Data  伝西行筆 宮本長則氏蔵本 字母同定情報  Author  西行  Title  山家心中集 花月集止毛以不部之  0001:  花 三十六首 奈尓止奈久ハ留尓奈利奴止 幾久日與利心尓可ゝ留美與之乃ゝ山  0002: 山左武美ハ那左久部久毛奈可利介利 安万利可祢天毛多川年幾仁介留  0003: 與之乃山人尓心遠川介可本尓 者那万川美祢尓可ゝ留之良久毛  0004: 左可奴万乃者那尓ハ久毛乃万可不止毛 久毛止波ハ那美衣寸毛安良奈无  0005: 以万左良仁ハ留遠和寸留ゝハ那毛安良之 ヤスウマチツゝ 越毛比乃止女天介不毛久良左武  0006: 之良可波乃己寸恵遠美天曽奈久 左武留與之乃ゝ山尓可與不心遠  0007: 越之奈部天者那乃左可利尓奈利尓 介利山乃波己止仁可ゝ留之良久毛  0008: 與之乃也万己寸恵乃ハ那遠美之 日與利心者美尓毛曽者寸奈利尓幾  0009: 安久可留ゝ己ゝ呂ハ左天毛山左久良 知利奈无乃知也美尓可部留部幾  0010:0003 者那仁所武己ゝ呂乃以可天乃己利介无 寸天者天ゝ幾止越毛不和可美尓  0011:0003 祢可波久波者那乃之多尓天ハ留 之奈武所乃幾左良幾乃毛知川幾 乃己呂  0012:0003 本止介尓ハ左久良乃ハ那遠多天万川 礼和可乃知乃與遠日止ゝ不良者ゝ  0013:0003 チヨク 勅止可也久多寸美可止乃以万世可之     ソ 左良波越曽礼天者奈也知良奴止  0014:0003 奈美毛奈久可世遠於左女之ゝ良可ハ乃 幾美乃遠利毛也ハ那ハ知利介武  0015:0004 可左己之乃美祢乃川ゝ幾仁左久ハ那     カリ 波以川左可利止毛奈久也知留良无  0016:0004 與之乃山可世己寸久幾仁左久ハ那ハ 人乃遠留左部越之万礼奴可那  0017:0004 知利曽武留者那乃ハ川由幾不利奴礼ハ 不美和介万宇幾之可乃山己衣  0018:0004 者留可世乃ハ那乃不ゝ幾仁宇川毛礼天 由幾毛也良礼奴之可乃也万己江  0019:0004 與之乃也万多尓部多那日久之良久 毛波美祢乃左久良乃知留尓也安留良无  0020:0005 多知万可不美祢乃久毛遠ハ者良不止毛 者那遠知良左奴安良之奈利世波  0021:0005 己乃毛止仁多日祢遠寸礼ハ與之乃 也万者那乃不寸万遠幾寸留ハ留可世  0022:0005 美祢尓知留ハ那ハ多尓奈留幾尓曽 左久以多久以止者之ハ留乃山可世  0023:0005 安多尓知留己寸恵乃者那遠奈可无 礼ハ尓ハ尓ハ幾衣奴由幾曽川毛礼留  0024:0005 可世安良美己寸恵乃ハ那乃奈可礼幾 天尓者尓奈美多川之良可波乃 左止  *筆者交代  0025:0006 者留不可見衣多毛由留可天知留者那ハ 可世乃止可尓波安良奴奈留部之  0026:0006 可世仁知類者奈乃遊久恵ハ之良 祢止毛越之武心波見尓止満利介里  0027:0006 知留者那越ゝ之武心也止ゝ末利天 末多己无春乃當祢尓奈留部幾  0028:0006 越之末礼奴ミ尓母與尓波安留 毛乃越安奈安也仁久乃者那乃心也  0029:0006 宇幾與尓波止ゝ女越可之登者留 可世乃知良寸波者奈遠ゝ之武奈利 介利  0030:0007 毛呂止毛耳和礼遠毛久之轉知利 祢者那宇幾與越以止不心安留見曽  0031:0007 越毛部當ゝ者奈乃奈可良無己乃毛止仁 奈尓越可介尓天和可見寿ミ奈无  0032:0007 奈可武止天者奈尓母以多久奈礼奴 連波知留和可礼己曽可奈之可利介礼  0033:0007    カ 奈尓止奈久安多奈類者奈乃以呂遠 之毛心尓布可久越毛日曽女介无  0034:0007 者奈毛知利人毛美也己部可衣利 奈波山左比之久也奈良无止寸 良无  0035:0008 與之乃山比止无良美由類之良久 无波左幾越久礼多類佐久良奈留部之  0036:0008 日幾可部天者奈美類者留波與留波 奈久月見无安幾波日留奈可良奈无  0037:0008  月 八月十五夜 