやめもふかぬ五月成へし
0276:0212
五月雨
水たゝふ入江のまこもかりかねてむなてにすつる五月雨のころ
0277:0213
五月雨に水まさるらし宇治はしやくもてにかゝる波のしらいと
0278:0214
こさゝしく古里をのゝ道のあとを又さはになす五月雨のころ
0279:0215
つく/\と軒の雫をなかめつゝ日をのみくらす五月雨のころ
0280:0216
東屋のをかやか軒のいと水に玉ぬきかくるさみたれの頃
0281:0217
五月雨に小田のさ苗やいかならむあせのうき土あらひこされて
0282:0218
五月雨のころにしなれはあら小田に人にまかせぬ水たゝいけり
0283:0219
ある所にて五月雨のうた十五首よみ侍し人にかはりて
五月(雨)にほすひまなくてもしほ草烟もたてぬうらのあま人
---- 上十八
0284:0220
五月雨はいさゝ小川の橋もなしいつくともなくみほになかれて
0285:0221
水無瀬河をちのかよひち水みちて船わたりするさみたれの頃
0286:0222
ひろせ河わたりの沖のみをつくしみかさそふらし五月雨のころ
0287:0223
はやせ川つなてのきしを沖にみてのほりわつらふ五月雨の頃
0288:0224
水わくる難波ほり江のなかりせはいかにかせましさみたれのころ
0289:0225
舟とめしみなとのあしまさほたえて心行みむさみたれのころ
0290:0226
みな底にしかれにけりなさみたれて水のまこもをかりにきたれは
0291:0227
五月雨のをやむ晴まのなからめや水のかさほせまこもかり舟
0292:0228
さみたれにさのゝ舟はしうきぬれはのりてそ人はさしわたるらむ
0293:0229
五月雨の晴れぬ日かすのふるまゝにぬまのまこもはみかくれにけり
0294:0230
水なしと聞てふりにしかつまたの池あらたむる五月雨のころ
0295:0231
五月雨は行へき道のあてもなしをさゝかはらもうきに流て
0296:0232
さみたれは山田のあせの瀧まくらかすをかさねておつる也けり
0297:0233
河わたのよとみにとまる流木のうきはしわたす五月雨のころ
0298:0234
おもはすもあなつりにくき小川哉五月の雨に水まさりつゝ
0299:0237
深山水鶏
杣人の暮にやとかる心ちして庵をたたく水鶏なりけり
0300:0245
題しらす
夏の夜はしのゝ小竹のふし近みそよや程なく明くる也けり
0301:0250
夏の月のうたよみけるに
なつのよもをさゝか原に霜そをく月の光のさえしわたれは
0302:0251
山川の岩にせかれてちる波をあられとそみる夏のよの月
0303:0254
雨中夏月
夕立のはるれは月そやとりける玉ゆりすふる蓮のうきはに
0304:0247
海辺夏月
露のほる芦の若葉に月冴て秋をあらそふ難波江のうら
---- 上十九
0305:0252
池上夏月といふことを
かけさえて月しもことにすみぬれは夏の池にもつらゝゐにけり
0306:0248
泉にむかひて月をみるといふことを
むすひあくる泉にすめる月かけは手にもとられぬ鏡也けり
0307:0249
むすふ手にすゝしきかけをそふる哉清水にやとる夏のよの月
0308:0239
撫子
かき分て折は露こそこほれけれあさちにましる撫子のはな
0309:0240
雨中撫子といふことを
露をもみそのゝ撫子いかならむあらくみえつる夕立のそら
0310:0244
ともし
ともしするほくしの松もかへなくにしかめあはせて明す夏のよ
0311:0241
夏のゝ草をよみける
みまくさに原の小薄しかふとてふしとあせぬとしか思ふらむ
0312:0242
旅行草深といふことを
たひ人の分る夏のゝ草しけみ葉末にすけの小笠はつれて
0313:0243
行旅夏といふことを
雲雀あかるおほのゝち原夏くれはすゝむ木かけをねかひてそ行
0314:1032
題しらす
紅の色なりなからたてのほのからしや人のめにもたてぬは
0315:1033
蓬生のさることなれや庭の面にからす扇のなそしけるらむ
0316:0246
夏のよの月みることやなかるらむかやり火たつるしつのふせやは
0317:0253
蓮池にみてりといふことを
おのつから月やとるへきひまもなく池に蓮の花咲にけり
0318:0235
となりのいつみ
風をのみ花なきやとは待/\て泉のすゑを又むすふ哉
0319:1453
題しらす
君かすむきしの岩より出る水の絶ぬ末をそ人も汲ける
---- 上二十
0320:0236
水辺納凉といふことを北白河にてよみける
水の音にあつさ忘るゝまとひ哉梢のせみの声もまきれて
0321:1169
木陰納凉といふことを人々よみけるに
けふもまた松の風ふくをかへゆかむきのふすゝみし友にあふやと
0322:0238
題不知
夏山の夕下風のすゝしさにならの木かけのたゝまうき哉
0323:1035
柳はら河風ふかぬかけならはあつくやせみの声にならまし
0324:1036
ひさき生てすゝめとなれるかけなれや波打岸に風わたりつゝ
0325:0255
凉風如秋
またきより身にしむ風のけしき哉秋さきたつるみやまへの里
0326:0256
松風如秋といふことを北白川なる所にて人々よみて又水声
秋ありといふことをかさねけるに
松風の音のみなにか石はしる水にも秋はありける物を
0327:0257
山家待秋といふことを
山さとは外面のまくす葉をしけみうら吹かへす秋を待哉
0328:0996
題しらす
あれにける沢田のあせにくらゝ生て秋待へくもなきわたり哉
0329:0997
つたひくるかけひを絶すまかすれは山田は水も思はさりけり
0330:0258
六月祓
みそきしてぬさとりなかす河のせにやかて秋めく風そ凉しき
Subtitle
秋歌
0331:0259
山里のはしめの秋といふことを
さま/\の哀をこめて梢ふく風に秋しる深山へのさと
0332:0260
山居のはしめの秋といふことを
秋たつと人はつけねとしられけり山のすそのゝ風のけしきに
0333:0262
初秋の頃なるをと申所にて松風の音を聞て
つねよりも秋になるをのまつ風はわきて身にしむ心ちこそすれ
0334:1029
題しらす
すかるふすこくれか下の葛まきを吹うらかへす秋のはつ風
0335:0263
七夕
いそきをきて庭の小草の露ふまむやさしき数に人や思ふと
0336:0264
暮ぬめりけふ待つけて七夕は嬉きにもや露こほるらむ
0337:0265
天河けふの七日は長きよのためしにもひくいみもしつへし
0338:0266
ふねよする天の川への夕くれはすゝしき風や吹わたるらむ
0339:0267
待つけてうれしかるらむ七夕の心のうちそ空にしらるゝ
0340:0268
蜘のゐかきたるをみて
さゝかにのくもてにかけて引いとやけふ七夕にかさゝきのはし
0341:0299
秋のうたに露をよむとて
大かたの露には何のなるならむ袂におくはなみた也けり
0342:1040
題しらす
いそのかみふるきすみかへ分いれは庭のあさちに露そこほるゝ
0343:0986
をさゝはら葉すゑの露の玉にゝてはしなき山を行心ちする
0344:0290
萩
思ふにも過て哀に聞ゆるは萩のはみたる秋の夕かせ
0345:0292
萩の風露をはらふ
をしかふす萩咲のへの夕露をしはしもためぬ萩の上風
---- 上二十二
0346:0293
隣の夕の萩の風
あたりまて哀しれともいひかほに萩の音する秋の夕風
0347:0291
題しらす
をしなへて木草の末の原まてもなひきて秋の哀みえける
0348:0277
野萩似錦といふことを
けふそしるその江にあらふ唐錦萩咲のへにありける物を
0349:0275
萩野にみてり
咲そはむ所のゝへにあらはやは萩より外のはなもみるへく
0350:0276
萩野の家にみてりといふことを
分て出る庭しもやかてのへなれは萩のさかりを我物にみる
0351:0984
題しらす
いはれのゝ萩か絶まのひま/\にこのてかしはの花咲にけり
0352:0985
衣手にうつりし花の色なれや袖ほころふる萩か花すり
0353:0274
終日野の花をみるといふことを
乱れ咲のへの萩はら分暮て露にも袖を染てける哉
0354:0270
野径秋風
末は吹風はのもせにわたるともあらくは分し萩の下露
0355:0281
女郎花
をみなへし分つる袖と思はゝやおなし露にもぬるとしれゝは
0356:0282
をみなへし色めくのへにふれはらふ袂につゆやこほれかかると
0357:0287
水辺女郎花といふことを
池の面にかけをさやかにうつしもて水かゝみみるをみなへし哉
0358:0288
たくひなき花のすかたを女郎花池のかゝみにうつしてそみる
0359:0289
女郎花水にちかしといふことを
をみなへし池のさ波に枝ひちて物思ふ袖のぬるゝかほなる
0360:0285
女郎花帯露といふことを
花の枝に露のしら玉ぬきかけて折袖ぬらすおみなへし哉
---- 上二十三
0361:0286
おらぬより袖そぬれけるをみなへし露むすほれてたてるけしきに
0362:0283
草花露重
けさみれは露のすかるに折ふして起もあからぬ女郎花哉
0363:0284
大方の野への露にはしほるれと我涙なきをみなへしかな
0364:0271
草花時を得たりといふことを
いとすすきぬはれて鹿のふすのへにほころひ安き蘭かな
【蘭(ふちはかま):蘭草=藤袴の漢名】
0365:0273
霧中草花
ほに出るみ山か裾のむらすゝきまかきにこめてかこふ秋霧
0366:0272
行路草花
をらて行袖にも露そこほれける萩のはしけきのへの細道
0367:0269
草花道をさへきるといふことを
夕露をはらへは袖に玉消て道分かぬるをのゝ萩原
0368:1176
忍西入道西山のふもとに住けるに秋の花いかにをもしろからむ
とゆかしうと申つかはしける返事にいろ/\の花を折あつめて
鹿のねや心ならねはとまるらむさらてはのへをみなみする哉
0369:1177
かへし
鹿の立のへのにしきのきりはしは残多かる心ちこそすれ
0370:0278
草花をよみける
しけり行しはの下草をはれ出て招くや誰をしたふ成らむ
0371:1037
題しらす
月のためみさひすゑしと思ひしにみとりにもしく池の浮草
0372:1043
うつり行色をはしらすことのはの名さへあたなる露草の花
0373:0279
薄路にあたりてしけしといふことを
花すゝき心あてにそ分て行ほのみし道のあとしなけれは
0374:0280
古籬苅萱
籬(色)あれて薄ならねとかるかやもしけきのへとは成ける物を
0375:0301
人々秋の歌十首よみけるに
玉にぬく露はこほれてむさしのゝ草の葉結ふ秋の初風
---- 上二十四
0376:0302
ほに出てしのゝを薄まねく野にたはれてたてる女郎花哉
0377:0303
花をこそのへの物とはみにきつれくるれは虫の音をも聞けり
0378:0304
萩のはを吹過て行風の音に心みたるゝ秋の夕くれ
0379:0305
晴やらぬみ山のきりのたえ/\にほのかに鹿の声聞ゆなり
0380:0306
かねてより梢の色を思ふ哉時雨はしむるみ山へのさと
0381:0307
鹿のねをかきねにこめて聞のみか月もすみけり秋の山さと
0382:0308
庵にもる月のかけこそ淋しけれ山田のひたの音はかりして
0383:0309
わつかなる庭の小草の白露をもとめて宿る秋のよの月
0384:0310
何とかく心をさへはつくすらむ我なけきにてくるゝ秋かは
0385:0294
秋のうたよみける中に
吹わたる風も哀をひとしめていつくも凄き秋の夕暮
0386:0295
おほつかな秋はいかなる故のあれはすゝろに物のかなしかるらむ
0387:0296
何ことをいかに思ふとなけれとも袂かわかぬ秋の夕くれ
0388:0297
なにとなく物かなしくそみえ渡る鳥羽田の面のあきの夕暮
0389:0300
山里に人々まかりて秋のうたよみけるに
山さとの外面の岡の高き木にそゝろかましき秋の蝉哉
0390:0473
田家秋夕
なかむれは袖にも露そこほれける外面の小田の秋の夕暮
0391:0474
吹過る風さへことに身に己しむ山田の庵の秋の夕くれ
0392:1054
題しらす
風の音に物思ふ我か色そめて身にしみ渡る秋の夕暮
0393:0298
野の家の秋のよ
ねさめつゝなかきよかなといはれのにいく秋まても我身へぬらむ
0394:0452
虫の歌よみ侍けるに
---- 上二十五
夕されや玉うこく露のこさゝ生に声まつならす蛬かな
0395:0453
秋風にほすゑ波よる苅萱の下葉に虫の声乱る也
0396:0454
蛬なくなるのへはよそなるを思はぬ袖に露そこほるゝ
0397:0455
秋風のふけ行のへの虫のねのはしたなきまてぬるゝ袖哉
0398:0456
むしのねをよそに思ひてあかさねは袂も露はのへにかはらし
0399:0457
のへになく虫もや物はかなしきとこたへましかはとひてきかまし
0400:0458
秋のよに声もをします鳴虫を露まとろますきゝあかす哉
0401:0459
あきのよをひとりやなきてあかさまし友なふ虫の声なかりせは
0402:0460
秋のゝのを花か袖にまねかせていかなる人をまつむしの声
0403:0461
よもすから袂にむしのねをかけてはらひわつらふ袖の白露
0404:0462
ひとりねのねさめの床のさむしろに涙催すきり/\す哉
0405:0463
きり/\す夜寒になるを告かほに枕のもとにきつゝ鳴也
0406:0464
虫のねをよはり行かと聞からに心に秋の日数をそふる
0407:0465
秋ふかみよはるは虫の声のみか聞我とてもたのみやはある
0408:0466
虫のねにさのみぬるへき袂かはあやしや心物おもふらし
0409:0467
物思ふねさめとふらふ蛬人よりもけに露けかるらむ
0410:0468
独聞虫
ひとりねの友にはならて蛬なくねをきけは物思ひそふ
0411:0401
深夜聞蛬
我よとや更行月を思ふらむ声もやすめぬきり/\す哉
0412:0469
故郷虫
草ふかみ分入りてとふ人もあれやふり行宿の鈴むしの声
0413:0470
雨中虫
かへに生る小草に侘る蛬しくるゝ庭の露いとふらし
0414:0471
田家に虫を聞く
小萩咲山田のくろの虫のねに庵もる人や袖ぬらすらむ
---- 上二十六
0415:0472
夕の道の虫といふことを
打くする人なき道の夕されは声たておくるくつは虫かな
0416:0790
物心ほそう哀なる折しも庵のまくらちかう虫の音聞け
れは
そのをりの蓬かもとの枕にもかくこそ虫の音にはむつれめ
0417:0451
年ころ申されたる人の伏見に住と聞て尋まかりたりけるに庭の道も
みえすしけりて虫なきけれは
分て入袖に哀をかけよとて露けき庭にむしさへそなく
0418:0484
秋のすゑに松虫のなくをきゝて
さらぬたに声よはりにし松虫の秋のすゑには聞もわかれす
0419:0485
限あれはかれ行のへはいかゝせむむしのねのこせ秋の山さと
0420:0504
十月しめつかた山さとにまかりたりけるに蛬のこゑのわつかに
しけれはよみける
霜うつむ葎か下の蛬あるかなきかに声聞なり
0421:0427
朝に初雁をきく
横雲の風にわかるゝしのゝめに山とひこゆる初雁の声
0422:0426
船中初雁
沖かけて八重のしほちを行船はほのかにそきく初かりのこゑ
0423:0428
夜に入て雁をきく
烏羽にかく玉つさの心ちして雁なき渡る夕やみの空
0424:0429
雁声遠を
しら雲を翅にかけて行雁の門田の面の友したふなり
0425:0430
霧中雁
玉つさのつゝきはみえて雁かねの声こそ霧にけたれさりけれ
0426:0431
霧上雁
空色のこなたをうらに立きりの面に雁のかくる玉札
【玉札(ぎょくさつ):手紙の敬語 = 玉梓(章)(たまつさ)】
0427:0973
題しらす
つらなりて風に乱て鳴雁のしとろにこゑの聞ゆなる哉
---- 上二十七
0428:0444
暁の鹿
よを残すねさめに聞そ哀なる夢のゝ鹿にかくや鳴けむ
0429:0445
夕暮に鹿をきく
しのはらや霧にまかひて鳴鹿の声かすかなる秋の夕くれ
0430:0447
田庵の鹿
小山田の庵近く鳴鹿のねにをとろかされてをとろかす哉
0431:0446
幽居に鹿をきく
となりゐぬはたのかりやにあかすよはしか哀なる物にそ有ける
0432:0448
人を尋て小野にまかりけるに鹿の鳴けれは
鹿のねを聞につけても住人の心しらるゝをのゝ山さと
0433:0443
小倉の麓に住侍けるに鹿の鳴けるをきゝて
をしかなく小倉の山のすそちかみたゝひとりすむ我心哉
0434:0436
鹿
したり咲萩のふるえに風かけてすかひ/\にをしか鳴なり
0435:0437
萩かえの露ためす吹秋風にをしかなく也宮城のゝ原
0436:0438
よもすから妻こひかねて鳴鹿の涙やのへのつゆと成らむ
0437:0439
さらぬたに秋は物のみかなしきをなみた催すさをしかの声
0438:0440
山颪に鹿のねたくふ夕くれをものかなしとはいふにや有らむ
0439:0441
鹿もわふ空のけしきもしくるめりかなしかれともなれる秋哉
0440:0442
何となくすまゝほしくそおもほゆる鹿のねたえぬ秋の山さと
0441:0432
霧
鶉なく折にしなれは霧こめて哀さひしき深草の里
0442:0433
霧行客をへたつ
名残多みむつことつきて帰り行人をは霧も立へたてけり
0443:0434
山家霧
立こむる霧の下にも埋れて心はれせぬ深山へのさと
0444:0435
よをこめて竹のあみ戸に立霧の晴はやかてやあけむとすらむ
---- 上二十八
0445:0974
題しらす
晴かたき山路の雲にうつもれて苔の袂は霧朽にけり
0446:1071
寂然高野に詣て立帰りて大原よりつかはしける
へたてこし其年月も有物を名残多かるみねの朝霧
0447:1072
かへし
したはれし名残をこそはなかめつれ立帰りにし嶺の朝きり
0448:0261
ときはの里にて初秋月といふことを人々よみけるに
秋立と思ふに空もたゝならてわれて光を分む三日月
0449:1167
松の絶まよりわつかに月のかけろひてみえけるをみて
かけうすみ松のたえまをもりきつゝ心ほそくや三日月の空
0450:1170
入日かけかくれけるまゝに月の窓にさし入けれは
さしきつる窓の入日をあらためて光をかふる夕月夜かな
0451:0389
久月を待といふことを
出なから雲にかくるゝ月かけをかさねてまつや二むらの山
452:0390
雲間に月を待といふことを
秋の月いさよふ山のはのみかは雲の絶まにまたれやはせぬ
0453:0324
閑に月を待といふことを
月ならてさし入かけもなきまゝにくるゝ嬉しき秋の山さと
0454:0335
八月十五夜
山のはを出る宵よりしるき哉こよひしらする秋のよの月
0455:0336
かそへねとこよひの月のけしきにて秋の半を空にしる哉
0456:0337
天川名になかれたるかひありて今宵の月はことにすみけり
0457:0338
さやかなるかけにてしるし秋の月とよにあまれる五日也けり
0458:0339
打つけに又こむ秋のこよひまて月故をしくなる命かな
0459:0340
秋はたゝこよひ一夜の名也けりをなし雲ゐに月はすめとも
---- 上二十九
0460:0341
思ひせぬ十五のとしも有物をこよひの月のかゝらましかは
0461:0342
くもれる十五夜を
