Title  一條攝政集  ----  一条せふさうの御        しふ  ----  おほくらのしさうくらはしの  とよかけくちをしきけす  なれとわかゝりけるとき女  のもとにいひやりける  ことゝもをかきあつめ  たるなりおほやけことさ  わかしうてをかしとおもひ  けることゝもありけると  ----  わすれなとしてのちに(み)  れはことにもあらすそあり  けるいひかわしけるほとの人は  とよかけにことならぬ女なり  けれとゝしつきをへて  かへりことをせさりけれは  まけしとおもひていひける あはれともいふへき人はおもほえ てみのいたつらになりぬへきかな  ----  女かろうしてこたみそ なにこともおもひしらすはあるへ きをまたはあはれとたれかいふへき  はやうの人はかうやうにそ  (りける)  あるへきいまやうのわかい人は  さしもあらて上すめきて  やみなむかしみやつかへする  人にやありけむとよかけ  ----  ものいはむとてしもにこよひ  はあれといひおきてくらすほと  にあめいみしうふりけれはそ  のとしりたりける人のうへに  なめりといひけれはとよかけ をやみせぬなみたのあめにあまく ものゝほらはいとゝわひしかるへし  なさけなしとやおもひけむ  おなし女にいかなるをりにか  ----  ありけむ からころもそてに人めはつゝめとも こほるゝものはなみたなりけり  女かへし つゝむへきそてたにきみはありける をわれはなみたになかれはてにき  としをへて上すめきける人の  かういへりけるにいかはかりあ  はれとおもひけむこれこそ  ----  女はくちをしうもらうたく  もありけれをむなのおやきゝ  ていとかしこういふときゝてと  よかけまたしきさまのふみ  をかきてやる ひとしれぬみはいそけともとしをヘて なとこえかたきあふさかのせき  これをおやにこのことしれる人の  みせけれはおもひなほりて  ----           り  かへりことかゝせけれはゝ女にはら  へをさへなむせさせける                は あつまちにゆきかふ人にあらぬみの いつかはこえむあふさかのせき  心やましなにとしもへたまへと  かゝす   女かたはらいたかりけむかし   人のおやのあはれなることよ  とよかけおほゐのみかとわたりな  りけるひとにかよひけるひを  ----  おほかりけるなかにをとこのいへ  のまへさつねにわたりてものも  いはさりけれは女 くもゐにはわたるときけとゝふかりの こゑきゝかたきあきにもあるかな  をとこかへし くもゐにてこゑきゝかたきものならは たのむのかりもちかくなきなむ  またゝちかへり女 ことつてのなからましかはめつらしき  ---- たのむのかりもしらてそあらまし  とよかけこすやなりにけむ女 おもふことむかしなからのはしはしら ふりぬるみこそかなしかりけれ  とよかけまたしのひてすみ         らはる  わたりける人にえあふましく  やありけむ しのふれはくるしやなそとはな          に すゝきいかなるろへかほにはいつ らむ  ----  *(中略)  ---- にはたつみゆくかたしら ぬものおもひにはかなき あはのきえぬへきかな  又 みつのうへにあめかきませ てふるゆきのとまりかたきを わかみともかな  ゆふくれにたちより給  たれはみふ  ----       か ゆふくかのま きのもとに ふくかせのをきのおとして くるやたれなり  このみふをつらし山に  いりなむとておはして  またのひまいりたまたるに  みむとてはしかゐたる  をよりおはしてふと  ---- みせまにはいるやいれともあゆ まれす人のわするゝみち をしらねは  とはりあけのきみの御  もとにこゝちあしうし  てえおはせてちきりたま  たりけるよのまたのあし  たに しぬはかりれひしかりしにそこ  ---- まてもいかてはいかていける なるらむ  いなりにていひそめたまた  る人ことざまになりぬと  きゝたまて 我はなほいなりのかみそ うらめしき人のためとは  ---- いのらさりしを  またこと人に 人しれぬねさめのなみた ふりみちてさもしくれつ るよはのそらかな  やたいにのいへにてひさ  しうおはせねはうへ  ---- ねさめするやとをはよきて ほとゝきすいかなるそらにかき れなくらむ  いえしのひたる人の御も  とにおはして つゝめともつゝむにあまるそ てのうへのなみたのいろを  ---- 人やとかめむ  またこと人に つねのあきはよそにきゝにし むしのねをあはれと思ふ たれによりそは  また人に なくなれはありし人たに みえなくにつらき心は  ---- またやのこれる 我ことやかなしかるらむ さはりおほみあしまわけ ゆくふねのここちは  くらのかういのつほねにて  やりとをrたてゝものゝ  たまふによけぬれは  ----  かへりたまふにやりと  をあけてみけれは  たちかへりてのたまひ  ける なつのよもまきのいたとを いたつらにあけてかひな くおもほゆるかな  ----  わつらひたまてほとほとし  かりつるとてをむな  のもとに かせはやきひひきのな たのふねよりもいきかた かりしほとはきゝきや  返し よるへなみかさまを  ---- まちしうきふねの よそにこかれしわれそ まさりし  たれにかおとゝ 人しれぬみとしおもへ はあかつきのとりとゝも にそねはなかれける  ----  またをむな いつそもやしもかれしかと わかやとのむめをわすれぬ はるはきにけり  かへしおとゝ わすられぬはるはることにむ めのはなねをとゝめてし 人をしのへよ  ----  おなし人にと  たえたまて をはすての山のつきかけ みしよゝりまたなくさ まぬこゝちこそすれ  かへし あはれとはみえやはし けむをはすての  ---- おもひはなれしつきの ひかりは  たちたまてりむし  のまつりにしらぬ  くるまかとてゆきの  ふるにうちよりたま  てこれはらひたまへと  あれはいとゝくきこゆる  ---- なにゝてかうちもはら はむきみこふをなみ たにそてはくちにし ものを  このおとゝきたのかたと  ゑしたまてよかはにて  ほうしにならむとし  たまふにほうしゝて  ----  ゐとの みをすてゝこゝろのひとり たつぬれはおもはぬ山も おもひやるかな  おとゝかへし たつねつゝかよふ心し ふかゝらはしらぬ山ちも  ---- あらしとそおもふ  又ゐとの なよたけのよかはをかけて いふからにわかゆくすゑのな こそをしけれ  まちしりの宮にて  もみちにさして 心みにをりてみつれと  ---- こからしのもりのもみちも いろつきにけり  しはすにおなし あらたまのとしにまかせて みるよりは我こそこさめ あふさかのせき  かよひたまてのちに  さくらのちりたるを  ----  ふみにさして てもたゆくむすふや なにそさくらはなむかし わすれぬ人やみるとて  かへしおとゝ みるからにあはれそまさる もゝしきのいかなるはなか  ---- むかしわすれぬ  ゆみいたまふとてこ  もりてなむとのたま  へはをむな わすらるゝ心はかくれな きものをなにかあやなく いこもりぬらむ  ----  かへしおとゝ きみをおもふ心のかきり さしなからかくれぬ のみそあはれなりける  *以下定家書き入れ 大原の おをふ神もしるらむ我恋は けふこそ人の心ゃらなむ   うち  ---- はな色はあかすみるとも鶯の ねくらの枝にてなゝふれそも  底本::   著名:  伝西行筆 桝形本   著者:  一條攝政   解説・釈文: 飯島春敬   発行所: 書芸文化新社   発行:  平成十二年五月十二日重刷  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: Apple Macintosh Performa 5280   入力日: 2000年11月11日-2000年11月16日