三十六首 加曽部祢止己與日乃月乃介之幾ニ天 安幾乃中者遠曽良仁志留可那  0038:0008 安幾波多ゝ己與比日止與乃奈ゝ利 介利越奈之久毛為尓月波寸女止毛  0039:0008 左也可奈類可介尓天志留之安幾能 月止與尓安末礼留以川可奈利介利  0040:0009 宇知川計ニ末多己武安幾乃己與比 末天月由部乎之久奈類以乃知可奈  0041:0009 於比毛世奴十五乃止之毛安留毛乃越 己與比乃月乃可ゝ良満之可波  0042:0009  久毛利多留十五夜越 童子神心ヲ 月万天波可介奈久ゝ毛尓川ゝ万礼天 己與比奈良数ハ也見仁美衣末之  0043:0009  九月十三夜 久毛幾衣之安幾乃中者能曽良 與利毛月ハ己與比曽奈尓越部利介流  0044:0009 己與比者止己ゝ呂衣可本尓寿武月 乃日可利毛天奈寸幾久乃之良川由  *工事中  0045:  乃知乃九月ニ 月美礼者安幾久者ゝ礼留止之波末多 安可奴心毛曽布尓曽安利介留  0046:  月乃宇太安末多與見者部利之ニ 安幾乃與能曽良仁以川天ふなのみ してかけほのかなるゆふつくよかな  0047: うれしとやまつ人ことにをもふ らむ山のはいつるあきのよの月  0048: あつまにはいりぬと人やをもふらむ みやこにいつる山のはの月  0049: まちいてゝくまなきよるの月み れはくもそ心にまつかゝりける  0050: はりまかたなたのみをきにこきいてゝ あたりをもはぬ月をなかめむ  0051: わたのはらなみにも月はかくれけり みやこの山をなにいとひけむ  0052: あまのはらをなしいはとをいてれ ともひかりことなるあきのよの月  0053: ゆくすえのつきをはしらすゝきゝぬる あきまたかゝるかけはなかりき  0054: なかむるもまことしからぬ心ちして よにあまりたる月のかけかな  0055: つきのためひるとおもふかかひなきに しはしくもりてよるをしらせよ  0056: さためなくとりやなくらむあきの よは月のひかりをおもひまかへて  0057: 月さゆるあかしのせとてかせふけは こほりのうへにたゝむしらなみ  0058: きよみかたをきのいはこすしらな みにひかりをかわすあきのよの月  0059: なかむれはほかのかけこそゆかし けれかはらしものをあきのよの月  0060: 人もみぬよしなき山のすゑま てもすむらむ月のかけをこそをもへ  0061: みにしみてあはれしらするかせよ りも月にそあきのいろはありける  0062: あきかせやあまつくもゐをはらふらむ ふけゆくまゝに月のさやけき  0063: なかなかにくもるとみえてはるゝよの 月はひかりのそふここちする  0064: よもすからつきこそゝてにやとりけ れむかしのあきをおもひいつれは  0065: つきをみて心うかれしいにしへの あきにもさらにめくりあひぬる  0066: いつくとてあはれならすはなけれとも あれたるやとそ月はさひしき  0067: ゆくゑなく月に心のすみすみてはては いかにかならむとすらむ  0068: なかなかに心つくすもくるしきに くもらはいりねあきのよの月  0069: みつのをもにやとる月さへいりぬるは なみのそこにも山やありける  0070: ありあけの月のころにしなりぬれは あきはよるなき心ちこそすれ  0071: いとふよも月すむあきになりぬれは なからへすはとをもひなるかな  0072: なにこともかはりのみゆく世中にをなし かけにてすめる月かな  0073: 世中のうきをもしらてすむ月 のかけはわかみの心ちこそすれ  Subtitle  こひ 三十六首  0074: ゆみはりのつきにはつれてみし かけのやさしかりしはいつかわす れむ  0075: しらさりきくもゐのよそにみし 月のかけをたもとにやとるへしとは  0076: つきまつといひなされつるよひのまの こゝろのいろをそてにみえぬる  0077: あはれともみる人はらはをもはなむ 月のおもてにやとすこゝろを  0078: なけゝとて月やはものをゝもはする かこちかほなるわかなみたかな  0079: おもひしる人ありあけのよなり せはつきせすみをはうらみさら まし  0080: かすならぬ心のとかになしはてしし らせてこそはみをもうらみめ  0081: あやめつゝ人しるとてもいかゝせむ しのひはつへきたもとならねは  0082: けふこそはけしきを人にしられ ぬれさてのみやはとをもふあまりに  0083: みのうさのをもひしらるゝことはりに をさへられぬはなみたなりけり  0084: ものをもへはそてになかるゝなみた かはいかなるみをにあふせありなむ  0085: もらさしとそてにあまるをつゝま ましなさけをしのふなみたなりせ は  0086: けさよりそ人の心はつらからて あけはなれゆくそらをうらむる  0087: ことつけてけさのわかれはやすらはむ しくれをさへやそてにかくへき  0088: きえかへりくれまつそてそしをれ ぬるをきつる人はつゆならねとも  0089: あふまてのいのちもかなとをもひしは くやしかりけるわか心かな  0090: なかなかにあはぬをもひのまゝならは うらみはかりやみにつもらまし  0091: さらにまたむすほゝれゆく心かな とけなはとこそをもひしかとも  0092: むかしよりものおもふ人やなから まし心にかなふなけきなりせは  0093: なつくさのしけりのみゆくをもひかな またるゝあきのあはれしられて  0094: あはれとてとふ人のなとなかるらむ ものをもふやとのをきのうはかせ  0095: くれなゐのいろにたもとのしくれつゝ そてにあきあるこゝちこそすれ  0096: いま けふそしるをもひいてよとちきりしは わすれむとてのなさけなりけり  0097: ひにそへてうらみはいとゝをほうみ のゆたかなりけるわかなみたかな  0098: なにはかたなみのみいとゝかすそひて うらみのひはやそてのかはかむ  0099: ひをふれはたもとのあめのあらそ ひてはるへくもなきわかこゝろかな  0100: かきくらすなみたのあめのあし しけくさかりにものゝなけかしきかな  0101: いかにせむそのさみたれのなこりより やかてをやまぬそてのしつくを  0102: さまさまにをもひみたるゝ心をはきみ かもとにそつかねあつむる  0103: みをしれは人のとかにはをもはぬに うらみかをにもぬるゝそてかな  0104: 人はうしなけきはつゆもなくさ ますさはこはいかにすへき心そ  0105: かゝるみにをふしたてけむ たらちねのをやさへつらきこひもするかな  0106: とにかくににとはまほしきよなれとも きみかすむにもひかれぬるかな  0107: ものをもへとむかゝらぬ人もあるものを ははれなりけるみのちきりかな  0108: むかはらはわれかかけきのむくひに てたれゆへきみかものをゝもはむ  0109: あふとみしそのよのゆめのさめて あれななかきねふりはうかるへけれと  0110: あはれあはれこのよはよしやさもあら はあれこむよもかくやくるしかるへき  Subtitle  雑上 百七十首  0111: なにとなくせりときくこそあはれ なれつみけむ人の心しられて  0112: はらはらとをつるなみたそあはれ なるたまらすものゝかなしかるへし  0113: わひゝとのなみたにゝたるさく らかなかせみにしめはまつこほれつゝ  0114: よしの山やかていてしとをもふみを はなちりなはと人やまゝらむ  0115: こからしにこのはのをつる山さとは なみたさへこそもろくなりけれ  0116: つくつくとものををもふにうちそへて をりあはれなるかねのをとかな  0117: あか月のあらしにたくふかねのをと を心のそこにこたへてそきく  0118: とふ人もをもひたえたる山さとの