月みれはかけなく雲につゝまれて今夜ならすは闇にみえまし
0462:0334
終夜月をみる
誰きなむ月の光に誘れてと思によはの明にける哉
0463:0405
霧月を隔つといふことを
立田山月すむみねのかひそなきふもとに霧の晴ぬかきりは
0464:0330
名所の月といふことを
清見かた沖の岩こすしら波に光をかはす秋のよの月
0465:0331
なへてなき所の名をや惜らむ明石は分て月のさやけき
0466:0388
月瀧をてらすといふことを
雲消るなちの高ねに月たけて光をぬける瀧のしらいと
0467:0329
月池の氷に似りといふことを
水なくて氷そしたるかつまたの池あらたむる秋のよの月
0468:0326
池上の月といふことを
みさひゐぬ池の面のきよけれは宿れる月もめやすかりけり
0469:0327
同心を遍昭寺にて人々よみけるに
宿しもつ月の光のおほさはゝいかにいつこもひろ沢の池
0470:0328
池にすむ月にかゝれる浮雲は払ひのこせるみさひ也けり
0471:0325
海辺月
清見かた月すむよはの浮くもはふしの高ねの烟也けり
0472:0332
海辺明月
難波かた月の光にうらさえて波の面に氷をそしく
0473:0396
月前草花
月の色を花にかさねて女郎花うはものしたに露をかけたる
0474:0397
宵のまの露にしほれてをみなへし有明の月のかけにたはるゝ
---- 上三十
0475:0395
月前野花
花の色をかけにうつせは秋のよの月そ野もりのかゝみなりける
0476:0394
月照野花といふことを
月なくは暮れはやとへ帰らましのへには花のさかりなりとも
0477:0393
月前荻
月すむと荻うへさらむやとならは哀すくなき秋にやあらまし
0478:0398
月前女郎花
庭さゆる月也けりなをみなへし霜にあひぬる花とみたれは
0479:0391
月前薄
をしむよの月にならひて有明のいらぬをまねく花すゝき哉
0480:0392
花すゝき月の光にまかはましふかきますをの色にそめすは
0481:0404
月前紅葉
木のまもる有明の月のさやけきに紅葉をそへて詠つる哉
0482:0403
月前鹿
たくひなき心ちこそすれ秋のよの月すむ嶺の棹鹿のこゑ
0483:0399
月前虫
月のすむあさちにすたく蛬露のをくにや秋をしるらむ
0484:0400
露なからこほさてをらむ月影に小萩か枝の松虫のこゑ
0485:0402
田家月
夕露の玉しく小田の稲莚かへすほすゑに月そ宿れる
0486:0995
題しらす
わつらはて月にはよるも通ひけり隣へつたふあせの細道
0487:1168
松の木のまよりわつかに月のかけろひけるをみて月をいたゝき
て道を行といふことを
汲てこそ心すむらめ賎の女かいたゝく水にやとる月影
0488:0419
旅宿の月を思ふといふことを
月は猶よな/\ことにやとるへし我むすひ置草の庵に
0489:0423
旅宿の月といへるこゝろをよめる
哀しる人みたらはと思ふ哉旅ねの床にやとる月かけ
0490:0424
月やとるをなしうきねの波にしも袖しほるへき契有けり
0491:0425
都にて月を哀と思ひしは数より外のすさひ也けり
---- 上三十一
0492:0333
月前に遠くのそむといふことを
隈もなき月の光に誘はれて幾雲ゐまて行心そも
0493:0420
月前に友に逢ふといふことを
嬉しきは君にあふへき契ありて月に心の誘はれにけり
0494:0742
遙なる所にこもりて都なりける人のもとへ月のころつかはしける
月のみやうはの空なるかたみにて思ひもいてはこゝろ通はむ
0495:0415
人々住よしにまいりて月を翫けるに
片そきの行あはぬまよりもる月やさして御袖の霜にをくらむ
0496:0416
波にやとる月を汀にゆりよせて鏡にかくる住よしのきし
0497:0413
春日にまいりたりけるにつねよりも月あかく哀なりけれは
ふりさけし人の心そしられけるこよひみかさの山を詠めて
0498:0414
月寺のほとりにあきらかなり
昼とみる月にあくるをしらましや時つく鐘の音なかりせは
0499:0406
月前に古をおもふ
いにしへを何につけてか思ひ出む月さへかはる世ならましかは
0500:0407
月によせて思ひをのへけるに
世中のうきをもしらてすむ月のかけは我身の心ちこそすれ
0501:0408
よの中はくもりはてぬる月なれやさりともとみし影も待れす
0502:0409
いとふよも月すむ秋に成ぬれはなからへすはとをもふなる哉
0503:0410
さらぬたにうかれて物を思ふ身の心をさそふ秋のよの月
0504:0411
捨ていにしうきよに月のすまてあれなさらは心のとまらさらまし
0505:0412
あなかちに山にのみすむ心かな誰かは月のいるををしまぬ
---- 上三十二
0506:0788
月前述懐
月をみていつれの年の秋まてか此よに我か契あるらむ
0507:1056
題しらす
こむよにもかゝる月をしみるへくは命ををしむ人なからまし
0508:1057
此よにて詠なれぬる月なれは迷はむやみも照さゝらめや
0509:0311
月
秋のよの空にいつてふ名のみしてかけほのかなる夕月夜哉
0510:0312
天のはら月たけのほる雲路をは分ても風の吹はらはなむ
0511:0313
嬉しとや待つ人ことに思ふらむ山のはいつる秋のよの月
0512:0314
中々に心つくすもくるしきにくもらはいりね秋のよの月
0513:0315
いか斗うれしからまし秋のよの月すむそらに雲なかりせは
0514:0316
はりまかた灘のみ沖に漕いてゝあたり思はぬ月をなかめむ
0515:0317
月すみてなきたる海の面かな雲のなみさへ立もかゝらて
0516:0318
いさよはて出るは月のうれしくて入山のははつらきなりけり
0517:0319
水の面にやとる月さへ入ぬるはなみのそこにも山やあるらむ
0518:0320
したはるゝ心や行と山のはにしはしないりそ秋のよの月
0519:0321
あくるまて宵より空に雲なくて又こそかゝる月みさりけれ
0520:0322
あさち原葉すゑの露の玉ことに光つらぬる秋のよの月
0521:0323
秋のよの月を雪かと詠れはつゆも霰のこゝちこそすれ
0522:0343
月の歌あまたよみけるに
入ぬとや東に人はをしむらむ都にいつる山のはの月
0523:0344
待出てくまなき宵の月みれは雲そ心にまつかゝりける
0524:0345
秋風やあまつ雲井をはらふらむ更行まゝに月のさやけき
0525:0346
いつくとて哀ならすはなけれともあれたるやとそ月はさひしき
0526:0347
蓬分てあれたるやとの月みれはむかし住けむ人そこひしき
---- 上三十三
0527:0348
身にしみて哀しらする風よりも月にそ秋の色はみえける
0528:0349
むしのねもかれ行のへの草の原に哀をそへてすめる月かけ
0529:0350
人もみぬよしなき山の末まてにすむらむ月のかけをこそ思へ
0530:0351
このまもる有明の月を詠れはさひしさそふる嶺の松風
0531:0352
いかにせむかけをは袖にやとせとも心のすめは月のくもるを
0532:0353
悔くもしつのふせやとをとしめて月のもるをもしらて過ける
0533:0354
あれわたる草の庵にもる月を袖にうつしてなかめつる哉
0534:0355
月をみて心うかれしいにしへの秋にもさらにめくりあひぬる
0535:0356
何こともかはりのみ行よの中にをなしかけにてすめる月かな
0536:0357
よもすから月こそ袖にやとりけれむかしの秋を思ひいつれは
0537:0358
なかむれは外のかけこそゆかしけれかはらしものを秋のよの月
0538:0359
行ゑなく月に心のすみ/\てはてはいかにかならむとすらむ
0539:0360
月かけのかたふく山をなかめつゝをしむしるしや有明の空
0540:0361
詠るもまことしからぬ心ちしてよにあまりたる月の影哉
0541:0362
行末の月をはしらす過きつる秋またかゝる影はなかりき
0542:0363
まことゝも誰か思はむひとりみて後に今宵の月をかたらは
0543:0364
月のため昼と思ふかかひなきにしはしくもりて夜をしらせよ
0544:0365
天のはら朝日山より出れはや月の光の昼にまかへる
0545:0366
有明の月のころにし成ぬれは秋は夜なかき心ちこそすれ
0546:0367
中々にとき/\雲のかゝるこそ月をもてなすかきり也けれ
0547:0368
雲はるゝ嵐の音は松にあれや月もみとりの色にはへつゝ
0548:0369
さためなく鳥やなくらむ秋のよは月の光ををもひまかへて
---- 上三十四
0549:0370
誰もみなことはりとこそ定むらめ昼をあらそふ秋のよの月
0550:0371
かけさえてまことに月のあかきには心も空にうかれてそすむ
0551:0372
くまもなき月の面に飛かりのかけを雲かと思ひけるかな
0552:0373
詠れはいなや心のくるしきにいたくなすみそ秋のよの月
0553:0374
雲もみゆ風もふくれはあらくなるのとかなりつる月のひかりを
0554:0375
もろともにかけをならふる人もあれや月のもりくるさゝの庵に
0555:0376
中々にくもるとみえてはるゝよの月は光のそふここちする
0556:0377
うき雲の月の面にかゝれともはやく過るはうれしかりけり
0557:0378
過やらて月ちかく行浮雲のたゝよふみれはわひしかりけり
0558:0379
いとへともさすかに雲のうちちりて月のあたりをはなれさりけり
0559:0380
雲はらふあらしに月のみかかれて光えてすむ秋の空かな
0560:0381
くまもなき月のひかりを詠れはまつ姨捨の山そ恋しき
0561:0382
月さゆるあかしのせとに風吹は氷のうへにたゝむしら波
0562:0383
天のはらをなし岩戸を出れとも光ことなる秋のよの月
0563:0384
かきりなく名残をしきは秋のよの月にともなふあけほのゝ空
0564:0982
題しらす
みをよとむ天の川きし波かけて月をはみるやさくさみの神
0565:0983
光をはくもらぬ月そみかきけるいなはにかゝるあさひこの玉
0566:0959
あらし吹嶺のこのまを分きつる谷の清水にやとる月影
0567:0960
うつらふす
うらつふす苅田のひつち思ひ出てほのかにてらすみか月のかけ
0568:0961
にこるへき岩井の水にあらねともくまはやとれる月やさはかむ
0569:0962
独りすむ庵に月のさしこすは何か山への友とならまし
0570:0963
たつねきてこととふ人もなき宿にこのまの月のかけそさし入
---- 上三十五
0571:0964
柴の庵はすみうきこともあらましを友なふ月のかけなかりせは
0572:0965
かけきえては山の月はもりもこす谷は梢のゆきとみえつゝ
0573:0966
雲にたゝこよひの月をまかせてむ厭ふとてしも晴れぬものゆゑ
0574:0967
月をみる外もさこそはいとふらめ雲たゝこゝの空にたゝよへ
0575:0968
はれまなく雲こそ空にみちにけれ月みることは思ひたゝなむ
0576:0969
ぬるれとも雨もるやとのうれしきはいりこむ月を思ふなりけり
0577:1491
百首歌の中月十首
にせしまや月の光のさひかうらはあかしには似ぬかけそすみける
0578:1492
池水に底きよくすむ月かけはなみに氷をしきわたす哉
0579:1493
月をみてあかしのうらを出るふねはなみのよるとや思はさるらむ
0580:1494
はなれたるしらゝの浜の沖の石をくたかて洗ふ月のしらなみ
0581:1495
思ひとけはちさとのかけも数ならすいたらぬくまも月はあらせし
0582:1496
大かたの秋をは月につゝませて吹ほころはす風の音かな
0583:1497
何ことか此よにへたる思出をとへかし人に月ををしへむ
0584:1498
思ひしるをよにはくまなきかけならす我めにくもる月の光は
0585:1499
うきことも思ひとをさしをしかへし月のすみける久方の空
0586:1500
月のよやともとをなりていつくにも人しらさらむ栖をしへよ
0587:0385
九月十三夜
こよひはと所えかほにすむ月の光もてなすきくの白露
0588:0386
雲消し秋のなかはの空よりも月はこよひそ名にをへりける
0589:0387
後九月つきをもてあそふといふことを
月みれは秋くはゝれる年はまたあかぬ心もそふにそ有ける
0590:0449
独聞擣衣
ひとりねのよさむになるにかさねはや誰ためにうつ衣なるらむ
---- 上三十六
0591:0450
隔里擣衣
さよ衣いつこのさとにうつならむ遠く聞ゆるつちの音哉
0592:0476
菊
いく秋に我あひぬらむ長月のこゝぬかにつむ八重の白菊
0593:0477
秋ふかみならふ花なき菊なれは所を霜のをけとこそ思へ
0594:0478
月前菊
ませなくは何をしるしに思はまし月もまかよふしら菊の花
0595:0475
京極太政大臣中納言と申しけるをり菊ををひたゝしきほとにしたてゝ
鳥羽院にまいらせ給たりける鳥羽の南殿のひかしをもての
つほに所なきほとにうへさせ給ひけり公重少将人々すすめて菊
もてなさせけるにくはゝるへきよしあれは
君か住やとのつほには菊そかさる仙の宮といふへかるらむ
0596:1095
高野より出たりけると覚堅阿闍梨きかぬさまなりけれは菊
をつかはすとて
汲てなと心かよはゝとはさらむ出たるものを菊の下水
0597:1096
かへし
谷ふかく住かと思ひてとはぬまにうらみをむすふきくの下水
0598:0481
題しらす
いつよはるもみちの色は染へきと時雨にくもる空にとはゝや
0599:0482
紅葉未遍といふことを
いとゝ山しくれに色を染させてかつ/\をれる錦也けり
0600:0483
山家紅葉
染めてけりもみちのいろのくれなゐをしくるとみえしみ山へのさと
0601:0489
霧中紅葉
錦はる秋の梢をみせぬかな隔つる霧のやとをつくりて
0602:0487
紅葉色深といふことを
限あれはいかゝは色もまさるへきをあかすしくるゝ小倉山哉
0603:0488
もみちはのちらて時雨の日数へはいか斗なる色かあらまし
【斗:はかり】
0604:0490
賎かりける家に蔦の紅葉面白かりけるをみて
---- 上三十七
思はすによしある賎のすみか哉蔦のもみちを軒にはゝせて
0605:0486
寂蓮高野に詣てふかき山の紅葉といふことをよみける
さま/\に錦ありけるみ山哉花みし嶺を時雨そめつゝ
0606:1457
題しらす
秋の色は風そのもせにしきりたす時雨は音を袂にそきく
0607:1458
時雨初る花その山に秋くれてにしきの色もあらたむる哉
0608:0494
秋の末に法輪寺にこもりてよめる
大井河ゐせきによとむ水の色に秋ふかくなるほとそしらるゝ
0609:0495
小くら山ふもとに秋の色はあれや梢の綿風にたゝれて
0610:0496
我ものと秋の梢を思ふかな小倉の里に家ゐせしより
0611:0497
山さとは秋の末にそ思ひしる悲しかりけりこからしの風
0612:0498
暮果る秋のかたみにしはしみむ紅葉ちらすなこからしの風
0613:0499
秋くるゝ月なみわかぬ山賎の心うらやむ今日の夕暮
0614:0500
終夜秋ををしむ
をしめとも鐘の音さへかはる哉霜にや露の結ひかふらむ
0615:1023
題しらす
錦をはいくのへこゆるからひつにおさめて秋は行にか有らむ
0616:1061
秋の末に寂然高野にまいりてくれの秋によせて
おもひをのへけるに
なれきにし都もうとく成果て悲しさ添る秋の暮哉
---- 上三十八
Subtitle
冬歌
0617:0501
長楽寺にて夜紅葉を思ふといふことを人々よみけるに
よもすからをしけなく吹嵐かなわさと時雨の染る紅葉を
0618:0514
時雨の歌よみけるに
東屋のあまりにもふる時雨哉誰かはしらぬ神無月とは
0619:0512
山家時雨
宿かこふはゝその柴の色をさへしたひて染る初時雨哉
0620:0513
閑中時雨といふことを
おのつから音する人もなかりけり山めくりする時雨ならては
0621:0503
題しらす
ねさめする人の心をわひしめてしくるゝ音は悲しかりけり
0622:0509
落葉
あらしはく庭の落はのをしき哉まことのちりに成ぬと思へは
0623:0507
暁落葉
時雨かとねさめのとこに聞ゆるはあらしにたへぬこのは也けり
0624:0510
月前落葉
山颪の月に木葉を吹かけて光にまかふ影をみるかな
0625:0511
瀧上落葉
木枯に峯の紅葉やたくふらむむらこにみゆる瀧の白いと
0626:0508
水上落葉
立田姫染し梢のちるをりは紅あらふ山川の水
0627:0515
落葉あしろにとゝまる
紅葉よるあしろのぬのゝ色そめてひをくるゝとはみゆる也けり
0628:0493
草花野路落葉
紅葉ちる野はらを分て行人は花ならぬまて錦きるへし
0629:0505
山家落葉
道もなし宿は木葉に埋れぬまたきせさする冬籠かな
0630:0506
木葉ちれは月に心そあくかるゝみ山かくれにすまむと思ふに
0631:0502
題しらす
神無月木葉の落るたひことに心うかるゝみ山へのさと
0632:0521
冬のうたよみけるに
難波江の入江の芦に霜さえて浦風寒きあさほらけ哉
---- 上三十九
0633:0522
玉かけし花のかつらもをとろへて霜をいたゝく女郎花かな
0634:0525
水邊寒草
霜にあひて色あらたむる芦のほの淋くみゆる難波江のうら
0635:0518
枯野の草をよめる
分かねし袖に露をはとめ置て霜に朽ぬるまのゝ萩原
0636:0519
霜かつく枯のゝ草は淋しきにいつくは人の心とむらむ
0637:0520
霜かれてもろくくたくる荻のはをあらく吹なる風の色哉
0638:0516
山家枯草といふことを覚雅僧都の坊にて人々よみけるに
かきこめしすそのゝ薄霜枯て淋しさまさる柴の庵哉
0639:0517
野の渡りの枯たる草といふことを双林寺にてよみけるに
さま/\に花咲たりとみしのへのをなし色にも霜枯にけり
0640:0567
氷留山水
岩ませく木葉わけこし山水を露もらさぬは氷也けり
0641:0568
瀧上氷
水上に水や氷をむすふらむくるともみえぬ瀧の白糸
0642:0569
氷筏をとつといふことを
氷わる筏のさほのたゆるれはもちやこさましほつの山越
0643:0584
世をのかれてくらまのをくに侍りけるにかけひの氷て水まて
こさりけるに春になるまてはかく侍るなりと申けるを聞て
よめる
わりなしやこほるかけひの水故に思ひ捨てし春の待るゝ
0644:0561
千鳥
あはちかた磯わのちとり声しけしせとの塩風さえまさるよは
0645:0562
淡路潟せとの汐ひの夕くれにすまよりかよふ千鳥なく也
0646:0563
さゆれとも心安くそ聞あかす河瀬のちとり友くしてけり
0647:0564
霜さえて汀ふけ行浦風を思ひしりけになく千鳥哉
0648:0565
やせわたる湊の風に月更て汐ひる方にちとり鳴なり
---- 上四十
0649:0566
題しらす
千鳥なくゑ嶋のうらにすむ月を波にうつしてみる今宵哉
0650:0530
月かれたる草をてらす
花にをく露にやとりし影よりもかれのゝ月は哀なりけり
0651:0531
氷しくぬまのあし原風さえて月も光そさひしかりける
0652:0532