さひしさなくはすみうからまし  0119: たにのまにひとりそまつもたてり けるわれのみともはなきかとをもへは  0120: まつかせのをとあはれなる山さとに さひしさそふるひくらしのこゑ  0121: 山さとはたにのかけひのたえたえに みつこひとりのこゑきこゆなり  0122: ふるはたのそはのたつきにゐる はとのともよふこえのすこきゆふくれ  0123: みくまのゝはまゆふをふるうらさひて 人なみなみにとしそかさなる  0124: いそのかみふるきをしたふよなりせは あれたるやとに人すみなまし  0125: ふるさとはみしよにもにすあせに けりいつちむかしの人ゆきにけむ  0126: かせふけはあたにやれゆくはせお はのあれはとみをもたのむへきよか  0127: またれつるいりあひのかねのおとすなり あすもやあらはきかむとすらむ  0128: いりひさす山のあなたはしらねとも こゝろをかねておくりおきつる  0129: しはのいほはすみうきこともあらま しをともなふ月のかけなかりせは  0130: わつらはて月にはよるもかよひ けりとなりへつたふあせのほそみち  0131: ひかりをはくもらぬ月そみかきける いなはにかゝるあさひこのたま  0132: かけきえてはやまの月はもりも こすたにはこすゑのゆきとみえつゝ  0133: あらしこすみねのこのはをわけき つゝたにのしみつにやとる月かけ  0134: 月をみるほかもさこそはいとふらめ くもたゝこゝのそらにたゝよへ  0135: くもにたゝこよひは月をまかせてむ いとふとてしもはれぬものゆへ  0136: くるはるはみねにかすみをさき たてゝたにのかけひをつたふなりけり  0137: こせりつむさわのこほりのひまたえて はるめきそむるさくらゐのさと  0138: はるあさみすゝのまかきにかせさえて またゆきゝえぬしからきのさと  0139: はるになるさくらのえたはなにとなく はなゝけれともむつましきかな  0140: すきてゆくはかせなつかしうくいす よなつさひけりなむめのたちえに  0141: うくいすはゐなかのたにのすなれとも たみたるねをはなかぬなりけり  0142: はつはなのひらけはしむるこすゑ よりそはゑてかせのわたるなるかな  0143: おなしくは月のをりさけ山さくら はなみぬよるのたえまあらせし  0144: そらはるゝくもなりけりなよしの山 はなもてわたるかせとみたれは  0145: はなちらて月はくもらぬよなりせは ものをおもはぬわかみならまし  0146: なにとなくゝむたひにすむ心かな いはひのみつにかけうつしつゝ  0147: たにかせはとをふきあけているものを なにとあらしのまとたゝくらむ  0148: つかはねとうつれるかけをともにして おしすみけりな山かはのみつ  0149: おとはせていはにたはしるあられ こそよもきのまとのともになりけれ  0150: くまのすむこけのいはやまおそろ しみむへなりけりな人もかよはぬ  0151: さと人のおほぬさこぬさたてなめて むまかたむすふのへになりけり  0152: くれなゐのいろなりなからたてのほの からしやひとのめにもたてぬは  0153: ひさきおいてすゝめとなれるかけなれや なみうつきしに風わたりつゝ  0154: をりかくるなみのたつかとみゆるかな すさきにきぬるさきのむらとり  0155: うらちかみかれたるまつのこすゑ にはなみのをとをやかせはかくらむ  0156: しほかせにいせのはまをきふせはまつ ほすゑをなみのあらたむるかな  0157: さもとゆくふな人いかにさむからむく まやまたけををろすあらしに  0158: をほつかないふきおろしのかさゝきに あさつまふねはあひやしぬらむ  0159: いたけもるあまみかときになりにけり えそかちしまをけふりこめたり  0160: ものゝふのならすゝさみはをもたゝし あけそのしさりかものいれくひ  0161:  はつ春のあしたに たちかはるはるをしれともみせかほに としをへたつるかすみなりけり  0162:  春きたりてなを雪さゆ かすめともはるをはよそのそらにみて とけむともなきゆきのしたみつ  0163:  山水春をつくといふことを菩提院  の前さい宮にて人々よみはへりしに はるしれとたにのほそみつもりそ くるいはまのこほりひまたえにけり  0164:  海邊霞と申ことを伊勢にてか  むぬしともよみはへりしに なみこすとふたみのまつのみえつる はこすゑにかゝるかすみなりけり  0165:  子日 春ことにのへのこまつをひく人はいく らのちよをふへきなるらむ  0166:  わかなにはつねのあひたりしに  人のもとへ申つかはしはへりしに わかなつむけふにはつねのあひぬれは まつにや人のこころひくらむ  0167:  ゆきの中のわかな けふはたゝをもひもよらてかへりなむゆき つむのへのわかなゝりけり  0168:  あめの中のわかな はるさめのふるのゝわかなおゐぬらし ぬれぬれつまむかたみたぬきれ  0169:  わかなによせてをもひをのへはへり  しに わかなをふるはるのゝもりにわれなりて うきよを人につみしらせはや  0170:  すみはへりしたにゝう  くひすのこゑせすなりはへりし  かなにとなくあはれなるや  うにをほえて ふるすうとくたにのうくひす なりはてはわれやかはりてなかむとすらむ  0171:  むめにらくひすのこゑのかを  りてきこえはへりしに むめかゝにたくへてきけはう くひすのこゑなつかしきはるのあけほの  0172:  たひのとまりのむめ ひとりぬるくさのまくらのうつりかは かきねのむめのにほひなりけり  0173:  さかにすみはへりしにみちを  へたてゝはうのはへりしより  むめのかせにちりこしを ぬしいかにかせわたるとていとふらむ よそにうれしきむめのにおひを  0174:  きゝすを をひかはるはるのわかくさまちわひて はらのかれのにきゝすなくなり  0175: もえいつるわかなあさるときこゆなり ききすなくのゝはるのあけほの  0176:  かすみのうちのかへるかり なにとなくをほつかなきはあまのはら かすみにきえてかへるかりかね  0177:  かへるかりを長楽寺にて たまつさのはしかきかともみゆる かなとひをくれつゝかへるかりかね  0178:  やなきかせにしたかふ みわたせはさほのかはらにくりかけて かせによらるゝあをやきのいと  0179:  山さとのやなき やまかつのかたをかゝけてしむるのゝ さかゐにみゆるたまのをやなき  0180:  つとめてはなをたつぬといふことを  朝赴花 さらにまたかすみにくるゝ山ちかな はるをたつぬるはなのあけほの  0181:  ひとりはなをたつぬ たれかまたななをたつねてよし の山こけふみわくるいはつたふらん  0182:  はなをたつねてみるといふことを よしの山くもをはかりてたつねいり て心にかけしはなをみるかな  0183:  くまのへまいりはへりしにやかみの  わうしのはなのさかりにてをも  しろかりしかはやしろにガきつけ  はへりし まちきつるやかみのさくらさきに けりあらくをろすなみすの山かせ  0184:  上西門院の女はう法勝寺のはなみられし  にあめのふりてくれにしかはかへら  れにき又の日兵衞のつほねのもとへ花  のみゆきをもひいてさせたまふらむとを  ほえてかくなむ申さまほしかりし  とてをくりはへりし みる人に花もむかしをおもひいてゝ恋 しかるへしあめにしをる  0185:  返し いにしへをしのふるあめとたれかみむ はなもそのよのともしなけれは  わかきひとひとはかりなむをいにける  みはかせのわつらはしさにいとはる  ることにてとありしいとやさしく  きこえはへりき  0186:  花のしたにて月をみて くもにまかふ花のしたにてなかむれは をほろに月はみゆるなりけり  0187:  をいてはなをみるといふことを をいつとになにをかせましこのはるの はなまちつけぬわかみなりせは  0188:  ふるきのさくらにはなのところところさき  たるをみて わきてみむをいきははなもあわれなりいま いくたひかはるにあふへき  0189:  かきたえことゝはすなりたりし人の  花みにやまさとへまてきたりしに としをへてをなしこすゑにゝほへとも 花こそ人にあかれさりけれ  0190:  しらかはのはなのさかりに人のいさ  なひはへりしかはみにまかりて  かへりしに          や ちるをみてかへる心をさくらはな むかしにかはるしるしなるらむ  0191:  さはらひ なをさりにやきすてしのゝさわら ひはをる人なくてほとろとやなる  0192:  山ふきいえのさかりたりといふことを やまふきのはなのさかりになりぬれは こゝにもゐてとをもほゆるかな  0193:  かはつ ますけをふるあらたにみつをま かすれはられしかほにもなくかはつかな  0194:  はるのうちにほとゝきすをき  くといふことを うれしともをもひそはてぬほ とゝきすはるきくことのならひなけれは  0195:  三月一日たらてくれはへりしに はるゆへにせめてもものをゝもへとや みそかにたにもたらてくれぬる  0196:  山家のはしめの秋ということを さまさまのあはれをこめてこすゑふく かせにあきしるみやまへのさと  0197:  はしめのあきのころなるをと  申すところにてまつのかせのをとを  きゝて つねよりもあきになるをのまつかせは わきてみにしむものにそありける  0198:  たなはた ふねよするあまのかはせのゆふくれは すゝしきかせやふきわたすらむ  0199:  のゝわたりのあきかせ すへはふくかせはのもせにわた るともあらくはわけしはきのしたつゆ  0200:  くさのはなみちをさいきる ゆふゆをはらへはそてにたまき えてみちわけかめるをのゝはきはら  0201:  ゆくみちのくさのはな をらてゆくそてにもつゆそしをれ けるはきのえしけきのちのほそみち  0202:  すゝきみちにあたりてしけし  といふことを はなすゝき心あてにそわけてゆく ほのみしみちのあとしなけれは  0203:  のゝはきにしきにゝたり けふそしるそのえにあらふからに しきはきさくのへにありけるものを  0204:  つきのまへのゝのはな はなのいろをかけにうつせはあきの よの月そのもりのかゝみなりける  0205:  をみなへしつゆをひたるといふことを はなのえにつゆのしらたまぬきかけて をるそてぬらすをみなへしかな  0206:  いけのほとりのをみなへし たくひなきはなのすかたをゝみなへ しいけのかゝみにうつしてそみる  0207:  月のまへのをみなへし にはさゆる月なりけりなをみなへし しもにあひぬるはなとみたれは  0208:  のゝはなむしをよみはへりしに はなをこそのへのものとはみにき つれくるれはたしのねをもきゝけり  0209:  たのいへのむし こはきくさ山たのくろのむしの ねにいほもる人やそてぬらすらむ  0210:  ひとりむしをきくといふ亊を ひとりねのともにはならてきりきりす なくねをきけはものをもひそふ  0211:  むかし申なれたりし人のよのか  れてふしみにすみはへりしを  たつねまかりてにわのくさふか  かりしをわけいりはへりしにむしの  こゑあはれにをほえてよみはへりし わけているそてにははれをかけよとて つゆけきにはにむしさへそなく  0212:  むしのうたあまたよみはへりし  なかに あきかせにほすゑなみよるかるか やのしたはにむしのこゑみたるなり  0213: よもすからたもとにむしのねをか