しつかなるよの冬月
霜さゆる庭の木葉をふみ分て月はみるやととふ人もかな
0653:0533
庭上冬月といふことを
さゆとみえて冬深くなる月影は水なき庭に氷をそしく
0654:0528
山家冬月
冬枯のすさましけなる山さとに月のすむこそ哀也けれ
0655:0529
月出る嶺の木葉もちりはてゝ麓のさとは嬉しかるらむ
0656:0557
舟中霰
せと渡るたなゝしをふね心せよあられみたるゝしまきよこきる
0657:0558
深山霰
杣人のまきのかりやの下ふしに音する物はあられ也けり
0658:0559
桜木にあられのたはしるをみて
たゝはをちて枝をつたへる霰かなつほめる花のちる心ちして
0659:0977
題しらす
音もせて岩またはしる霰こそ蓬の宿の友に成けれ
0660:0978
あられにそ物めかしくは聞えける枯たるならの柴の落はは
0661:0523
冬の歌よみける中に
山さくら初雪ふれは咲にけりよしのはさとに冬こもれとも
0662:0580
題しらす
山桜をもひよそへて詠れは木ことの花は雪まさりけり
0663:0537
夜初雪
月出る軒にもあらぬ山のはのしらむもしるしよはの白雪
0664:0538
庭雪似月
木間もる月のかけともみゆる哉はたらにふれる庭の白雪
0665:0540
枯野に雪のふりたるを
---- 上四十一
かれはつるかやかうはゝに降雪はさらにお花の心地こそすれ
0666:0543
雪道を埋む
降雪にしをりし柴も埋れて思はぬ山に冬籠する
0667:0548
雪埋竹といふことを
雪埋むそのゝ呉竹折ふしてねくら求るむら雀哉
0668:0581
仁和寺の御室にて山家閑居見雪といふことをよませ給
けるに
降つもる雪を友にて春まては日を送るへきみ山へのさと
0669:0583
山居雪といふことを
年の内はとふ人更にあらしかし雪も山路も深き住家を
0670:0545
雪朝待人といふことを
我やとに庭より外の道もかなとひこむ人の跡つけてみむ
00671:0547
雪朝会友といふことを
跡とむる駒の行ゑはさもあらはあれ嬉く君に行も逢ぬる
0672:0539
雪の朝霊山と申所にて眺望を人々よみけるに
たけのほる朝日の影のさすまゝに都の雪はきえみ消すみ
0673:0550
社頭雪
玉かきは朱も緑も埋れて雪をもしろき松尾の山
0674:0549
加茂の臨時の祭かへり立の御神楽土御門内裏にて侍
りけるに竹のつほに雪のふりたりけるをみて
うらかへすをみの衣とみゆる哉竹のうらはにふれる白雪
0675:0551
雪のうたともよみけるに
何となくくるゝ雫の音まても山へは雪そ哀なりける
0676:0552
雪降は野ちも山ちも埋れて遠近しらぬ旅のそら哉
0677:0553
あをね山苔のむしろの上にして雪はしとねの心地社すれ
【社:こそ】
---- 上四十二
0678:0554
卯花の心ち社すれ山子さとの垣ねの柴をうつむ白雪
【社:こそ】
0679:0555
折ならぬめくりの垣の卯花をうれしく雪の咲せつる哉
0680:0556
とへな君夕くれになる庭の雪を跡なきよりは哀ならまし
0681:0541
あらち山さかしく下る谷もなくかしきの道をつくるしら雪
0682:0542
たゆみつゝそりのはやをもつけなくに積りにけりな越の白雪
0683:1448
題しらす
緑なる松にかさなる白雪は柳のきぬを山にをほへる
0684:1449
盛ならぬ木もなく花の咲にけり思へは雪をわくる山みち
0685:1450
波とみゆる雪を分てそこきわたるきそのかけ橋底もみえねは
0686:
百首歌中雪十首
しからきの杣のをほちはとゝめてよ初雪降ぬむこの山人
0687:1502
急すは雪に我身やとゝめられて山への里に春をまたまし
0688:1503
哀しりて誰か分こむ山さとの雪降埋む庭の夕くれ
0689:1504
湊川とまに雪ふく友ふねはむやひつゝ社よをあかしけれ
【社:こそ】
0690:1505
いかたしの浪のしつむとみえつるは雪をつみつゝ下すなりけり
0691:1506
たまりをる梢の雪の春ならは山さといかにもてなされまし
0692:1507
大原はせれうを雪の道にあけてよもには人も通はさりけり
0693:1508
晴やらて二むら山に立雲はひらのふゝきの名残也けり
0694:1509
雪しのく庵のつまをさしそへて跡とめてこむ人をとゝめむ
0695:1510
悔しくも雪のみ山へ分いらて麓にのみもとしをつみける
0696:1172
寂然入道大原にすみけるにつかはしける
大原はひらの高ねの近けれは雪ふるほとを思ひこそやれ
0697:1173
かへし
思へたゝ都にてたに袖さえしひらの高ねの雪のけしきは
---- 上四十三
0698:0544
秋の頃高野へまいるへきよしたのめてまいらさりける人のもと
へ雪ふりてのち申つかはしける
雪深く埋てけりな君くやと紅葉のにしきしきし山路を
0699:0546
雪に庵うつもれてせむかたなく面白かりけり今もきたらは
とよみけむことを思ひ出てみけるほとに鹿の分て通りけるをみて
人こはと思ひて雪をみる程にしか跡つくることも有けり
0700:0570
冬歌十首よみけるに
花もかれもみちもちらぬ山さとは淋しさを又とふ人もかな
0701:0571
ひとりすむ片山影の友なれやあらしにはるゝ冬のよの月
0702:0572
津の国の芦の丸やの淋しさは冬こそわきてとふへかりけれ
0703:0573
さゆる夜はよその空にそをしもなく氷にけりなこやの池水
0704:0574
よもすから嵐の山に風さえて大井のよとに氷をそしく
0705:0575
さえ渡る浦風いかに寒からむちとりむれゐるゆふさきの浦
0706:0576
山さとは時雨しころの淋しきにあられの音は漸まさりける
0707:0577
風さえてよすれはやかて氷りつゝかへる波なきしかの唐崎
0708:0578
よしの山麓にふらぬ雪ならは花かとみてや尋いらまし
0709:0579
宿ことに淋しからしとはけむへし煙こめたる小野の山里
0710:0534
鷹狩
あはせたる木ゐのはしたかをきとらし犬かひ人の声しきるなり
0711:0535
雪中鷹狩
かきくらす雪にきゝすはみえねとも羽音に鈴をたくへてそやる
0712:0536
降雪にと立もみえす埋れてとり所なきみかりのゝ原
0713:0560
月前炭竃といへることを
限あらむ雲こそあらめ炭かまの烟に月にすゝけぬる哉
---- 上四十四
0714:0582
山さとに冬深といふことを
とふ人も初雪を社分こしか道とちてけりみ山へのさと
【社:こそ】
0715:0526
山さとの冬といふことを人々よみけるに
玉まきし垣ねのまくす霜かれて淋しくみゆる冬の山里
0716:0524
冬の歌よみける中に
淋しさにたへたる人の又もあれな庵ならへむ冬の山さと
0717:0979
題しらす
柴かこふ庵のうちはたひたちてすとをる風もとまらさりけり
0718:0980
谷風は戸を吹あけている物をなにと嵐の窓たゝくらむ
0719:0998
身にしみし荻の音にはかはれとも柴吹風も哀なりけり
0720:0586
山家歳暮
あたらしき柴のあみとをたちかへて年の明るを待わたる哉
0721:0587
東山にて人々としのくれに思ひをのへけるに
年くれしそのいとなみは忘られてあらぬさまなる急をそする
0722:0588
年のくれにあかたより都なる人のもとへ申つかはしける
をしなへて同し月日の過行は都もかくや年はくれぬる
0723:0589
山さとに家ゐをせすはみましやは紅ふかき秋のこすゑを
0724:0590
歳暮に人のもとへつかはしける
をのつからいはぬをしたふ人やあるとやすらふほとに年の暮ぬる
0725:0591
つねなきことをよせて
いつか我昔の人といはるへきかさなる年を送りむかへて
---- 上四十五
Subtitle
離別歌
0726:1062
あひしりたりける人のみちのくにへまかりけるに別の歌よむとて
君いなは月待とても詠やらむあつまのかたの夕くれの空
0727:1102
とし頃申なれたりける人にとをく修行するよし申て罷たりける
名残をほくて立けるに紅葉のしたりけるをみせまほしくて侍つる
かひなくいかにと申けれは木の本に立よりてよみける
心をは深きもみちの色にそめて別て行やちるに成らむ
0728:1107
遠く修行に思ひ立侍りけるに遠行別といふことを人々まて
きてよみ侍しに
程ふれはをなし都のうちたにもをほつかなさはとはまほしきに
0729:1108
年ひさしくあひたのみたりける同行に放れてとをく修行し
てかへらすもやと思ひけるに何となく哀にてよみける
さためなしいくとせ君になれ/\て別をけふは思ふなるらむ
0730:1158
遠く修行することありけるに芥院の前の斎宮にまいりたり
けるに人々別のうたつかふまつりけるに
さりともと猶あふことを頼む哉しての山路をこえぬ別(は)
【芥:(サ/サ)「菩薩」抄物書き。六家本系テキストでは菩提院となっている】
0731:1159
同折つほの桜の散けるをみてかくなむをほえ侍と申ける
此春は君に別のをしき哉花の行ゑはおもひわすれて
0732:1160
かへしせよとうけたまはりて扇にかきてさしいてける 女房六角局
君かいなむかたみにすへき桜さへ名残あらせす風さそふ也
---- 上四十六
Subtitle
羇旅歌
0733:0480
嵯峨に住ける頃となりの坊に申へきことありてまかりけるに
道もなく葎のしけりけれは
立よりて隣とふへき垣にそひて隙なくはへるやへ葎かな
0734:1139
しほ湯にまかりたりけるにくしたりける人九月晦日にさきへのほり
けれはつかはしける人にかはりて
秋は暮君は都へ帰りなは哀なるへき旅のそらかな
0735:1140
かへし 大宮の女房加賀
君をゝきて立出る空の露けさは秋さへくるゝ旅の悲しさ
0736:1141
しほ湯出て京へ帰りまうてきて古郷の花霜かれにける哀なり
けりいそき帰りし人のもとへ又かはりて
露をきし庭の小萩も枯にけりいつち都に秋とまるらむ
0737:1142
かへし をなし人
したふ秋は露もとまらぬ都へとなとて急し舟出成らむ
0738:1058
八月つきの頃よふけて北白河へまかりけるよしある様なる家の
侍けるにことのをとのしけれは立とまりてきゝけり折哀に秋
風楽と申かくなりけり庭をみいれけれはあさちの露に
月のやとれるけしき哀也垣にそひたる荻の風身にしむらむ
とをほえて申入れてとをりけり
秋風のことに身にしむ今宵哉月さへすめる宿のけしきに
0739:1153
新院さぬきにをはしましけるに便に付て女房のもとより
水茎のかき流すへきかたそなき心のうちは汲てしらなむ
---- 上四十七
0740:1154
かへし
程遠み通ふ心の行はかり猶かき流せ水茎の跡
0741:1155
又女房つかはしける
いとゝしくうきに付ても頼む哉契し道のしるへたかふな
0742:1156
かゝりける涙にしつむ身のうさを君ならて又誰かうかへむ
0743:1157
かへし
頼むらむしるへもいさやひとつよの別にたにもまよふ心は
0744:1162
山さとにまかりて侍けるに竹の風の荻にまかひて聞えれは
竹の音も荻吹風のすくなきにくはへて聞はやさしかりけり
0745:1163
世をのかれてさかに住ける人のもとにまかりて後世のことをこたら
すつとむへきよし申て帰りけるに竹の柱をたてたりけるをみて
よゝふとも竹の柱の一筋にたてたるふしはかはらさらなむ
0746:1164
題しらす
哀たゝ草の庵の淋きは風より外にとふ人そなき
0747:1165
哀なりより/\しらぬ野の末にかせきを友になるゝすみかは
0748:1069
海辺重旅宿といへることを
波ちかき磯の松かね枕にてうらかなしきは今宵のみかは
0749:0527
寒夜旅宿
旅ねする草の枕に霜さえて有明の月の影そまたるゝ
0750:1097
たひ(へ)まかりけるに入相をきゝて
思へたゝ暮ぬと聞しかねの音は都にてたに悲しき物を
0751:0417
旅(に)まかりけるにとまりて
あかすのみ都にてみし影よりも旅こそ月は哀也けれ
0752:0418
みしまゝにすかたも影もかはらねは月そ都のかたみ也ける
0753:1111
そのかみ心さしつかうまつりけるならひに世をのかれてのちもか
もにまいりけるとしたかくなりて四国のかた修行しけるに
---- 上四十八
又帰りまいらぬこともやとて仁和二年十月十日のよまい
りて幣まいらせけり内へもまいらぬことなれはたなうの社にとり
つきてまいらせ給へとて心さしけるに木間の月ほの/\と常より
も神さひ哀にをほえてよみける
かしこまるしてに涙のかゝる哉又いつかはとをもふこゝに
0754:1456
題しらす
ふしみ過ぬをかのやに猶とゝまらし日野まて行てこま心みむ
0755:1409
うちかはをくたりける船のかなつきと申ものをもてこいのくたる
をつきけるをみて
宇治川のはやせをちまふれふ船のかつきにちかふこにのむらまけ
0756:1410
こはへつとふぬまの入江のものしたは人つけをかぬふしにそ有ける
0757:1411
たねつくるつほ井の水のひく末にえふなあつまる落合のはた
0758:1412
しらなはにこあゆひかれてくたるせにもちまふけたるこめのしきあみ
0759:1413
みるもうきはうなはににくるいろくつをのからかさてもしたむもちあみ
0760:1414
秋風にすゝきつり船はしるめりうのひとはしの名残したひて
0761:1113
天王寺へまいりけるにかた野なと申渡り過てみはるかされたる
所の侍けるを問けれはあまの川と申をきゝて宿からむといひけ
むこと思ひ出されてよみける
あくかれしあまのかはらと聞からにむかしの波の袖にかゝれる
0762:0767
天王寺にまいりけるに雨のふりけれは江口と申所に宿をかりけ
るにかさゝりけれは
世中をいとふまてこそかたからめかりの宿りを惜む君哉
0763:0768
かへし
家を出る人としきけはかりの宿に心とむなと思ふはかりそ
---- 上四十九
0764:1094
天王寺へまいりたりけるに松に鷺の居たりけるを月の光に
みて
庭よりも鷺居る松の梢にそ雪は積れる夏のよの月
0765:0878
天王寺へまいりて亀井の水をみてよめる
浅からぬ契の程そくまれぬる亀井の水に影うつしつゝ
0766:0877
六波羅太政入道持經者千人あつめて津の国わたと申所にて
くやう侍けるやかてそのついてに万燈会しけり夜更るまゝに
灯の消けるををの/\ともしつきけるをみて
消ぬへき法の光のともしひをかゝくるわたのみさき也けり
0767:1152
あかしに人をまちて日数へにけるに
何となく都のかたと聞空はむつましくてそ詠められぬる
0768:1112
はりま書写へまいるとて野中の清水をみけること一むかしに
なりにける年へて後修行すとてとをりけるにおなしさ
まにてかはらさりけれは
昔みし野中の清水かはらねは我影をもや思ひ出らむ
0769:1114
四国のかたへ具してまかりたりける同行の都へ帰りけるに
かへり行人の心を思ふにもはなれかたきは都なりけり
0770:1115
ひとりみおきて帰りまかりなむするこそ哀にいつか都へは
帰るへきなと申けれは
柴の庵のしはし都へかへらしと思はむたにも哀なるへし
0771:1116
たひのうたよみけるに
草枕たひなる袖にをく露を都の人や夢にみるらむ
0772:1117
聞えつる都へたつる山さへにはては霞にきえにけるかな
---- 上五十
0773:1118
和田の原はるかに波を隔きて都に出し月をみるかな
0774:1119
わたの原波にも月はかくれけり都の山を何いとひけむ
0775:1422
さぬきの国へまかりてみの津と申津につきて月のあかくて
ひゝのてもかよはぬほとにとをくみえわたりけるにみつと
りのひゝのてにつきてとひわたりけるを
しきわたす月の氷をうたかひてひゝのてまはる味のむら鳥
0776:1423
いかて我心の雲にちりすへきみるかひありて月を詠む
0777:1424
詠をりて月の影にそ夜をはみるすむもすまぬもさなりけりとは
0778:1425
雲はれて身に愁へなき人の身そさやかに月の影はみるへき
0779:1426
さのみやは袂に影を宿すへきよはし心に月ななかめそ
0780:1427
月にはちてさし出られぬ心哉詠る袖に影のやとれは
0781:1428
心をはみる人ことにくるしめて何かは月のとり所なる
0782:1429
露けさはうきみの袖のくせなるを月みるとかにをほせつる哉
0783:1430
詠きて月いかはかりしのはれむこのよし雲の外になりなは
0784:1431
いつか我此世の空を隔たらむ哀/\と月を思ひて
0785:1371
さぬきにまうてゝ松山と申所に院をはしましけむ御
御跡尋けれともかたもなかりけれは
松山の波に流てこし舟のやかて空しく成にける哉
0786:1372
まつ山のなみのけしきはかはらしをかたなく君は成ましにけり
0787:1373
しろみねと申所に御はかの侍りけるにまいりて
よしや君昔の玉の床とてもかゝらむ後は何にかはせむ
0788:1374
おなし国に大師のをはしましける御あたりの山に庵むす
---- 上五十一
ひて住けるに月いとあかくて海のかたくもりなくみえ侍けれは
くもりなき山にて海の月みれは島そ氷の絶ま也ける
0789:1375
すみけるまゝに庵いとあはれに覚て
今よりはいとはし命あれは社かゝる住居の哀をもしれ
【社:こそ】
0790:1376
庵のまへに松のたてりけるをみて
久にへて我後のよをとへよ松跡したふへき人もなき身そ
0791:1377
こゝを又我住うくてうかれなは松はひとりにならむとすらむ
0792:1378
雪のふりけるに
松の下は雪ふる折の色なれやみな白妙にみゆる山路に
0793:1379
雪つみて木も分かす咲花なれはときはの松もみえぬ也けり
0794:1380
花とみる梢の雪に月さえてたとへむ方もなき心地する
0795:1381
まかふ色は梅とのみみて過行に雪の花には香そなかりける
0796:1382
折しもあれ嬉しく雪の埋む哉きこもりなむと思ふ山路を
0797:1383
中々に谷の細道うつめ雪ありとて人の通ふへきかは
0798:1384
谷の庵に玉の簾をかけましやすかるたるひの軒をとちすは
0799:1385
はなまいらせけるをりしもをしきにあられのふりかかりけれは
しきみをくあかのをしきにふちなくは何に霰の玉とまらまし
0800:1386
大師のむまれさせ給ひたる所とてめくりしまはしてそのしるし
の松のたてりけるをみて
哀也をなし野山にたてる木のかゝるしるしの契有けり
0801:1387
岩にせくあか井の水のわりなきは心すめともやとる月かな
又ある本に コレラ後人ノカケル事凡例二云カコトシ
---- 上五十二
0802:1388
まむたらしの行道ところへのほるはよの大事にて手を
たてたるやうなり大師の御経かきてうつませおはし
ましたる山の嶺なりはうのそとは一丈はかりなるたむつきて
たてられたりそれへ日ことにのほらせおはしまして行道しおは
しましけると申伝たりめくり行道すへきやうにたむも二
重につきまはされたりのほる程のあやうさことに大事なり
かまへてはひまはりつきて
めくりあはむことの契そたのもしききひしき山の誓みるにも
0803:1389
やかてそれか上は大師の御師にあひまいらせさせをはしまし
たる嶺なりわかはいしさとその山をは申也その辺の人は
わかいしとそ申ならひたる山もしをはすてゝ申さす又ふての
山ともなつけたりとをくてみれはふてに似てまろ/\
と山の嶺のさきのとかりたるやうなるを申ならはしたる
なめり行道所よりかまへてかきつきのほりて嶺に
まいりたれは師にあはせおはしましたる所のしるしにたう
をたておはしましたりけりたうの石すゑはかりなくを
ほきなり高野の大たうはかりなりけるたうのあとゝ
みゆ苔はふかくうつみたれとも石をほきにしてあらはに
みゆふての山と申名につきて
ふての山にかきのほりてもみつる哉苔の下なる岩のけしきを
善通寺の大師の御影にはそはにさしあけて大師の御
師かきくせられたりき大師の御手なともをはしましき
四の門のかく少々われてをほかたはたかはすして侍きすゑに
こそいかゝなりけむすらむとをほつかなくをほえ侍しか
0804:1390
備前国に小島と申島にわたりたりけるにあみと申
物をとる所はおの/\われ/\しめてなかきさほにふくろをつ
けてたてわたすなりそのさほのたてはしめをは一のさほとそ名
付たるなかにとしたかきあま人のたて初るなりたつるとて
申なることはきゝ侍しこそなみたこほれて申はかり
なく覚てよみける
たて初るあみとる浦の初さほはつみの中にもすくれたる哉
0805:1391
ひゝしふかはと申方へまかりて四国のかたへ渡らむとしけるに
かせあしくてほとへけりしふかはのうらたと申所におさなきもの
とものあまた物をひろいけるをとひけれはつみと申もの
ひろふなりと申けるを聞て
をりたちてうらたに拾ふあまのこはつみよりつみをならふ也けり
0806:1392
まなへと申島に京よりあき人とものくたりてやう/\のつみの物
ともあきなひて又しはくの島にわたりてあきなはむするよ
し申けるを聞て
まなへよりしはくへかよふあき人はつみをかひにて渡るなりけり
0807:1393
くしにさしたる物をあきなひけるをなにそととひけれははま
くりをほして侍なりと申けるを聞て
をなしくはかきをそさしてほしもすへきはまくりよりはなもたよりあり
0808:1394
うしまとのせとにあまのいていりてさたえと申ものをとりて
---- 上五十四
船にいれ/\しけるをみて
さたえすむせとの岩つほもとめ出ていそきしあまの気色なる哉
0809:1395
沖なるいはにつきてあまとものあはひとりけるところにて
岩のねにかたをもむきも波うきてあはひをかつくあまのむらきみ
0810:1396
題しらす
こたいひくあみのかけなはよりめくりうきしわさあるしほさきのうら
0811:1397
霞しく波の初花をりかけてさくら鯛つる沖のあまふね
0812:1398
あま人のいそしく帰るひしきものは小にしはまくりからなしたゝみ
0813:1399
いそなつまむと思ひはしむるわかふのりみるめきはさひしきこゝろふと
0814:1086
国々めくりまはりて春帰りて吉野の方へまからむとしけるに人の
このほとはいつくにか跡とむへきと申けれは
花をみし昔の心あらためて吉野のさとに住むとそ思
0815:1120
西の国のかたへ修行してまかり侍とてみつのと申所にくしな
らひたる同行の侍けるにしたしきものゝ例ならぬこと侍とて
くせさりけれは
山城のみつのみくさにつなかれてこま物うけにみゆる旅哉
0816:1161
西国へ修行してまかりける折小嶋と申所に八幡のいはゝれ
給たりけるにこもりたりけり年へて又その社をみけるに松
とものふる木になりたりけるをみて
昔みし松は老木になりにけり我としへたる程もしられて
0817:0421
心さすことありてあきの一宮へ詣けるにたかとみのうらと申所
に風にふきとめられてほとへけりとまふきたる庵より月の
もるをみて
---- 上五十五
波の音を心にかけてあかすかな苫もる月のかけを友にて
0818:0422
詣つきて月いとあかくて哀にをほえけれはよみける
諸ともに旅なる空に月も出てすめはやかけの哀なるらむ
0819:1468
つくしにはらかと申いをのつりをは十月一日にをろす也しはすにひき
あけて京へはのほせ侍るそのつりの縄はるかにとをくひきわたしてとをる
船のその縄にあたりぬるをはかこちかゝりてかうけかましく申てむつかしく侍る也その
心をよめる
はらかつるおほわたさきのうけ縄に心かけつゝ過むとそをもふ
0820:1469
いせしまやいるゝつきてすまうなみにけことおほゆるいりとりのあま
0821:1470
いそなつみて波かけられて過にける鰐の住ける大磯の根を
0822:1444
りうもむにまいるとて
せをはやみみやたき河を渡り行は心の底のすむ心地する
0823:1236
承和元年六月一日院熊野へまいらせ給ひけるついてに住吉に
御幸ありけり修行しめくりて二日の社に詣たりけるにすみの江あたらしく
したてたりけるをみて後三條院の御幸神も思出給ふらむと覚て
よめる
絶たりし君か御幸を待つけて神いかはかりうれしかるらむ
0824:1237
松のしつえをあらひけむ浪いにしへにかはらすやと覚て
いにしへの松のしつえをあらひけむ波を心にかけてこそみれ
0825:1092
夏熊野へまいりけるに岩田と申所にすゝみて下向しける人に
つけて京へ同行に侍ける上人のもとへつかはしける
松かねの岩田の岸の夕すゝみ君かあれなとをもほゆるかな
0826:1093
かつらきを尋侍けるに折にもあらぬもみちのみえけるを何そと
問けれは正木なりと申をきゝて
---- 上五十六
かつらきや正木の色は秋に似てよその梢のみとりなる哉
0827:0101
熊野へまいりけるにやかみの王子の花面白かりけれは社に書
付ける
待きつるやかみの桜咲にけりあらくをろすなみすの山風
0828:0867
那智にこもりて瀧に入堂し侍けるに此上に一二の瀧おはし
ますそれへまいるなりと申住僧の侍けるにくしてまいりけり花
や咲ぬらむと尋まほしかりける折ふしにてたよりある心ちして
分けまいりたり二の瀧のもとへまいりつきたり如意輪の瀧となむ
申と聞てをかみけれはまことにすこしうちかたふきたるやうに
なかれくたりてたうとくをほえけり花山院の御庵室の跡の侍ける
前に年ふりたる桜の木の侍けるをみて栖とすれはとよま
せ給ひけむことをもひ出られて
木のもとに住けむ跡をみつる哉那智の高ねの花を尋て
0829:1421
熊野へまいりけるになゝこしのみねの月をみてよみける
立のほる月のあたりに雲消て光重ぬるなゝこしの嶺
0830:1415
新宮より伊勢のかたへまかりけるにみきしまにふれのさたしけるうら
人のくろきかみはひとすちもなかりけるをよひよせて
年へたる浦のあま人ことゝはむ波をかつきて幾よ過にき
0831:1416
くろかみは過るとみえし白波をかつきはてたる身には知あま
0832:0931
みたけよりさうの岩やへまいりたりけるにもらぬ岩屋もとあり
けむをりおもひ出られて
露もらぬ岩やも袖はぬれけると聞すはいかにあやしからまし
0833:0932
をさゝのとまりと申所に露のしけかりけれは
---- 上五十七
分きつるをさゝの露にそほちつゝほしそわつらふ墨染の袖
0834:1121
大みねのしむせむと申所にて月をみてよみける
深き山にすみける月をみさりせは思出もなき我身ならまし
0835:1122
嶺の上も同し月こそてらすらめ所からなる哀なるへし
0836:1123
月すめは谷にそ雲はしつむめる嶺吹はらふ風にしかれて
0837:1124
をはすての嶺と申所のみわたされて思ひなしにや月ことにみえけれは
をは捨はしなのならねといつくにも月すむ嶺の名にこそ有けれ
0838:1125
こいけと申すくにて
いかにして梢のひまをもとめえてこいけに今宵月のすむらむ
0839:1126
さゝのすくにて
庵さす草の枕に友なひてさゝの露にも宿る月かな
0840:1127
へいちと申すくにて月をみけるに梢の露の袂にかゝりけれは
梢なる月も哀を思ふへし光にくして露のこほるゝ
0841:1128
あつまやと申所にて時雨のゝち月をみて
神無月時雨はるれは東やの峰にそ月はむねとすみける
0842:1129
神無月谷にそ雲はしくるめる月すむ嶺は秋にかはらて
0843:1130
ふるやと申すくにて
神無月時雨ふるやにすむ月はくもらぬ影もたのまれぬ哉
0844:1131
平等院の名かゝれたるそとはに紅葉のちりかゝりけるをみて
花より外のとありけむ人そかしとあはれに覚てよみける
哀とも花みし嶺に名をとめて紅葉そけふはともに散ける
0845:1132
ちくさのたけにて
分て行色のみならす梢さへちくさのたけは心そみけり
---- 上五十八
0846:1133
ありのと渡りと申所にて
さゝふかみきりこすくきを朝立てなひきわつらふありのと渡り
0847:1134
行者かへりちこのとまりにつゝきたるすく也春の山伏はひやうふ
たてと申所をたひらかにすきむことをかたく思ひて行者ちこの
とまりにても思ひわつらふなるへし
屏風にや心を立て思ひけむ行者はかへりちこはとまりぬ
0848:1135
三重の瀧をかみけるにことにたうとく覚て三業のつみもすゝ
かるゝ心ちしてけれは
身につもることはの罪もあらはれて心すみぬるみかさねの瀧
0849:1136
てむ法輪のたけと申所にて釈迦の説法の座のいしと申所ををかみて
こゝこそは法とかれたる所よと聞さとりをもえつるけふ哉
0850:1022
題しらす
近江路や野ちの旅人急かなむやすかはらとて遠からぬかは
0851:0743
世をのかれていせのかたへまかりけるにすゝか山にて
すゝか山うきよをよそにふりすてゝいかになり行我身なるらむ
0852:1241
伊勢にまかりたりけるに太神宮にまいりてよみける
榊葉に心をかけむゆふしてゝ思へは神も仏なりけり
0853:1110
修行して伊勢にまかりたりけるに月の頃都思ひ出られ
てよみける
都にも旅なる月の影をこそをなし雲ゐの空にみるらめ
0854:1459
いせのいそのへちのにしきの嶋にいそわのもみちのちりけるを
浪にしく紅葉の色をあらふ故に錦の嶋といふにや有らむ
0855:1400
伊勢のたうしと申嶋にはこいしのしろのかきり侍浜にて
黒はひとつもましらすむかひてすかしまと申はくろかき
---- 上五十九
り侍なり
すかしまやたうしのこいしわけかへて黒白ませよ浦の浜かせ
0856:1401
さきしまのこいしの白をたかなみのたうしの浜に打寄てける
0857:1402
からすさきの浜のこいしと思ふ哉白もましらぬすかしまの黒
0858:1403
あはせはやさきをからすとこをうたはたふしすかしま黒白の浜
0859:1404
伊勢のふたみのうらにさるやうなるめのわらはとものあつまりてわさ
とのことゝをほしくはまくりをとりあつめけるをいふかひなきあま
人こそあらめうたてきことなりと申けれはかひあはせに
京よりひとの申させ給ひたれはえりつゝとるなりと申けるに
今そしるふたみのうらのはまくりをかひあはせとてをほふなりける
0860:1405
いらこへわたりたりけるにゐかひと申はまくりにあこやのむねと
侍るなりそれをとりたるからをたかくつみおきたりけるを
みて
あこやとるゐかひのからをつみをきてたからの跡をみする也けり
0861:1406
沖のかたより風のあしきとてかつをと申いをつりける舟とも
のかへりけるをみて
いらこさきにかつをつり舟ならひうきてはかちの浪にうかひてそよる
0862:1047
ふたつありけるたかのいらこわたりすると申けるかひとつのたかは
とゝまりて木のすゑにかゝりて侍と申けるを聞て
すたかわたるいらこかさきをうたかひてなほきにかくる山帰かな
0863:1048
はしたかのすゝろかさてもふるさせてすへたる人のありかたのよや
0864:1103
するかの国くのゝ山寺にて月をみてよみける
涙のみかきくらさるゝ旅なれやさやかにみよと月はすめとも
0865:1460
みちのくにゝひらいつみにむかひてたわしのねと申山の侍にこときは
---- 上六十
すくなきやうにさくらのかきりみえて花の咲たるをみてよめる
聞もせすたわしね山の桜花よしのゝ外にかゝるへしとは
0866:1461
をくに猶人みぬ花のちらぬあれや尋をいらむ山ほとゝきす
0867:0815
みちの国にまかりたりけるに野中に常よりもとをほしきつかのみえ
けるを人にとひけれは中将の御はかと申はこれかこと也と申
けれは中将とは誰かことそと又問けれは実方の御ことなりと
申けるいとかなしかりけりさらぬたに物哀におほえけるに霜
かれの薄ほの/\みえ渡りて後にかたらむ詞なきやうにをほえて
朽もせぬ其名はかりをとゝめ置て桔のゝ薄かたみにそみる
0868:1143
みちのくにへ修行してまかりけるに白川の関にとまりて所か
らにや常よりも月おもしろく哀にて能因か秋風そ吹と
申けむをりいつなりけむと思ひ出られて名残をほくおほえ
けれは関屋のはしらに書付ける
白川の関屋を月のもる影は人の心をとむるなりけり
0869:1144
さきにいりてしのふと申渡りあらぬよのことにをほえて
哀也都出し日数思ひつゝくれは霞とともにと侍ことの
あとたとるまてきにける心ひとつに思ひしられてよみける
都出てあふ坂超し折まては心かすめししら川の関
0870:1145
たけくまの松は昔になりたりけれとも跡をたにとてみに
まかりてよめる
枯れにける松なき宿のたけくまはみきと云てもかひなからまし
0871:0492
あつまへまかりけるにしのふのをくに侍ける社のもみちを
---- 上六十一
ときはなる松の緑も神さひて紅葉そ秋はあけの玉垣
0872:1146
ふりたるたなはしをもみちのうつみたりける渡りにくゝてやすらは
れて人にたつねけれはをもはくのはしと申はこれなりと申けるを
聞て
ふまゝうき紅葉の錦散しきて人も通はぬをもはくのはし
しのふの里よりをくに二日はかりいりてあり
0873:1147
下野の国にて柴の煙をみてよみける
都近き小野大原を思ひ出る柴の烟のあはれなる哉
0874:1148
名とり川をわたりけるにきしの紅葉のかけをみて
名とり川きしの紅葉のうつる影は同し錦を底にさへしく
0875:1149
十月十二日ひらいつみにまかりつきたりけるに雪ふり嵐はけしく
事外にあれたりけりいつしか衣川みまほしくてまかりむかひて
みけり河のきしにつきて衣川の城しまはしたることからやうかは
りてものをみる心ちしけり汀こほりてとり分さひけれは
とりわきて心もしみてさえそ渡る衣川みにきたるけふしも
0876:0585
陸奥国にてとしのくれによめる
常よりも心ほそくそをもほゆる旅の空にて年の暮ぬる
0877:1150
又のとしの三月に出羽の国にこえてたきの山と申山寺に侍ける
桜の常よりも薄紅の色こき花にてなみたてりけるを寺の人々
もみけうしけれは
たくひなき思ひいてはの桜かな薄紅の花のにほひは
0878:1151
おなしたひにて
風あらき柴のい庵は常よりもね覚そ物はかなしかりける
---- 上六十二
0879:0100
修行しはへるに花をもしろかりける所にて
詠るに花の名たての身ならすはこの本にてや春をくらさむ
0880:1137
修行して遠くまかりけるをり人の思ひ隔たるやうなる事の侍けれは
よしさらは幾へともなく山こえてやかても人に隔られなむ
0881:1098
あき遠く修行し侍けるほとにほとへける所より侍従大納言成道
のもとへつかしける
あらし吹峰の木葉に友なひていつちうかるゝ心なるらむ
0882:1099
かへし
何となく落る木葉も吹風に散行かたはしられやはせぬ
0883:1087
みやたてと申けるはした物のとしたかくなりてさまかへなとして
ゆかりにつきてよしのに住侍けりをもひかけぬやうなれとも供養
をのへむれうにとてくた物を高野の御山へつかはしたりけるに
花と申くた物侍けるをみて申つかはしける
をりひつに花のくた物つみてけりよしのゝ人のみやたてにして
0884:1088
かへし みやたて
心さし深くはこへるみやたてを悟りひらけむ花にたくへて
0885:0886
常よりも道たとらるるほとに雪ふかゝりけるころ高野へまいる
と聞て中宮大其のもとよりいつか都へはいつへきかゝる雪には
いかにと申たりけれは返ことに
雪分て深き山路にこもりなは年帰りてや君にあふへき
0886:1074
かへし 時忠卿
分て行山路の雪は深くともとく立帰れ年にたくへて
0887:0930
ことの外にあれさむかりける頃宮法印高野にこもらせ給ひ
---- 上六十三
て此ほとの寒さはいかゝするとて小袖はせたりける又の朝申ける
今宵こそ哀みあつき心ちして嵐の音をよそに聞つれ
0888:1100
宮の法印高野にこもらせ給ておほろけにては出しと思ふに修
行せまほしきよしかたらせ給けり千日果てみたけにまいらせ
給ていひつかはしける
あくかれし心を道のしるへにて雲に友なふ身とそ成りぬる
0889:1101
かへし
山のはに月すむましとしられにき心の空になるとみしより
0890:0761
待賢門院の中納言の局世をそむきてをくらのふもとに住
侍ける頃まかりたりけるにことからまことに優に哀なりけ
り風のけしきさへことにかなしかりけれはかきつけゝる
山おろす嵐の音のはけしきをいつならひける君か栖そ
0891:0762
哀なるすみかをとひにまかりたりけるに此うたをみて
かきつけゝる 同院兵衛局
うきよをは嵐の風にさそはれて家を出ぬる栖かとそみる
0892:0763
をくらをすてゝ高野のふもとにあまのと申山にすま
れけりをなし院の帥の局都の外の栖とひ申さてはいかゝ
とて分おはしたりけるありかたくなむかえるさにこかはへまいら
れけるに御山よりいてあひたりけるをしるへせよとありけれは
くし申て粉河へまいりたりけるかゝるついてはいまはあるまし
きことなり吹上みむといふことくせられたりける人々申
出て吹上へおはしけり道より大雨風ふきてけうなくなりにけり
さりとてはとて吹上に行つきたりけれともみ所なきやう
---- 上六十四
にて社にこしかきすへて思ふにもにさりけり能因かなはし
ろ水にせきくたせとよみていひつたへられたる物をとおもひて
社にかきつけゝる
あまくたる名を吹上の神ならは雲晴のきて光あらはせ
0893:0764
苗代にせきくたされし天川とむるも神の心なるへし
かく書たりけれはやかて西の風吹かはりてたちまちに雲はれて
うら/\と日なりにけりすゑの代なれと心さしいたりぬることには
しるしあらたなることを人々申つゝしむおこして吹上若浦おもふ
やうにみてかえられにけり。
0894:0765
待賢門院の女房堀川の局のもとよりいひをくられける
此よにてかたらひをかむ郭公しての山ちのしるへともなれ
0895:0766
かへし
時鳥なく/\こそはかたらはめしての山路に君しかゝらは
0896:1065
深夜水声といふことを高野にて人々よみけるに
まきれつる窓の嵐の声とめてふくるとつくる水の音哉
0897:1174
高野のをくの院の橋の上にて月あかゝりけれはもろともになかめ
あかしてその頃西住上人京へ出にけり其よの月忘かたくて又
をなし橋の月の頃西住上人のもとへいひつかはしける
ことゝなく君こひ渡る橋の上にあらそふ物は月の影のみ
0898:1175
かへし 西住上人
思ひやる心はみえて橋のうへにあらそひけりな月の影のみ
0899:1215
入道寂然大原に住侍けるに高野よりつかはしける
山ふかみさこそあらめと聞えつゝ音哀なる谷川の水
---- 上六十五
0900:1216
山ふかみまきのはわくる月かけははけしき物のすこき也けり
0901:1217
山ふかみ窓のつれ/\とふものは色つき初るはしの立えそ
0902:1218
山ふかみ苔の莚の上にゐてなに心なくなくましら哉
0903:1219
山ふかみ岩にしたゝる水とめむかつ/\をつるとちひろふ程
0904:1220
山ふかみけちかき鳥のをとはせて物恐しきふくろうの声
0905:1221
山ふかみこくらき嶺の梢よりもの/\しくも渡る嵐か
0906:1222
山ふかみほたきるなりと聞えつゝ所にきはふをのゝ音哉
0907:1223
山ふかみいりてみとみる物はみな哀催すけしきなる哉
0908:1224
山ふかみなるゝかせきのけちかきに世に遠さかる程そしらるゝ
0909:1225
かへし 寂然
哀さはかうやと君も思ひしれ秋くれかたの大原のさと
0910:1226
ひとりすむおほろの清水友とては月をそすます大原の里
0911:1227
炭かまの棚引けふり一すちに心ほそきは大原の里
0912:1228
なにとなく露そこほるゝ秋の田のひた引ならす大原の里
0913:1229
水の音は枕に落る心ちしてねさめかちなる大原の里
0914:1230
あたにふく草の庵の哀より袖に露をく大原の里
0915:1231
山風にみねのさゝくりはら/\と庭に落しく大原の里
0916:1232
ますらおかつま木にあけひさしそへてくるれはかへる大原の里
0917:1233
葎はふ門は木葉に埋れてひともさしこぬ大原の里
0918:1234
諸共に秋も山ちも深けれはしかそかなしき大原の里
0919:0140
高野にこもりたりける頃草の庵に花の散つみけれは
ちる花の庵の上をふくならは風いるましくめくりかこはむ
---- 上六十六
0920:0927
高野より京なる人のもとへいひつかはしける
住ことは所からそといひなからたかのは物の哀なるへき
0921:1138
思はすなること思ひ立よしきこえける人のもとへ高野より云つかはしける
しほりせて猶山ふかく分入むうきこと聞ぬ所有やと
0922:1166
高野にこもりたる人を京より何ことか又いつか出へきと申たる
よし聞てその人にかはりて
山水のいつ出へしと思はねは心細くて住としらすや
Subtitle
賀歌
0923:1200
むまこまうけて悦ける人のもとへいひつかはしける
ちよふへき二葉の松の生さきをみる人いかにうれしかるらむ
0924:1187
祝
ひまもなくふりくる雨のあしよりも数かきりなき君かみよ哉
0925:1188
ちよふへき物をさなからあつむとも君か齡をしらむ物かは
0926:1189
苔うつむゆるかぬ岩の深きねは君か千年をかためたるへし
0927:1190
むれ立て雲井にたつの声す也君か千年や空にみゆらむ
0928:1191
沢へよりす立はしむる鶴のこは松の枝にやうつりそむらむ
0929:1192
大海のしほひて山になるまてに君はかはらぬ君にましませ
0930:1193
君か代のためしになにを思はましかはらぬ松の色なかりせは
0931:1194
君か代は天つ空なる星なれや数もしられぬ心ちのみして
---- 上六十七
0932:1195
光さすみかさの山の朝日こそけに万代のためしなりけれ
0933:1196
万代のためしにひかむ亀山の裾のゝ原にしける小松を
0934:1197
かすかくる波にしつえの色染て神さひまさる住の江の松
0935:1198
若はさすひらのゝ松はさらにまた枝にやちよの数をそふらむ
0936:0199
竹の色も君か緑に染られて幾よともなく久しかるへし
山家集類題巻上終
---- 上六十八
Section
山家集類題巻下
Subtitle
恋歌
0937:0592
名を聞て尋恋
あはさらむことをはしらすはゝきゝのふせやと聞て尋行哉
0938:0593
自門帰恋
たてそめて帰る心はにしき木のちつか待へき心ちこそすれ
0939:0594
涙顕恋
おほつかないかにも人のくれはとりあやむるまてにぬるゝ袖哉
0940:0595
夢会恋
中々に夢に嬉しきあふことはうつゝに物をおもふ也けり
0941:0596
あふことを夢也けりと思わく心のけさは恨めしきかな
0942:0597
あふとみることを限りの夢ちにてさむる別のなからましかは
0943:0598
夢とのみ思ひなさるゝうつゝこそあひみることのかひなかりけれ
0944:0599
後朝
今朝よりそ人の心はつらからて明はなれ行空を恨むる
0945:0600
あふことをしのはさりせは道芝の露よりさきにをきてこましや
0946:0601
後朝時鳥
さらぬたに帰やられぬしのゝめにそへてかたらふ時鳥かな
0947:0602
後朝花橘
かさねてはこからまほしきうつりかを花橘に今朝たくへつゝ
0948:0603
後朝霧
やすらはむ大かたのよはあけぬともやみとかこへる霧にこもりて
0949:0604
帰るあしたの時雨
ことつけて今朝の別はやすらはむ時雨をさへや袖にかくへき
0950:0605
逢てあはぬ恋
つらくともあはすは何のならひにか身の程しらす人をうらみむ
0951:0606
さらはたゝさらてそ人のやみなましさて後も又さもやあらしと
0952:0607
恨
もらさしと袖にあまるをつゝまゝしなさけをしのふ涙なりせは
0953:0608
ふたゝひ絶恋
から衣たちはなれにしまゝならは重て物はおもはさらまし
---- 下一
0954:0625
商人にふみをつくるこひといふことを
思ひかね市の中には人多みゆかり尋てつくる玉章
0955:0626
海路恋
波のしくことをも何かわつらはむ君かあふへき道と思はゝ
0956:0627
九月ふたつありける年閏月をいむ恋といふことを人々よみけるに
長月のあまりにつらき心にていむとは人のいふにや有らむ
0957:0628
御あれの頃賀茂にまいりたりけるにさうしにはゝかる恋といふこと
を人々よみけるに
ことつくるみあれのほとをすくしても猶や卯月の心なるへき
0958:0629
同社にて神に祈恋といふことを神主ともよみけるに
天くたる神のしるしのありなしをつれなき人の行ゑにてみむ
0959:0624
かものかたにさゝきと申さとに冬ふかく侍けるにひと/\まうてき
て山さとの恋といふことを
かけひにも君かつらゝや結ふらむ心細くもたえぬなる哉
0960:0609
寄糸恋
賎のめかすゝくるいとにゆつりをきて思ふにたかふ恋もするかな
0961:0610
寄梅恋
おらはやと何思はまし梅の花めつらしからぬ匂ひなりせは
0962:0611
行すりに一枝折し梅かゝの深くも袖にしみにける哉
0963:0612
寄花恋
つれもなき人にみせはやさくら花風にしたかふ心よはさを
0964:0613
花をみる心はよそにへたゝりて身につきたるは君かおもかけ
0965:0614
寄残花恋
葉かくれに散とゝまれる花のみそ忍ひし人にあふこゝちする
0966:0615
寄帰雁恋
つれもなく絶にし人を雁金のかえる心とをもはましかは
0967:0616
寄草花恋
折てたゝしほれはよしや我袖も萩の下えの露によそへて
0968:0617
寄鹿恋
つま恋て人めつゝまぬ鹿のねをうらやむ袖の操なる哉
---- 下二
0969:0618
寄苅萱恋
一方にみたるともなき我恋や風さたまらぬのへの苅萱
0970:0619
寄霧恋
夕きりの隔なくこそ思ひつれかくれて君かあはぬ也けり
0971:0620(0491)
寄紅葉恋
我涙しくれの雨にたくへはやもみちの色の袖にまかへる
0972:0621
寄落葉恋
朝ことに声ををさむる風の音はよをへてかるゝ人のこゝろか
0973:0622
寄氷恋
春を待すはの渡りもある物をいつをかきりにすへきつららそ
0974:0623
寄水鳥恋
我袖の涙かゝるとぬれてあれなうらやましきは池のをし鳥
0975:0630
月
月待といひなされつる宵のまの心のいろの袖にみえぬる
0976:0631
しらさりき雲井のよそにみし月の影を袂に宿すへしとは
0977:0632
あはれともみる人あらは思はなむ月のをもてにやとす心を
0978:0633
月みれはいてやとよのみをもほえてもたりにくゝもなる心哉
0979:0634
弓はりの月にはつれてみし影のやさしかりしはいつかわすれむ
0980:0635
面影のわすらるましき別哉名残を人の月にとゝめて
0981:0636
秋の夜の月や涙をかこつらむ雲なき影をもてやつすとて
0982:0637
天原さゆるみそらは晴なから涙そ月のくまに成らむ
0983:0638
物思ふ心のたけそしられぬるよな/\月をなかめあかして
0984:0639
月をみる心のふしをとかにしてたよりえかほにぬるゝ袖哉
0985:0640
おもひ出ることはいつもといひなから月にはたへぬ心なりけり
0986:0641
あしひきの山のあなたに君すまは入とも月ををしまさらまし
0987:0642
なけゝとて月やは物を思はするかこちかほなる我なみた哉
0988:0643
君にいかて月にあらそふ程はかりめくり逢つゝ影をならへむ
0989:0644
白妙の衣かさぬる月かけのさゆるま袖にかゝるしら露
0990:0645
忍ねのなみたたゝふる袖のうらになつます宿る秋のよの月
---- 下三
0991:0646
物思ふ袖にも月は宿りけり濁らてすめる水ならね共
0992:0647
こひしさを催す月の影なれはこほれかゝりてかこつ涙か
0993:0648
よしさらは涙の池に身をなして心のまゝに月をやとさむ
0994:0649
うちたえてなけく涙に我袖の朽なはなとか月を宿さむ
0995:0650
よゝふとも忘れかたみの思ひてはたもとに月のやとるはかりそ
0996:0651
涙ゆへくまなき月そくもりぬるあまのはら/\ねのみなかれて
0997:0652
あやにくにしるくも月の宿る哉よにまきれてと思ふたもとに
0998:0653
をもかけに君か姿をみつるより俄に月のくもりぬるかな
0999:0654
よもすから月をみかほにもてなして心のやみにまよふ頃哉
1000:0655
秋の月物思ふ人のためとてや影に哀をそへて出らむ
1001:0656
隔たる人のこゝろのくまにより月をさやかにみぬかかなしさ
1002:0657
涙故つねはくもれる月なれはなかれぬ折そ晴ま也ける
1003:0658
くまもなき折しも人を思ひ出て心と月をやつしつる哉
1004:0659
物思ふ心のくまをのこひすてゝくもらぬ月をみるよしもかな
1005:0660
恋しさや思ひよはるとなかむれはいとゝ心をくたく月哉
1006:0661
ともすれは月すむ空にあくかるゝ心のはてを知るよしもかな
1007:0662
詠むるになくさむことはなけれとも月をともにてあかす頃哉
1008:0663
物思ひて詠る頃の月の色にいか斗なる哀そふらむ
1009:0664
天雲のわりなきひまをもる月の影斗たにあひみてし哉
1010:0665
秋の月しのたのもりのち枝よりもしけき歎や隈になるらむ
1011:0666
思ひしる人あり明のよなりせはつきせすみをは恨さらまし
1012:0667
恋
数ならぬ心のとかになしはてししらせて社は身をも恨みし
---- 下四
1013:0668
打向ふそのあらましの面かけをまことになしてみるよしもかな
1014:0669
山かつの荒野をしめて住そむるかた便なる恋もする哉
1015:0670
ときは山しゐの下柴かり捨むかくれて思ふかひのなきかと
1016:0671
歎くともしらはや人のをのつから哀と思ふことも有へき
1017:0672
何となくさすかにをしき命哉ありへは人や思ひしるとて
1018:0673
何故かけふまて物を思はまし命にかへて逢せなりせは
1019:0674
あやめつゝ人しるとてもいかゝせむしのひはつへき袂ならねは
1020:0675
涙川ふかくなかるゝみをならはあさき人めにつゝまさらまし
1021:0676
しはしこそ人めつゝみにせかれけれはては涙やなる瀧の川
1022:0677
物思へは袖になかるゝ涙川いかなるみをに逢せ有なむ
1023:0678
うきたひになとなと人を思へとも叶はて年の積りぬる哉
1024:0679
中々になれぬ思ひのまゝならは恨はかりや身につもらまし
1025:0680
何せむにつれなかりしをうらみけむあはすはかゝる思ひせましや
1026:0681
むかはしは我かなけきのむくひにて誰故君か物ををもはむ
1027:0682
身のうさの思ひ知らるゝことはりにをさへられぬは涙也けり
1028:0683
日をふれは袂の雨のあしそひて晴へくもなき我こゝろ哉
1029:0684
かきくらす涙の雨のあししけみさかりに物のなけかしきかな
1030:0685
物思へとかゝらぬ人もあるものを哀也ける身のちきり哉
1031:0686
岩代の松風きけは物を思ふ人も心はむすほゝれけり
1032:0687
なほさりのなさけは人のある物をたゆるは常のならひなれとも
1033:0688
なにとこはかすまへられぬ身の程に人を恨るこゝろ有けむ
1034:0689
うきふしをまつ思ひしる涙かなさのみ社はと慰れとも
---- 下五
1035:0690
さま/\に思ひみたるゝ心をは君かもとにそつかねあつむる
1036:0691
物思へはちゝに心そくたけぬるしのたのもりの枝ならねとも
1037:0692
かゝる身にをふしたてけむたらちねの親さへつらき恋もする哉
1038:0693
おほつかな何のむくひの帰きて心せたむるあたとなるらむ
1039:0694
かきみたる心やすめのことくさは哀々となけくはかりそ
1040:0695
身をしれは人のとかとは思はぬに恨かほにもぬるゝ袖哉
1041:0696
中々になるゝつらさにくらふれはうとき恨はみさほ也けり
1042:0697
人はうし歎は露もなくさますこはさはいかにすへき心そ
1043:0698
日にそへて恨はいとゝ大海のゆたか也ける我なみた哉
1044:0699
さることのある也けりと思出て忍ふ心を忍へとそ思ふ
1045:0700
今そしる思ひ出よと契りしは忘むとての情也けり
1046:0701
なにはかた波のみいとゝ数そひて恨のひまや袖のかはらむ
1047:0702
心さしのありてのみやは人をとふなさけはなとゝ思ふ斗そ
1048:0703
中々に思ひしるてふことのはゝとはぬに過てうらめしき哉
1049:0704
なとかわれことの外なる歎せてみさほなる身に生れさりけむ
1050:0705
汲てしる人も有けむおのつからほりかねの井の底のこゝろを
1051:0706
けふり立富士の思ひのあらそひてよたけき恋をするかへそ行
1052:0707
涙川さかまくみをの底ふかみみなきりあへぬ我こゝろかな
1053:0708
せと口に立るうしほの大淀みよとむとしひもなき涙かな
1054:0709
いそのまに波あらけなる折々は恨をかつくさとのあま人
1055:0710
東路やあひの中山ほとせはみ心のをくのみえは社あらめ
1056:0711
いつとなく思ひにもゆる我身哉あさまの煙しめるよもなく
---- 下六
1057:0712
はりまちや心のすまに関すへていかに我身の恋をとゝめむ
1058:0713
哀てふなさけに恋のなくさまは問ことのはや嬉しからまし
1059:0714
物思ひはまた夕くれのまゝなるに明ぬとつくるしは鳥のこゑ
1060:0715
夢をなとよころたのまて過きけむさらて逢へき君ならなくに
1061:0716
さはといひて衣かへして打ふせとめのあはゝやは夢もみるへき
1062:0717
恋らるゝうき名を人に立しとて忍ふわりなき我袂かな
1063:0718
夏草のしけりのみ行思ひかなまたるゝ秋の哀しられて
1064:0719
紅の色に袂のしくれつゝ袖に秋ある心ちこそすれ
1065:0720
哀とてなととふ人のなかるらむ物思ふやとの荻の上風
1066:0721
わりなしやさこそ物思ふ袖ならめ秋にあひてもおける露哉
1067:0722
いかにせむこむよのあまと成程にみるめかたくて過る恨を
1068:0723
秋ふかきのへの草葉にくらへはや物思ふ頃の袖のしら露
1069:0724
物思ふ涙ややかてみつせ河人をしつむる渕と成らむ
1070:0725
哀々このよはよしやさもあらはあれこむよもかくやくるしかるへき
1071:0726
たのもしなよひ暁のかねのをとに物思ふつみはつきさらめやは
1072:1259
恋百十首
思ひあまりいひ出てこそ池水の深き心の程はしられめ
1073:1260
なき名こそしかまの市に立にけれまたあひ初ぬ恋する物を
1074:1261
つゝめとも涙の色にあらはれて忍ふ思ひは袖よりそちる
1075:1262
わりなしや我も人めをつゝむまにしゐてもいはぬ心つくしは
1076:1263
なか/\にしのふけしきやしるからむかゝる思ひに習なき身は
1077:1264
気色をはあやめて人のとかむとも打まかせてはいはしとそ思ふ
1078:1265
心にはしのふと思ふかひもなくしるきは恋の涙也けり
---- 下七
1079:1266
色に出ていつより物は思ふそと問人あらはいかゝこたへむ
1080:1267
逢ことのなくてやみぬる物ならは今みよ世にもありやはつると
1081:1268
うき身とてしのはゝ恋のしのはれて人の名たてに成もこそすれ
1082:1269
みさほなる涙なりせはから衣かけても人にしられましやは
1083:1270
歎あまり筆のすさひにつくせとも思ふ斗はかゝれさりけり
1084:1271
我歎く心のうちのくるしきを何とたとへて君にしられむ
1085:1272
今はたゝ忍ふ心そつゝまれぬなけかは人やをもひしるとて
1086:1273
心にはふかくしめとも梅の花をらぬ匂ひはかひなかりけり
1087:1274
さりとよとほのかに人をみつれとも覚ぬは夢の心地こそすれ
1088:1275
消かへり暮待袖そしほれぬるをきつる人は露ならねとも
1089:1276
いかにせむその五月雨の名こりよりやかてをやまぬ袖の雫を
1090:1277
さるほとの契はなにゝありなからゆかぬ心のくるしきやなそ
1091:1278
今はさは覚ぬを夢になしはてゝ人に語らてやみねとそ思ふ
1092:1279
をる人の手にはたまらて梅の花誰うつりかにならむとすらむ
1093:1280
うたゝねの夢をいとひし床の上の今朝いかはかり起うかるらむ
1094:1281
ひきかへて嬉しかるらむ心にもうかりしことを忘れさらなむ
1095:1282
七夕は逢をうれしと思ふらむ我は別のうき今宵哉
1096:1283
をなしくは咲初めしよりしめをきて人にをられぬ花と思はむ
1097:1284
朝露にぬれにし袖をほす程にやかて夕たつ我涙かな
1098:1285
待かねて夢にみゆやとまとろめはね覚すゝむる荻の上風
1099:1286
つゝめとも人しるこひや大井川いせきのひまをくゝる白波
1100:1287
あふまての命もかなと思ひしは悔しかりける我こゝろ哉
---- 下八
1101:1288
今よりはあはて物をは思ふとも後うき人に身をはまかせし
1102:1289
いつかはとこたへむことのねたき哉思ひもしらす恨きかせよ
1103:1290
袖の上の人めしられし折まてはみさほなりける我なみた哉
1104:1291
あやにくに人めもしらぬ涙かな絶ぬ心にしのふかひなく
1105:1292
荻の音は物思ふ我になになれはこほるゝ露に袖のしほるゝ
1106:1293
草しけみ沢にぬはれてふす鴫のいかによそたつ人の心そ
1107:1294
哀とて人の心のなさけあれな数ならぬにはよらぬなさけを
1108:1295
いかにせむうき名をよゝにたて果て思ひもしらぬ人のこゝろを
1109:1296
忘られむことを重て思ひにきなとをとろかす涙なるらむ
1110:1197
とはれぬもとはぬ心のつれなさもうきはかはらぬ心ちこそすれ
1111:1298
つらからむ人ゆへ身をは恨みしと思ひしかとも叶はさりけり
1112:1299
今更に何かは人もとかむへきはしめてぬるゝ袂ならねは
1113:1300
わりなしな袖に歎きのみつまゝに命をのみもいとふ心は
1114:1301
色深き涙の河の水上は人をわすれぬ心なりけり
1115:1302
待かねてひとりはふせと敷妙の枕ならふるあらましそする
1116:1303
とへかしななさけは人の身のためをうき物とても心やはある
1117:1304
ことのはの霜かれにしに思ひにき露のなさけもかゝらましかは
1118:1305
夜もすから恨を袖にたゝふれは枕に波の音そ聞ゆる
1119:1306
なからへて人のまことをみるへきに恋に命のたゝむ物かは
1120:1307
たのめをきし其いひことやあたになりし波こえぬへき末の松山
1121:1308
川のせによに消ぬへきうたかたの命をなそや君かたのむる
1122:1309
かり初にをく露とこそ思ひしか秋にあひぬる我たもと哉
---- 下九
1123:1310
をのつからありへはと社思ひつれ頼なくなる我命かな
1124:1311
身をもいとひ人のつらさを歎れて思ひ数ある頃にも有哉
1125:1312
すかのねのなかく物をは思はしと手向し神に祈し物を
1126:1313
打とけてまとろまはやは唐衣よな/\かへすかひも有へき
1127:1314
我つらきことをやなさむをのつから人めを思ふ心ありやと
1128:1315
ことゝへはもてはなれたるけしき哉うららかなれや人の心の
1129:1316
物思ふ袖に歎のたけみえてしのふしらぬは涙成けり
1130:1317
草の葉にあらぬ袂に物思へは袖に露をく秋の夕くれ
1131:1318
逢ことのなき病にて恋しなはさすかに人や哀と思はむ
1132:1319
いかにそやいひやりたりし方もなく物を思ひて過るころ哉
1133:1320
我はかり物思ふ人や又もあるともろこしまても尋てし哉
1134:1321
君に我いかはかりなる契ありてまなくも物を思ひそめ剱
1135:1322
さらぬたにもとの思ひのたえぬまに歎を人のそふる也けり
1136:1323
我のみそ我心をはいとをしむ哀む人のなきに付ても
1137:1324
うらみしと思ふ我さへつらき哉とはて過ぬる心つよさを
1138:1325
いつとなき思ひはふしの烟にておきふす床やうき島か原
1139:1326
これもみな昔のことゝいひなからなと物思ふ契なりけむ
1140:1327
なとか我つらき人ゆへ物を思ふ契をしもは結ひ置けむ
1141:1328
紅にあらぬ袂のこき色はこかれてものを思ふ涙か
1142:1329
せきかねてさはとて流す瀧つせにわく白玉は涙也けり
1143:1330
なけかしとつゝみし頃は涙たに打まかせたる心ちやはせし
1144:1331
詠こそうき身のくせとなり果て夕暮ならぬ折も別ぬ
---- 下十
1145:1332
今は我恋せむ人をとふらはむよにうきことゝ思ひしられぬ
1146:1333
思へともおもふかひこそなかりけれ思ひもしらぬ人を思へは
1147:1334
あやひねるさゝめのこ蓑きぬにきむ涙のあめを凌かてらに
1148:1335
なそもかくことあたらしく人のとふ我物思ひはふりにし物を
1149:1336
しなはやと何思ふらむ後のよも恋はよにうきこととこそきけ
1150:1337
わりなしやいつを思ひの果にして月日を送るわか身なるらむ
1151:1338
いとをしやさらは心のをさなひてたまきれらるゝ恋もする哉
1152:1339
君したふ心のうちはちこめきて涙もろにも成我身哉
1153:1340
なつかしき君か心の色をいかて露もちらさて袖につゝまむ
1154:1341
いくほともなからふましき世中に物を思はてふるよしもかな
1155:1342
いつか我ちりつむとこを払ひあけてこむとたのめむ人を待へき
1156:1343
よたけたつ袖にたくへて忍ふ哉袂の瀧におつるなみたを
1157:1344
うきによりついに朽ぬる我袖を心つくしに何忍ひけむ
1158:1345
心からこゝろに物ををもはせて身をくるしむる我身也けり
1159:1346
ひとりきて我身にまとふ唐衣しほ/\と社泣ぬらさるれ
1160:1347
いひ立て恨はいかにつらからむ思へはうしや人のこゝろは
1161:1348
なけかるゝ心のうちのくるしさを人のしらはや君にかたらむ
1162:1349
人しれぬ涙にむせふ夕くれは引かつきてそ打ふされける
1163:1350
思ひきやかゝるこひちに入初てよく方もなき歎せむとは
1164:1351
あやうさに人めそ常によかれける岩の角ふむほきのかけ道
1165:1352
しらさりき身にあまりたる歎して隙なく袖をしほるへしとは
1166:1353
吹風に露もたまらぬ葛のはのうらかへれとは君をこそ思へ
---- 下十一
1167:1354
我からともにすむ虫の名にしおへは人をは更にうらみやはする
1168:1355
むなしくてやみぬへきかな空蝉の此身からにて思ふなけきは
1169:1356
つゝめとも袖より外にこほれ出てうしろめたきは涙也けり
1170:1357
我涙うたかはれぬる心かなゆへなく袖のしほるへきかは
1171:1358
さることのあるへきかはとしのはれて心いつまてみさほ成らむ
1172:1359
とりのくし思ひもかけぬ露はらひあなくしたかの我心哉
1173:1360
君にそむ心の色の深さには匂ひもさらにみえぬ也けり
1174:1361
さもこそは人め思はすなりはてめあなさまにくの袖のけしきや
1175:1362
かつすゝく沢のこせりのねを白み清けに物を思はする哉
1176:1363
いかさまに思ひつゝけて恨みまし偏につらき君ならなくに
1177:1364
恨みてもなくさめてまし中々につらくて人のあはぬと思へは
1178:1365
打たえて君にあふ人いかなれや我身も同し世に社はふれ
1179:1366
とにかくにいとはまほしき世なれとも君か住にもひかれぬる哉
1180:1367
何ことにつけてか世をはいとはましうかりし人そ今はうれしき
1181:1368
あふとみしそのよの夢のさめてあれな長き眠りはうかるへけれと
此歌題も又人にかはりたることとももありけれとかゝす此歌
ともやまさとなる人のかたるにしたかひてかきたるなりされは
ひかことともやむかしいまのこととりあつめたれはときをりふし
たかひたることゝもゝ
コノ注雑下恋百十首ト云ニ書ソへ夕リヨテソレニシ夕力ヒ
テコゝニイ夕ス愚考大本再出ニクハシク云へシ
1182:1179
陰陽頭に侍けるものにある所のはした物もの申けりいと思ふ
---- 下十二
やうにもなかりけれは六月晦日に遣しけるにかはりて
我ためにつらき心をみな月のてつからやかてはらへすてなむ
1183:1511
百首歌の中恋十首
ふるきいもかそのにうへたるからなつな誰なつさへとおほし立らむ
1184:1512
紅のよそなる色はしられねはふてにこそまつ染初けれ
1185:1513
さま/\の歎を身にはつみ置ていつしめるへき思なるらむ
1186:1514
君をいかにこまかにゆへるしけめゆい立もはなれすならひつゝみむ
1187:1515
こひすともみさほに人にいはれはや身にしたかはぬ心やはある
1188:1516
思ひ出よみつの浜松よそたつるしかのうら波たゝむ袂を
1189:1517
うとくなる人は心のかはるとも我とは人に心おかれし
1190:1518
月をうしと詠なからも思ふかなその夜斗の影とやはみし
1191:1519
我はたゝかへさてをきむさよ衣きてねしことを思ひ出つゝ
1192:1520
かは風にちとり鳴らむ冬のよは我思にて有けるものを
Subtitle
雑歌
1193:0740
いにしへころ東山にあみた房と申ける上人の庵室にまか
りてみけるに哀とをほえてよみける
柴の庵ときくは賤き名なれともよにこのもしき住居也けり
1194:0741
世をのかれけるをりゆかりなりける人のもとへいひ送ける
世中をそむきはてぬと云をかむ思ひしるへき人はなくとも
1195:0975
題しらす
つゝらはふは山は下もしけゝれは住人いかにこくらかるらむ
1196:0976
熊のすむ苔の岩山恐しみむへなりけりな人も通はす
1197:0991
ねわたしにしるしの竿や立つらむこひのまちつるこしの中山
1198:0992
雲鳥やしこき山路はさてをきてをくちるはらのさひしからぬか
1199:0987
まさきわるひたのたくみや出ぬらむむら雨過ぬかさとりの山
1200:0988
河合やまきのすそ山石たてる杣人いかに凉しかるらむ
1201:0989
杣くたすまくにかおくの河上にたつきうつへしこけさ浪よる
1202:0970
分いりて誰かは人の尋へき岩かけ草のしける山路を
1203:1067
山寺の夕暮といふことを人々よみ侍けるに
嶺をろす松のあらしの音に又ひゝきをそふる入相の鐘
1204:1068
夕暮山路
夕されやひはらの嶺を越行は凄くきこゆる山はとの声
1205:1012
題しらす
ふる畑のそはたつ木にを居る鳩の友よふ声の凄き夕暮
1206:0994
をりかくる波のたつかとみゆる哉すさきにきゐる鷺の村鳥
1207:0972
つかはねとうつれる影を友として鴦住けりな山川の水
1208:1451
みなつるは沢の氷のかゝみにてちとせの影をもてやなすらむ
1209:0971
山さとは谷のかけひのたえ/\に水こひ鳥の声聞ゆなり
---- 下十四
1210:1417
ことりとものうたよみける中に
声せすと色こくなると思はまし柳のめはむひはのむら鳥
1211:1418
もゝそのゝ花にまかへるてりうそのむれ立おりはちるこゝちする
1212:1419
ならひゐてともをはなれぬこからめのねくらにたのむしゐの下枝
1213:1182
屏風の絵を人々よみけるに海のきはにをさなきいやしきものゝ有所を
磯なつむあまのさをとめ心せよ沖ふく風に浪高くなる
1214:1183
をなしゑにとまのうちにねをとろきたる所
磯による浪に心のあらはれてね覚かちなるとまやかた哉
1215:1010
題しらす
山もなき海の面にたなひきて波の花にもまかふしら雲
1216:0993
ふもと行舟人いかに寒からむくま山たけををろすあらしに
1217:1013
浪につきていそはにいますあら神は塩ふむきねを待にや有らむ
1218:1014
塩風にいせの浜荻ふせは先ほすゑに波のあらたむる哉
1219:1015
あら磯の波にそなれてはふ松はみさこのゐるそ便なりける
1220:1016
浦ちかみかれたる松の梢には波の音をや風はかるらむ
1221:1017
あはち嶋せとのなころは高くとも此汐わたにさし渡らはや
1222:1018
汐ち行かこみのともろ心せよまたうつ早きせと渡る也
1223:1019
磯にをる波のけはしくみゆる哉沖になころや高く行らむ
1224:1041
とをくさすひたのをもてにひく汐はしつむ心そ悲しかりける
1225:1020
おほつかないふきおろしの風さきにあさつま舟はあひやしぬらむ
1226:1021
くれ舟よあさつま渡り今朝なせそいふきのたけに雪しまくなり
1227:1066
竹風驚夢
玉みかく露そ枕にちりかゝる夢をとろかす竹のあらしに
1228:1104
題しらす
身にもしみ物あらけなるけしきさへ哀をせむる風の音かな
---- 下十五
1229:1105
いかてかは音に心のすまさらむ草木もなひく嵐なりける
1230:1106
松風はいつもときはに身にしめと分て淋しき夕くれのそら
1231:0949
凩に木葉のおつる山さとは涙さへこそもろく成けれ
1232:0950
嶺渡る嵐はけしき山さとにそへて聞ゆる瀧川の水
1233:0951
とふ人も思ひたえたる山里の淋しさなくは住うからまし
1234:0952
暁のあらしにたくふ鐘のねを心の底にこたえてそきく
1235:0953
またれつる入相のかねの音す也あすもやあらは聞むとすらむ
1236:0954
松風の音あはれなる山里に淋しさそふる日くらしの声
1237:0955
谷のまにひとりそ松はたてりけり我のみ友はなきと思へは
1238:0956
入日さす山のあなたはしらねとも心をそかねておくりをきつる
1239:0957
何となくくむたひにすむ心哉岩井の水に影うつしつゝ
1240:0958
水の音は淋しき庵の友なれや嶺の嵐の絶ま/\に
1241:1205
八条院の宮と申けるをり白川殿にてむしあはせられけるに
かはりて虫入てとり出しける物に水に月のうつりたるよしを
つくりて夫心をよみける
行末の名にや流む常よりも月すみ渡る白川の水
1242:1206
二条院
内に貝あはせせむとせさせ給けるに人にかはりて
風たちて波ををさむる浦々に小貝をむれてひろふ也けり
1243:1207
なにはかたしほひにむれて出たゝむしらすのさきの小貝ひろいに
1244:1208
風吹は花咲波のおるたひに桜貝よるみしまえのうら
1245:1209
波あらふ衣のうらの袖貝をみきはに風のたゝみをく哉
1246:1210
なみかくる吹上の浜の簾貝風もそをろす磯にひろはむ
---- 下十六
1247:1211
しほそむるますをのこ貝ひろふとて色の浜とはいふにや有らむ
1248:1212
波よする竹の泊のすゝめ貝うれしきよにもあひにけるかな
1249:1213
なみよするしららの浜のからす貝ひろいやすくもおもほゆる哉
1250:1214
かひありな君か御袖にをほはれて心にあはぬことしなきよは
1251:1560
百首歌の中雑十首
沢の面にふせたるたつの一声にをとろかされてちとり鳴也
1252:1561
友になりて同し湊を出るふねの行方もしらす漕分ぬる
1253:1562
瀧をつるよしのゝをくのみやかはの昔をみけむ跡したはゝや
1254:1563
我そのゝ岡へに立るひとつ松をともとみつつも老にけるかな
1255:1564
さま/\の哀ありつる山さとを人につたへて秋の暮ける
1256:1565
山かつのすみぬとみゆるわたり哉冬にあせ行しつはらのさと
1257:1566
山さとの心の夢にまとひをれは吹しらまかす風の音かな
1258:1567
月をこそ詠は心うかれ出めやみなる空にたゝよふやなそ
1259:1568
波たかき芦やの沖をかへる舟のことなくてよを過むとそ思ふ
1260:1569
さゝかにの糸よをかくて過にける人のひとなる手にもかゝらて
1261:1184
庚申のよくしくはりて歌よみけるに古今後撰拾遺これを
梅さくら山吹によせたる題をとりてよみける
古今梅によす
紅の色こき梅を折人の袖にはふかき香やとまるらむ
1262:1185
後撰桜によす
春風のふきをこせむに桜花となりくるしくぬしや思はむ
1263:1186
拾遺山吹によす
山吹の花咲井手の里こそはやしうゐたりと思はさらなむ
1264:1171
月蝕を題にてうたよみけるに
いむといひて影にあたらぬ今宵しもわれて月みる名や立ぬらむ
---- 下十七
1265:1025
題しらす
いたけもるあまみか時に成にけりゑそかち島を烟こめたり
1266:1026
ものゝふのならすすさひはおひたゝしあけとのしさりかもの入くひ
1267:1027
むつのくのをくゆかしくそ思ほゆるつほのいしふみそとの浜風
1268:1028
あさかへるかりゐうなこのむら鳥ははらのをかやに声やしぬらむ
1269:1030
もろ声にもりかきみかそ聞ゆなるいひ合てやつまをこふらむ
1270:1109
年頃きゝ渡りける人に初て対面申て帰る朝に
わかるともなるゝ思ひをかさねまし過にしかたの今宵なりせは
1271:0868
同行に侍ける上人月の頃天王寺にこもりたりと聞ていひつかは
しける
いとゝいかに西にかたふく月影を常よりもけに君したふらむ
1272:0869
堀河局仁和寺に住み侍けるにまいるへきよし申たりけれともまきる
ことありて程へにけり月の頃まへを過けるを聞ていひ送られける
西へ行しるへとたのむ月かけの空たのめこそかひなかりけれ
1273:0870
かへし
さしいらて雲ちをよきし月影はまたぬ心や空にみえけむ
1274:0816
ゆかりなくなりてすみうかれにける古郷へ帰りゐける人のもとへ
すみすてし夫ふるさとをあらためて昔にかへる心地もやする
1275:0769
ある人よをのかれて北山寺にこもりゐたりと聞て尋ねまかり
たりけるに月あかゝりけれは
世をすてゝ谷底に住人みよと嶺の木のまを出る月影
1276:0770
ある宮はらにつけつかへ侍りける女房世をそむきて都はな
れて遠くまからむと思ひ立てまいらせけるにかはりて
悔しくもよしなく君に馴そめていとふ都のしのはれぬへき
1277:0745
侍從大納言成道のもとへ後のよのことをとろかし申たりける返ことに
---- 下十八
おとろかす君によりてそ長夜の久しき夢はさむへかりける
1278:0746
かへし
おとろかぬ心なりせは世中を夢そとかたるかひなからまし
1279:0747
中院右大臣出家思立よしかたり給けるに月のいとあかくよもすから
哀にて明にけれは帰けりそのゝちそのよの名残をほかりし
よしいひ送給とて
よもすから月を詠て契置し夫むつことに闇ははれにし
1280:0748
かへし
すむとみし心の月しあらはれは此世も闇は晴さらめやは
1281:0749
爲なりときはに堂供養しけるによをのかれて山寺に住侍ける
したしき人々まうてきたりと聞ていひつかはしける
いにしへにかはらぬ君か姿こそけふはときはの形見なるらめ
1282:0750
かへし
色かへて独りのこれるときは木はいつをまつとか人のみるらむ
1283:0751
ある人さまかへて仁和寺のをくなる所に住と聞てまかりて
尋けれはあからさまに京にと聞て帰にけりそのゝち
人つかはしてかくなむまいりたりしと申たる返ことに
立よりて柴の烟の哀さをいかゝ思ひし冬の山さと
1284:0752
かへし
山さとに心はふかく住なから柴の烟の立帰にし
1285:0753
此歌もそへられたりける
をしからぬ身を捨やらてふる程に長き闇にや又迷なむ
1286:0754
かへし
世を捨ぬ心のうちに闇こめて迷はむことは君ひとりかは
1287:0755
したしき人々あまたありけれは同し心に誰も御らむせよとつか
はしたりける返ことに又
なへてみな晴せぬ闇の悲しさを君しるへせよ光みゆやと
---- 下十九
1288:0756
又かへし
思ふともいかにしてかはしるへせむをしふる道にいらはこそあらめ
1289:0757
後の世のこと無下に思はすしもなしとみえける人のもとへいひつかはし
ける
世中に心あり明の人はみなかくて闇にはまよはぬものを
1290:0758
かへし
よをそむく心斗は有明のつきせぬ闇は君にはる剱
1291:0759
ある所の女房世をのかれて西山に住と聞て尋けれは住あらし
たるさまして人の影もせさりけりあたりの人にかくと申をきたり
けるを聞ていひ送りける
しほなれしとまやもあれてうき波に寄かたもなきあまとしらすや
1292:0760
かへし
とまのやに波立よらぬけしきにてあまり住うき程はみえけり
1293:0933
阿闍梨兼堅よをのかれて高野にすみ侍りけりあからさまに
仁和寺に出てかへりもまいらぬことにて僧綱になりぬときゝ
ていひつかはしける
けさの色やわか紫に染てける苔の袂を思ひかへして
1294:0943
新院歌あつめさせおはしますときゝてときはにためたゝか歌
の侍けるをかきあつめてまいらせける大原よりみせにつかは
すとて 寂超長門入道
木の本に散ことのはをかく程にやかても袖のそほちぬる哉
1295:0944
かへし
年ふれと朽ぬときはのことのはを嘸しのふらむ大原のさと
1296:0945
寂超ためたゝか歌に我うたかきくしまたをとうとの寂
然かうたなととりくして新院へまひらせけるを人とりつたへ
まいらせけると聞てあにゝ侍ける想空かもとより
家の風つたふ斗はなけれともなとかちらさぬなけのことのは
---- 下二十
1297:0946
かへし
家の風むねと吹へきこの本は今ちりなむと思ふことのは
1298:0947
新院百首のうためしけるに奉るとて右大将きむよしのもと
よりみせにつかはしたりけるかへし申とて
家の風吹つたへけるかひありてちることのはのめつらしき哉
1299:0948
かへし
家の風吹つたふともわかの浦にかひあることのはにて社しれ
1300:1257
左京大夫俊成うたあつめらるゝと聞て歌つかはすとて
花ならぬことのはなれとをのつから色もやあると君拾はなむ
1301:1258
かへし 俊成
世を捨て入にし道のことのはそ哀も深き色はみえける
1302:1369
此集をみて返しけるに 院少納言の局
まきことに玉の声せし玉章のたくひは又もありける物を
1303:1370
かへし
よしさらは光なくとも玉と云て詞のちりは君みかゝなむ
1304:0784
范蠡かちやうなむの心を
すてやらて命ををふる人はみなちゝのこかねをもてかへるなり
1305:0735
世につかうへかりける人のこもりゐたりけるもとへつかはしける
世中にすまぬもよしや秋の月濁れる水のたゝふ盛りに
1306:1178
人あまたしてひとりにかくしてあらぬさまにいひなしけることの侍
けるをきゝてよめる
一すちにいかて杣木のそろひけむいつよりつくる心たくみに
1307:1245
世中に大事いてきて新院あらぬさまにならせをはしまして
御くしをろして仁和寺の北院にをはしましけるにまいりて
けむけむあさりいてあひたり月あかくてよみける
---- 下二十一
かゝるよに影もかはらすすむ月をみる我みさへ恨しき哉
1308:1248
さぬきにて御心ひきかへて後の世のこと御つとめひまなくせ
させおはしますと聞て女房のもとへ申ける此文をかきて
若人不嗔打以何修忍辱
世中をそむく便やなからましうき折ふしに君かあはすは
1309:1249
是もついてにくしてまいらせける
あさましやいかなるゆへのむくひにてかゝることしも有よ成らむ
1310:1250
なからへてつゐに住へき都かは此よはよしやとてもかくても
1311:1251
幻の夢をうつゝにみる人はめもあはせてやよをあかすらむ
1312:1252
かくて後人のまいりけるに
その日より落る涙をかたみにて思ひ忘るゝ時のまそなき
1313:1253
かへし 女房
めのまへにかはりはてにし世のうきに涙を君もなかしける哉
1314:1254
松山の涙は海に深くなりて蓮の池にいれよとそ思ふ
1315:1255
波の立心の水をしつめつゝ咲む蓮をいまはまつかな
1316:1180
ゆかりありける人の新院のかむたうなりけるをゆるし給ふへき
よし申いれたりける御返事に
もかみ川つなてひくともいな舟のしはしかほとはいかりをろさむ
1317:1181
御返ことたてまつりけり
つよくひく綱てとみせよもかみ川そのいな舟のいかり納めて
かく申たりけれはゆるし給ひてけり
1318:1246
さぬきへをはしまして後うたといふことのよにいときこえさりけれは
---- 下二十二
寂然かもとへいひつかはしける
ことのはのなさけ絶にし折ふしに有あふみ社かなしかりけれ
1319:1247
かへし 寂然
しきしまや絶ぬる道になく/\も君とのみこそあとを忍はめ
1320:1464
さぬきの位にをはしましけるをりみゆきのすゝのろうを
聞てよみける
ふりにける君かみゆきのすゝのろうはいかなるよにもたえすきこえむ
1321:0744
述懐
何ことにとまる心の有けれは更にしも又よのいとはしき
1322:0917
心に思ひけることを
濁りたる心の水のすくなきに何かは月のかけやとるへき
1323:0918
いかて我清くくもらぬ身となりて心の月のかけをみかゝむ
1324:0919
のかれなくつゐに行へき道をさはしらてはいかゝすくへかりける
1325:0920
愚なる心にのみやまかすへきしとなることもあるなるものを
1326:0921
のにたてる枝なき木にもをとりけり後の世しらぬ人のこゝろは
1327:0922
五首述懐
みのうさを思ひしらてややみなましそむく習ひのなきよなりせは
1328:0923
いつくにかみをかくさまし厭てもうきよにふかき山なかりせは
1329:0924
みのうさの隱かにせむ山さとは心ありてそすむへかりける
1330:0925
哀しる涙の露そこほれける草の庵をむすふちきりは
1331:0926
うかれ出る心はみにも叶はねはいかなりとてもいかにかはせむ
1332:0884
寄藤花述懐
西を待心に藤をかけてこそそのむらさきの雲をおもはめ
1333:0737
花たちはなによせて思ひをのへけるに
世のうきを昔語りになしはてゝ花橘におもひ出はや
---- 下二十三
1334:1055
題しらす
我なれや風を煩ふしの竹はをきふし物の心細くて
1335:1044
風吹はあたになり行はせをはのあれはとみをも頼むへきよか
1336:1039
みくまのゝ浜ゆふ生る浦さひて人なみ/\に年そかさなる
1337:1256
老人述懐といふことを人々よみけるに
山深み杖にすかりている人の心の底のはつかしきかな
1338:1047
題しらす
時雨かは山めくりする心かないつまてとのみ打しほれつゝ
1339:1048
はら/\と落る涙そ哀なるたまらす物のかなしかるへし
1340:1049
何となくせりと聞こそ哀なれつみけむ人の心しられて
1341:1050
山人よ吉野のをくにしるへせよ花も尋む又をもひあり
1342:1432
つゆもありかへす/\も思出てひとりそみつる朝かほの花
1343:1433
ひときれは都をすてゝ出れともめくりてはなをきそのかけ橋
1344:0811
故郷述懐といふことをときはの家にてためなりよみける
にまかりあひて
しけきのをいく一むらに分なして更にむかしをしのひかへさむ
1345:1063
大原に良暹かすみける所に人々まかりて述懐のうたよ
みてつま戸にかきつけける
大原やまたすみかまもならはすといひけむ人をいまあらせはや
1346:0814
周防内侍我さへ軒のと書付ける古郷にて人々思ひをのへ
けるに
いにしへはついゐし宿も有物を何をか忍ふしるしにはせむ
1347:1521
百首歌之中述懐十首 一首不足
いささらは盛り思も程もあらしはこやか嶺のはるにむつれて
1348:1522
山深く心はかねてをくりてき身こそうきみを出やらねとも
---- 下二十四
1349:1523
月にいかて昔のことをかたらせて影にそひつゝ立もはなれむ
1350:1524
うき世とし思はても身の過にける月の影にもなつさはりつゝ
1351:1525
雲につきてうかれのみ行心をは山にかけてをとめむとそ思ふ
1352:1526
捨てのちはまきれしかたは覚ぬを心のみをはよにあらせける
1353:1527
ちりつかてゆかめる道をなをくなして行々人をよにつかむとや
1354:1528
はとしまむと思ひもみえぬよにしあれは末にさこそは大ぬさの空
1355:1529
ふりにける心こそ猶哀なれおよはぬ身にもよを思はする
1356:0789
七月十五日月あかゝりけるに舟岡と申所にて
いかて我こよひの月を身にそへてしての山路の人をてららさむ
1357:0731
題しらす
我宿は山のあなたに有物を何とうきよをしらぬこゝろそ
1358:0732
くもりなきかゝみの上にゐるちりをめにたてゝみる世と思ははや
1359:0733
なからへむと思ふ心そ露もなきいとふにたにもたらぬうきみは
1360:0734
思ひ出る過にしかたをはつかしみあるに物うきこの世也けり
1361:1434
捨たれとかくれてすまぬ人になれは猶よに有に似たる也けり
1362:1435
世中を捨て捨えぬ心地して都はなれぬ我身なりけり
1363:1436
捨し折の心をさらにあらためてみるよの人にわかれ果なむ
1364:1437
思へ心人のあらはやよにもはちむさりとてやはといさむ斗そ
1365:1438
くれ竹のふししけからぬよなりせはこの君はとてさし出なまし
1366:1439
あしよしを思ひわくこそくるしけれたゝあらるれはあられけるみを
1367:1440
深くいるは月ゆへとしもなき物をうき世忍はむみよしのゝ山
1368:0771
さらぬたによのはかなきを思ふみにぬえ鳴渡る明ほのゝ空
1369:0772
鳥へのを心のうちに分行はいまきの露に袖そそほつる
---- 下二十五
1370:0773
いつのよになかきねふりの夢覚てをとろくことのあらむとすらむ
1371:0774
世中を夢とみる/\はかなくも猶おとろかぬ我こゝろかな
1372:0775
なき人もあるを思ふに世中はねふりのうちの夢とこそしれ
1373:0776
きしかたのみしよの夢にかはらねは今もうつゝの心ちやはする
1374:0777
ことゝなくけふくれぬめりあすも又かはらすこそはひま過るかけ
1375:0778
こえぬれは又も此よに帰りこぬしての山こそ悲しかりけれ
1376:0779
はかなしやあたに命の露消てのへに我身の送をかれむ
1377:0780
露の玉きゆれは又もをくものをたのみもなきは我み也けり
1378:0781
あれはとてたのまれぬ哉あすは又きのふとけふはいはるへけれは
1379:0782
秋の色は枯野なからも有物をよのはかなさやあさちふの露
1380:0783
とし月をいかて我身に送りけむきのふの人もけふはなきよに
1381:1445
思ひ出て誰かはとめて分もこむいる山道の露の深さを
1382:1446
くれ竹の今いくよかはおきふして庵の窓をあけおろすへき
1383:1447
そのすちにいりなは心なにしかも人め思ひてよにつゝむらむ
1384:1059
泉のぬしかくれてあとつたへたる人のもとにまかりて泉に向て
ふかきを思ふといふことをひと/\よみけるに
すむ人の心くまるゝいつみかな昔をいかに思ひいつらむ
1385:1060
友にあひてむかしをこふるといふことを
今よりは昔かたりは心せむあやしきまてに袖しほれけり
1386:0729
題しらす
軒ちかき花立花に袖しめて昔をしのふ涙つゝまむ
1387:0810
寄紅葉懐旧といふことを法金剛院にてよみけるに
いにしへをこふる涙の色に似て袂にちるは紅葉也けり
---- 下二十六
1388:0812
十月中の十日頃法金剛院の紅葉みけるに上西門院をはし
ますよし聞て待賢門院の御とき思出られて兵衛殿の局に
さしをかせける
紅葉みて君か袂やしくるらむむかしの秋の色をしたひて
1389:0813
返し
色深き梢をみてもしくれつゝふりにしことをかけぬ日そなき
1390:0727
題しらす
つく/\と物を思ふに打そへて折哀なる鐘のをとかな
1391:0728
なさけありし昔のみ猶しのはれてなからへまうき世にも有哉
1392:1045
故郷の蓬は宿のなになれはあれ行庭に先しけるらむ
1393:1046
ふるさとはみし世にもなくあせにけりいつち昔の人行にけむ
1394:0730
何ことも昔をきけはなさけ有てゆへあるさまにしのはるゝ哉
1395:441
さかのゝみしよにもかはりてあらぬやうになりて人いなむとし
たりけるをみて
此里やさかのみかりの跡ならむ野山もはてはあせかはりけり
1396:1442
大覚寺の金岡かたてたる石をみて
庭の岩にめたつる人もなからましかとあるさまにたてしをかねは
1397:1443
瀧のわたりのこたちあらぬことになりて松はかりなみたちたり
けるをみて
なかれみし岸のこたちもあせはてゝ松のみこそはむかしなるらめ
1398:1064
大覚寺の瀧殿の石とも閑院にうつされて跡もなくなりたりと
きゝてみにまかりたりけるに赤染かいまにかゝりとよみけむ
折をもひ出られて哀とおもほえけれはよみける
今たにもかゝりといひし瀧つせの其折まては昔なりけり
Subtitle
哀傷歌
1399:1463
れいならぬ人の大事なりけるか四月になしの花の咲たり
けるをみてなしのほしきよしをねかひけるにもしやと人に
尋けれはかれたるかしはにつゝみたるなしをたゝひとつつか
はしてこれはかりなと申たる返ことに
花の折かしはにつゝむしなのなしはひとつなれともありのみとみゆ
1400:0934
あき頃風わつらひける人を訪たりける返ことに
消ぬへき露の命も君かとふことのはにこそをきゐられけれ
1401:0935
かへし
吹過る風しやみなはたのもしき秋の野もせのつゆの白玉
1402:0936
院の小侍従例ならぬこと大事にふし沈てとし月へにけりと
聞て訪にまかりたりけるにこのほとすこしよろしきよし申
て人にもきかせぬ和琴の手ひきならしけるを聞て
ことのねに涙をそへてなかす哉絶なましかはと思ふ哀に
1403:0937
かへし
頼むへきこともなき身をけふ迄も何にかゝれる玉のをならむ
1404:0938
風わつらひて山寺へかえり入けるに人々訪てよろしくなりなは
又と申侍けるにをの/\心さしを思ひしりて
定なし風煩はぬ折たにも又こむことを頼へきよに
1405:0939
あたに散木葉につけて思ふ哉風さそふめる露の命を
1406:0940
我なくは此さと人や秋ふかき露を袂にかけてしのはむ
1407:0941
さま/\に哀をほかる別哉心を君かやとにとゝめて
1408:0942
帰れとも人のなさけにしたはれて心は身にもそはすなりぬる
かへしともありけるきゝをよはねはかゝす
---- 下二十八
1409:0792
同行にて侍りける上人例ならぬこと大事に侍けるに月の
あかくて哀なるをみける
もろともになかめな/\て秋の月ひとりにならむことそ悲しき
1410:0793
待賢門院かくれさせをはしましにける御跡に人々又のとしの
御はてまてさふらはれけるに南をもてのはなちりける頃堀河
の房のもとへ申送ける
尋ぬとも風のつてにもきかしかし花と散にし君か行方を
1411:0794
かへし
吹風の行方しらする物ならは花とちるにもをくれさらまし
1412:0795
近衛院の御墓に人にくして参たりけるに露のふかゝりけれは
みかゝれし玉の栖を露ふかきのへにうつしてみるそかなしき
1413:0796
一院かくれさせをはしましてやかて御所へ渡しまいらせけるよる高
野より出合て参たりけるいとかなしかりけり此後をはし
ますへき所御らむしはしめけるそのかみの御ともに右大臣
さねよし大納言と申けるさふらはれけるしのはせをはします
ことにて又人さふらはさりけり其をりの御ともにさふら
ひけることの思ひ出られて折しもこよひに参あひたるむかし
今のこと思ひつゝけられてよみける
今宵こそ思ひしらるれ浅からぬ君に契のあるみ也けり
1414:0797
をさめまひらせける所へ渡しまいらせけるに
道かはるみゆきかなしき今宵哉限の旅とみるに付ても
1415:0798
納まいらせて後御ともにさふらはれ人々たとへむかたなく
かなしなから限あることなりけれは帰られにけりはしめたること
---- 下二十九
ありて明日まてさふらひてよめる
とはゝやと思ひよりてそ歎かまし昔なからの我身なりせは
1416:0799
右大将きむよし父のふくのうちに母なくなりぬと聞て高野
よりとふらひ申ける
かさねきる藤の衣を便にて心の色を染よとそ思ふ
1417:0800
かへし
藤衣かさぬる色はふかけれとあさき心のしまぬ斗そ
1418:0801
同なけきし侍ける人のもとへ
君かため秋は世のうき折なれや去年も今年も物を思ひて
1419:0802
かへし
晴やらぬ去年のしくれのうへに又かきくらさるゝ山めくり哉
1420:0803
母なくなりて山寺にこもりゐたりける人をほとへて思ひいてゝ
人のとひたりけれはかはりて
思ひいつるなさけを人のおなしくは其折とへな嬉しからまし
1421:0804
ゆかりありける人はかなくなりにけるとかくのわさにとりへ山
へまかりて帰るに
限なく悲しかりけりとりへ山なきを送りて帰る心は
1422:0805
父のはかなくなりにけるそとはをみて帰りける人に
なき跡をそとはかりみて帰るらむ人の心を思こそやれ
1423:0806
をやかくれたのみたりけるむこうせなとして歎しける人の又
ほとなく娘にさへをくれけりと聞てとふらひけるに
此たひはさき/\みけむ夢よりもさめすや物は悲しかるらむ
1424:0807
五十日の果つかたに二條院の御はかに御仏供養しける
人にくして参りたりけるに月あかくて哀なりけれは
---- 下三十
今宵君しての山路の月をみて雲の上をや思ひいつらむ
1425:0808
御跡に三河内侍さふらひけるに九月十三夜人にかはりて
かくれにし君かみかけの恋しさに月に向てねをや鳴らむ
1426:0809
かへし 内侍
我君の光かくれし夕よりやみにそまよふ月はすめとも
1427:0817
をやにおくれてなけきける人を五十日過まてとはさりけれは
問へき人のとはぬことをあやしみて人に尋ぬと聞てかく思ひ
て今まて申さゝりつるよし申て遣しける人にかはりて
なへてみな君かなさけをとふ数に思ひなされぬことのはもかな
1428:0818
ゆかりにつけて物を思ひける人のもとよりなとかとはさらむとうら
みつかはしたりける返ことに
哀とも心に思ふ程はかりいはれぬへくはとひもこそせめ
1429:0819
はかなくなりてとしへにける人のふみを物の中よりみ出てむすめに
侍ける人のもとへみせにつかはすとて
涙をやしのはむ人は流すへき哀にみゆる水くきの跡
1430:0820
同行に侍ける上人をはりよく思さまなりと聞て申送ける
寂然
乱れすと終り聞こそ嬉しけれさても別はなくさまねとも
1431:0821
かへし
此世にて又あふましき悲しさにすゝめし人そ心みたれし
1432:0822
とかくのわさ果て跡のことゝもひろいて高野へ参りて帰り
たりけるに 寂然
いるさにはひろふかたみも残りけり帰る山ちの友は涙か
---- 下三十一
1433:0823
返事
いかてとも思ひわかてそ過にける夢に山ちを行心ちして
1434:0824
侍従大納言入道はかなくなりてよひ暁につとめする僧を
の/\帰りける日申をくりける
行ちらむけふの別を思ふにもさらに歎はそふこゝちする
1435:0825
かへし
臥しつむ身には心のあらはこそ更に歎もそふ心ちせめ
1436:0826
此歌も返しの外にくせられたりける
たくひなき昔の人のかたみには君をのみこそたのみましけれ
1437:0827
かへし
いにしへのかたみになると聞からにいとゝ露けき墨染の袖
1438:0828
同日のりつなかもとへつかはしける
なき跡もけふまては猶名残有を明日や別を添て忍む
1439:0829
かへし
思へたゝけふの別のかなしさに姿をかへてしのふ心を
やかてその日さまかへて後此返事かく申たりけりいと哀也
1440:0830
おなしさまに世をのかれて大原にすみ侍りけるいもうとのは
かなく成にける哀とふらひけるに
いかはかり君思はまし道にいらてたのもしからぬ別なりせは
1441:0831
かへし
たのもしき道にはいりて行しかと我身をつめはいかゝとそ思ふ
1442:0832
院の二位の局身まかりける跡にとをのうた人々読けるに
流ゆく水に玉なすうたかたの哀あたなる此世也けり
1443:0833
きえぬめるもとの雫を思ふにも誰かは末の露の身ならぬ
1444:0834
送をきて帰りし道の朝露を袖にうつすは涙也けり
1445:0835
船岡のすそのゝ塚の数そへて昔の人に君をなしつる
1446:0836
あらぬよの別はけにそうかりける浅ちか原をみるにつけても
---- 下三十二
1447:0837
後のよをとへと契しことのはや忘らるましき形見成らむ
1448:0838
をくれゐて涙にしつむ古さとを玉のかけにも哀とやみる
1449:0839
あとをとふ道にや君は入ぬらむくるしきしての山へかゝらて
1450:0840
名残さへ程なく過はかなしきに七日の数を重すもかな
1451:0841
跡しのふ人にさへ又別るへき其日をかねて知る涙哉
1452:0842
跡のことゝも果てちり/\に成にけるにしけのりなかのりなと涙なかして
けふにさへ又と申ける程に南面の桜に鶯の鳴けるをきゝてよみける
桜花ちり/\になるこのもとに名残ををしむうくひすの声
1453:0843
かへし 少將なかのり
散花は又こむ春も咲ぬへし別はいつかめくりあふへき
1454:0844
同日くれけるまゝに雨のかきくらしふりけれは
哀しる空も心の有けれはなみたに雨をそふるなりけり
1455:0845
かへし 院少納言局
哀しる空にはあらし侘人の涙そけふは雨とふるらむ
1456:0846
行ちりて又の朝つかはしける
けさはいかに思ひの色のまさるらむきのふにさへも又別つゝ
1457:0847
かへし 少將なかのり
君にさへ立別つつけふよりそなくさむかたはけになかりける
1458:0848
あにの入道想空はかなくなりけるをとはさりけれはいひつかはしける
寂然
とへかしな別の袖に露しけき蓬かもとの心ほそさを
1459:0849
待わひぬをくれさきたつ哀をも君ならてさは誰かとふへき
---- 下三十三
1460:0850
別にし人のふたゝひ跡をみは恨やせましとはぬ心を
1461:0851
いかゝせむ跡の哀はとはすとも別し人の行方たつねよ
1462:0852
中々にとはぬは深きかたもあらむ心浅くも恨つるかな
1463:0853
かへし
分いりて蓬か露をこほさしと思も人をとふにあらすや
1464:0854
よそに思ふ別ならねは誰をかは身より外にはとふへかりける
1465:0855
隔なき法の詞にたよりえて蓮の露に哀かくらむ
1466:0856
なき人をしのふ思ひのなくさまは跡をもちたひ問こそはせめ
1467:0857
御法をは詞なけれととくと聞は深き哀はいはてこそ思へ
1468:0858
是はくしてつかはしける
露深きのへに成行古郷は思ひやるにも袖しほれけり
1469:0896
はかなくなりける人の跡に五十日のうちに一品経供養しけるに化城喩品
やすむへき宿をは思へ中空の旅も何かはくるしかるへき
1470:0904
なき人の跡に一品経供養しけるに寿量品を人にかはりて
雲晴るわしの御山の月かけを心すみてや君なかむらむ
1471:0479
あき物へまかりける道にて
心なき身にも哀はしられけり鴫たつ沢の秋の夕くれ
1472:0791
鳥部山にてとかくのことしけるけふりのうちより分て出る月
【「鳥辺山わしの高嶺のすゑならむ煙を分けて出つる月かけ」欠損】
影諸行無常のこゝろを
はかなくて行にし方を思ふにも今もさこそは朝かほの露
1473:0785
暁無常を
つきはてしその入あひの程なさを此暁に思ひしりぬる
1474:0859
無常のうたあまたよみける中に
いつくにかねふり/\てたふれふさむと思ふ悲しき道芝の露
---- 下三十四
1475:0860
おとろかむと思ふ心のあらはやは長きねふりの夢も覚へく
1476:0861
風あらき磯にかゝれるあま人はつなかぬ舟の心ちこそすれ
1477:0862
大浪にひかれ出たる心ちしてたすけ船なき沖にゆらる
1478:0863
なき跡を誰としらねと鳥へ山おの/\すこき塚の夕くれ
1479:0864
波高きよをこき/\て人はみな舟岡山を泊にそする
1480:0865
しにてふさむ苔の莚を思ふよりかねてしらるゝ岩かけの露
1481:0866
露と消は蓮臺野にををくりをけ願ふ心を名にあらはさむ
1482:1530
百首歌の中に無常十首
はかなしなちとせ思ひし昔をも夢のうちにて過にけるには
1483:1531
さゝかにのいとにつらぬく露の玉をかけてかされる世にこそ有けれ
1484:1532
うつゝをも現とさらに思はねは夢をは夢と何かをもはむ
1485:1533
さらぬこともあとかたなきをわきてなと露をあたにも云も置剱
1486:1534
灯のかゝけちからもなくなりてとまる光を待我身かな
1487:1535
水ひたる池にうるほふしたゝりを命に頼むいろくつやたれ
1488:1536
みきは近く引よせらるゝ大網にいくせの物の命こもれり
1489:1537
うら/\としなむするなと思ひとけは心のやかてさそとこたふる
1490:1538
いひすてゝ後の行方を思ひはてはさてさはいかにうら嶋のはこ
1491:1539
世中になくなる人を聞たひに思ひはしるををろかなるみに
Subtitle
釈教歌
1492:0879
心さすことありて扇を仏にまいらせけるに新院より給けるに
女房承てつゝみ紙に書付られける
有かたき法にあふきの風ならは心の塵をはらふとそ思ふ
1493:0880
御返し承りける
ちり斗うたかふ心なからなむ法をあふきて頼むとならは
1494:0928
仁和寺の宮にて道心逐年深と云ことをよませ給けるに
浅く出し心の水やたゝふらむすみ行まゝにふかくなるかな
1495:0929
閑中暁心といふことを同夜
あらしのみ時々窓にをとつれて明ぬる空の名残をそ思ふ
1496:0871
寂超入道談議すと聞てつかはしける
ひろむらむ法にはあはぬ身なりとも名を聞数にいらさらめやは
1497:0872
かへし
つたへきく流なりとも法の水汲人からやふかくなるらむ
1498:0873
さたのふ入道觀音寺に堂つくりに結縁すへきよし申つかはす
とて 觀音寺入道生光
寺つくる此我谷につちうめよ君はかりこそ山もくつさめ
1499:0874
かへし
山くつす其力ねはかたくとも心たくみを添こそはせめ
1500:0875
阿闍梨勝命千人あつめて法華経結縁せさせけるに参
りて又の日つかはしける
つらなりし昔に露もかはらしと思ひしられし法の庭かな
1501:0876
人にかはりてこれもつかはしける
いにしへにもれけむことのかなしさはきのふの庭に心ゆきにき
---- 下三十六
1502:1203
世につかへぬへきやうなるゆかりあまたありける人のさもなかりける
ことを思ひて清水にとし越にこもりたりけるにつかはしける
此春はえた/\ことにさかゆへし枯たる木たに花は咲めり
1503:1204
是もくして
あはれひの深きちかひにたのもしき清きなかれの底くまれつゝ
1504:0881
心性さたまらすといふことを題にて人々よみけるに
雲雀たつあら野にをふる姫ゆりのなにゝ付ともなき心哉
1505:0882
懴悔業障といふことを
まとひつゝ過けるかたの悔しさになく/\身をそけふは恨むる
1506:0883
遇教待龍花といふことを
朝日まつほとはやみにてまよはまし有明の月の影なかりせは
1507:1465
日のいるつゝみのことし
波のうつ音をつゝみにまかふれは入日の影のうちてゆらる
1508:0885
見月思西といふことに
山のはにかくるゝ月を詠れは我も心の西にいる哉
1509:0886
暁念仏といふことを
夢さむるかねのひゝきに打添て十度の御名をとなへつる哉
1510:0887
易往無人の文を
西へ行月をやよそに思ふらむ心にいらぬ人のためには
1511:0888
人命不停速於山水の文のこゝろを
山川のみなきる水の音きけはせむる命そ思ひしらるゝ
1512:0889
菩提心論に至身命而不恍惜文を
あたならぬやかてさとりに帰りけり人のためにもすつる命は
---- 下三十七
1513:0890
疏文に心自悟心自証心
まとひきてさとりうへくもなかりつる心をしるは心なりけり
1514:0891
観心
やみ晴て心の空にすむ月は西の山へやちかくなるらむ
1515:0892
序品
散まかふ花のにほひをさきたてゝ光を法の莚にそしく
1516:0893
花のかをつらなる軒に吹しめてさとれと風のちらす也けり
1517:0894
方便品深著於五欲の文を
こりもせす浮世の闇にまよふ哉身を思はぬは心也けり
1518:0895
譬喩品
法しらぬ人をそけにはうしとみる三の車にこゝろかけねは
1519:0897
五百弟子品
をのつから清き心にみかゝれて玉ときかくる法をしるかな
1520:0898
提婆品
これやさは年つもるまてこりつめし法にあふこの薪なるらむ
1521:0899
いかにして聞ことのかくやすからむあたに思ひてえつる法かは
1522:0900
いさきよき玉を心にみかき出ていはけなき身に悟をそえし
1523:0901
勧持品
天雲のはるゝみそらの月影に恨なくさむをは捨の山
1524:0902
寿量品
わしの山月をいりぬとみる人はくらきにまよふ心なりけり
1525:0903
さとりえし心の月のあらはれてわしの高ねにすむにそ有ける
1526:0905
一心欲見仏の文を人々よみけるに
わしの山誰かは月をみさるへき心にかゝる雲しなけれは
1527:0906
神力品於我滅度後の文を
行末のためにとゝめぬ法ならは何か我身にたのみあらまし
1528:0907
普賢品
散しきし花の匂ひの名残多みたゝまうかりし法の庭哉
1529:0908
心経
何ことも空しき法の心にて罪ある身とは露も思はす
1530:0909
無上菩提の心をよみける
---- 下三十八
わしの山上くらからぬ嶺なれはあたりをはらふ有明の月
1531:0910
和光同塵は結縁のはしめといふことをよみけるに
いかなれはちりにましりてます神につかふる人はきよまはるらむ
1532:0911
六道のうたよみけるに地獄
罪人のしめるよもなくもゆる火の薪とならむことそ悲しき
1533:0912
餓鬼
朝夕の子をやしなひにすときけはくにすくれても悲しかるらむ
1534:0913
畜生
かくら歌に草とりかふはいたけれと猶其駒になることはうし
1535:0914
修羅
よしなしなあらそふことをたてにしていかりをのみもむすふこゝろは
1536:0915
人
有かたき人に成けるかひありて悟りもとむる心あらなむ
1537:0916
天
雲の上のたのしみとてもかひそなき扨しもやかて住しはてねは
1537:1550
百首歌の中釈教十首
きりきわうの夢のうちに 三首
まとひてし心を誰も忘つゝひかへらるなることのうき哉
1539:1551
ひき/\にわかたてつると思ひける人の心やせはまくのきぬ
1540:1552
末のよの人の心をみかくへき玉をもちりにませてける哉
1541:1553
無量義経 三首
さとりひろき此法を先とき置て二つなしとは云きはめけり
1542:1554
山桜つほみはしむる花のえに春をはこめて霞なりけり
1543:1555
身につきてもゆる思ひの消ましや凉しき風のあふかさりせは
1544:1556
千手経 三首
花まてはみににさるへし朽果て枝もなき木のねをなからしそ
1545:1557
誓ありてねかはむ国へ行へくはにしのことはにふさねたるかな
---- 下三十九
1546:1558
さま/\にたな心なる誓をはなものことはにふさねたる哉
1547:1559
又一首のこゝろを
やうはいのはるの匂ひはへむきちのくとくなりしらむのあきの
いろは普賢菩提のしむさうなり
野への色も春の匂ひもおしなへて心そめたる悟りにそなる
Subtitle
神祇歌
1548:1420
月のよかもにまいりてよみ侍ける
月のすむみをやかはらに霜さえて千鳥とをたつ声聞ゆ也
1549:1038
題しらす
思ことみあれのしめにひく鈴のかなはすはよしならしとそ思ふ
1550:1024
里人の大ぬさ小ぬさたてなめてむなかたむすふのへに也けり
1551:1070
俊惠天王寺にこもりてひと/\くして住よしにまいり歌よみ
けるにくして
住よしの松かねあらふ浪の音を梢にかくる沖津しら波
1552:1244
伊勢に斎王をはしまさてとしへにけり斎宮こたちはかりさ
かとみえてついかきもなきやうになりたりけるをみて
いつか又いつきの宮のいつかれてしめのみうちに塵をはらはむ
---- 下四十
1553:1242
斎院をりさせ給て本院のまへを過けるに人のうちへいりけれは
ゆかしうをほえてくしてみまはりけるにかくやありけむとあはれ
に覚てをりておはしますところへせむしの局のもとへ申つかはし
ける
君すまぬ御うちはあれてありす川いむ姿をもうつしつる哉
1554:1243
かへし
思ひきやいみこし人のつてにしてなれし御うちを聞む物とは
1555:1238
斎院おはしまさぬころにてまつりのかへさもなかりけれはむらさ
き野をとをるとて
紫の色なきころの野へなれやかたまほりにてかけぬあふひは
1556:1239
北まつりの頃賀茂にまいりたりけるに折うれしくてまたるゝ程
につかひまいりたりはし殿につきてへいふしおかまるゝまては
さることにて舞人のけしきふるまひみしよのことともおほ
えすあつまあそひにことうつへいしうもなかりけりさ
こそすゑのよならめ神いかにみ給らむと恥しき心ちして
よみ侍ける
神の代もかはりにけりとみゆる哉其ことわさのあらすなるにて
1557:1240
深行まゝにみたらしのをと神さひてきこえけれは
みたらしの流はいつもかはらぬを末にしなれはあさましのよや
1558:1235
神楽に星を
ふけて出るみ山もみねのあか星は月待えたる心ちこそすれ
1559:1540
百首歌の中神祇十首
神楽 二首
めつらしなあさくら山の雲ゐよりしたひ出たるあか星の影
1560:1541
名残いかにかへす/\もおしからむそのこまにたつ神楽とねりは
1561:1542
賀茂 二首
みたらしにわかれすゝきて宮人のまてにさゝけてみとひらく也
---- 下四十一
1562:1543
なかつきのちからあはせにかちにけるわかかたをかをつよく頼て
1563:1544
男山 二首
けふのこまはみつのさうふををひてこそかたきををちにかけてとをらめ
1564:1545
放生会
みこしをさの声さき立てくたります音かしこまる神の宮人
1565:1546
熊野 二首
みくまのゝむなしきことはあらしかしむしたれいたのはこふあゆみは
1566:1547
あらたなるくまの詣のしるしをはこほりのこりにうへきなりけり
1567:1548
みもすそ 二首
初春をくまなくてらす影をみて月に先しるみもすそのきし
1568:1549
みもすその岸の岩ねによをこめてかため立たる宮はしら哉
山家集類題巻下 終
---- 下四十二
文化十一年戌三月 印
皇都書肆 風月庄左衛門
吉田四郎右衛門
花押
End:
底本::
著名: 山家集類題
編著者: 松本 柳斎
発行所: 皇都書肆
発行: 文化十一年戌三月
参照::
著名: 西行上人歌集山家集類題
編著者: 松本 柳斎
編著者: 生形 貴重・宇野 陽美
発行所: 有限会社 和泉書院
発行: 1990年04月10日 初版第1刷発行
国際標準図書番号: ISBN4-87088-417-8
参照::
著名: 新訂 山家集
校訂: 佐佐木 信綱
発行者: 大塚 信一
発行所: 株式会社 岩波書店
初版: 1928年10月05日 第 1刷発行
発行: 1998年07月24日 第61刷発行
国際標準図書番号: ISBN4-00-300231-8
翻刻::
翻刻者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)
入力::
入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)
入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A
編集機: Fujitsu FMV DESK POWER
入力日: 2001年04月02日-2001年05月22日
校正1::
校正者: 阿部 和雄
校正日: 2004年06月24日
0637:0520:3「萩のはを」->「荻のはを」
0719:0998:2「萩の音には」->「荻の音
には」
1065:0720:5「萩の上風」->「荻の上風」
1098:1285:5「萩の上風」->「荻の上風」
1105:1292:1「萩の音は」->「荻の音は」
校正2::
校正者: 阿部 和雄
校正日: 2005年01月15日
【誤】
0803:1389
やかてそれか上は大師の御師にあひまいらせをはしまし【以下略】
【正】
0803:1389
やかてそれか上は大師の御師にあひまいらせさせをはしま
し【以下略】
校正3::
校正者: 阿部 和雄
校正日: 2005年02月07日
1265:1025:4「ち鳥」->「ち島」
校正4::
校正者: 阿部 和雄
校正日: 2005年02月08日
【誤】
0805:1391
ひゝしふかはと申所へまかりて・・・【以下略】
【正】
0805:1391
ひゝしふかはと申方へまかりて・・・【以下略】
校正5::
校正者: 阿部 和雄
校正日: 2008年08月13日
1097:1284
【誤】
朝霧にぬれにし袖をほす程にやかて夕たつ我涙かな
【正】
朝露にぬれにし袖をほす程にやかて夕たつ我涙かな
校正6::
校正者: 阿部 和雄
校正日: 2008年10月25日
0477:0393
【誤】
月前萩
月すむと萩うへさらむやとならは哀すくなき秋にやあらまし
【正】
月前荻
月すむと荻うへさらむやとならは哀すくなき秋にやあらまし
1504:0881
心性さたまらすといふことを題にて人々よみけるに
【誤】
雲雀たつあら野にをつる姫ゆりのなにゝ付ともなき心哉
【正】
雲雀たつあら野にをふる姫ゆりのなにゝ付ともなき心哉
校正7::
校正者: 阿部 和雄
校正日: 2009年02月10日
0360:0285
女郎花帯露といふことを
【誤】
花の枝に露のしら玉ぬきかけて祈袖ぬらすおみなへし哉
【正】
花の枝に露のしら玉ぬきかけて折袖ぬらすおみなへし哉
$Id: sanka_ruidai.txt,v 1.59 2020/01/20 00:07:46 saigyo Exp $