けてはらひわつらふそてのしらつゆ  0214: むしのねにつゆつゆけかるへきたもとゝは あやしや心ものをもふへし  0215:  あか月はつかりをきく よこくものかせにわかるゝしのゝめに 山とひこゆるはつかりのこゑ  0216:  とをくちかくかりをきくといふ  ことを しらくもをつはさにかけてゆくかり のかとたのをものともしたふなり  0217:  よにいりてかりをきく からすはにかくたまつさの心ちして かりたきわたるゆふやみのそら  0218:  きりのうちのしか はれやらぬみ山のきりのたえたえに ほのかにしかのこゑきこゆなり  0219:  ゆふくれのしか しのはらやきりにまかひてなく しかのこゑかすかなるあきのゆふくれ  0220:  あか月のしか よをのこすねさめにきくそあはれ なるゆめのゝしかもかくやなきけむ  0221:  たのいほのしか おやまたのいほちかくなくしか のねにをとろかされてをとろかすかな  0222:  山家のしか なにとなくすまはほしくそ をもほゆるしかあはれなるあきの山さと  0223:  つきをまちてしかをきく かねつより心そいとゝすみのほる つきまつみねのさをしかのこゑ  0224:  たのうへの月 ゆふつゆのたましくをたのいなむし ろかけすほすゑに月そやとれる  0225:  つきのまへにとほくのそむと  いへることを菩堤院の前え齋宮に  て人々よみはへりしに くまもなき月のひかりにさそはれて いくゝもゐまてゆく心そも  0226:  かすかにまいりてつねよりも月あかく  あはれなりしにみかさの山をみあけて  かくをほえはへりし ふりさけし人の心そしられぬる こよひみかさの月をなかめて  0227:  ひろさわにて人々月をもてあ  そひはへりしに いけにすむ月にかゝれるうきくもは はらひのこせるみさひなりけり  0228:  さぬきの善通しの山にてう  みの月をみて くもりなき山にてうみの月み れはしまそこほりのたえまなりける  0229:  月のまへのちるは 山をろしの月にこのはをふきか けてひかりにまかふかけをみるかな  0230:  あきのうたともよみはへりしに しかのねをかきねにこめてきく のみかつきもすみけりあきの山さと  0231: いほにもる月のかけこそさひし けれ山たはひたのをとはかりして  0232: をもふにもすきてあはれにきこ ゆるはをきのはみたるあきのゆふかせ  0233: なにとなくものかなしくそみえ わたるとはたのをものあきのゆふくれ  0234: おほかたのつゆにはなにのなるならむ たもとにをくはなみたなりけり  0235: 山さとはあきのくれにそ思しる かなしかりけりこからしのかせ  0236:  あきものへまかりしみちにて 心なきみにもあはれはしられけり しきたつさわのあきのゆふくれ  0237:  ひとりころもうつをきくといふ  ことを ひとりねのよさむになるをかさね はやたかためにうつころもなるらむ  0238:  山さとのもみち そめてけりもみちのいろのくれな ゐをしくるとみえしみ山へのさと  0239:  寂然高野にまいりてふかき  山のもみちということをみやのほ  ういむの御あむしちにてよむへき  よし申はへりしにまいりあひて さまさまのにしきありけるみ山かな はなみしみねをしくれそめつゝ  0240:  あきのくれ なにとなく心をさへはつくすらむ わかなけきにてくるゝあきかは  0241:  よもすからあきをゝしむといふ  ことをきたしらかはにて人々  よみはへりしに をしめともかねのをとさへかはるかな しもにやつゆをむすひかふらむ  0242:  うつきのついたちになりてちりて  のちはなをゝもふといふことを あをはさへみれは心のとまるかな ちりにしはなのなこりとをもへは  0243:  なつのうたよみはへりしに くさしけるみちかりあけて山さ とははなみし人の心をそみる  0244:  やしろのへむのうのはな かみかきのあたりさくもたより あれやゆふかけたりとみゆるうのはな  0245:  無言に侍りし頃郭公のはつこゑをきゝて ほとゝきす人にかたらぬをりは しもはつねきくこそかひなかりけれ  0246:  ゆふくれのほとときす さとなるゝたそかれときのほ とゝきすきかすかほにて又なのらせむ  0247:  ほとゝきすをまちてむなしく  あけぬといふことを ほとゝきすなかてあけぬとつけか ほにまたれぬとりのねこそきこゆなる  0248:  ほとゝきすのうたよみはへりしに ほとゝきすきかぬものゆへまよはまし はなをたつねし山ちならすは  0249: ほとゝきすをもひもわかぬひとこゑを きゝつといかゝ人にかたらむ  0250: きゝをくる心をしらてほとときす たかまの山のみねこえぬなり  0251:  あめのうちのほとゝきす さみたれのはれまもみえぬくもち より山ほとゝきすなきてすくなり  0252:  さみたれのうたよみはへりしに みつなしときゝてふりにしかつま たのいけあらたむるさみたれのころ  0253: さみたれにみつまさるへしうち はしやくもてにかゝるなみのしらいと  0254:  はなたちはなによせてふるきを  をもふといふことを のきちかきはなたちはなにそてし めてむかしをしのふなみたつゝまむ  0256:  ゆふくれのすゝみをよみはへりしに なつ山のゆふしたかせのすゝしさに ならのこかけのたゝまうきかな  0256:  うみのほとりのなつの月 つゆのほるあしのわかはに月さえて あきをあらそふなにはえのうら  0257:  あめのゝちのなつのつき ゆふたちのはるれは月そやとりける たまゆりすふるはすのうきはに  0258:  いつみにむかひて月をみるといふ  ことを むすふてにすゝしきかけをそふる かなしみつにやとるなつのよの月  0259:  なつののくさを みまくさにはらのすゝきをしか ふとてふしとあせぬとしかをもふらむ  0260:  たひのみちにくさふかしといふ  ことを たひ人のわくるなつのゝくさしけみ はすゑにすけのをかさはつれて  0261:  山さとにあきをまつ やまさとはそとものまくすはをし けみうらふきかへすあきをまつかな  0262:  十月はしめのころ山さとに  まかりたりしにきりきりすのこゑ  のわつかにしはへりしを しもうつむむくらのしたのきりきり すあるかなきかのこゑきこゆなり  0263:  あか月のちるは しくれかとねさめのとこにきこゆ るはあらしにたえぬこのはなりけり  0264:  みつのほとりのかれたるくさ しもにあひていろあらたむる あしのほのさひしくみゆるなには えのうら  0265:  山のいへのかれたるくさ かきこめしすそのゝすゝきしも かれてさひしさまさるしはの いほかな  0266:  しつかなるよのふゆの月 しもさゆるにはのこのはをふみ わけて月はみるやとゝふ人もかな  0267:  ゆふくれのちとり あはちしませとのしほひのゆふ くれにすまよりかよふちとりなく なり  0268:  さむきよのちとり さゆれともこゝろやすくそきゝ あかすかはせのちとりともくしてけり  0269:  ふねのうちのあられ せとわたるたなゝしをふね心せよ あられみたるゝしまによこきる  0270:  ふゆのうたともよみはへりしに はなもかれもみちもちりぬ山さとは さひしさを又とふ人もかな  0271: たまかけしたまのかつらもおとろへて しもをいたゝくをみなへしかな  0272: ひとりすむかたやまかけのともなれや あらしにはるゝふゆのよの月  0273: つのくにのあしのまろやのさひしさは ふゆこそわきてとふへかりけれ  0274: 山さくらはつゆきふれはさきにけり よしのはさとにふゆこもれとも  0275: よもすからあらしの山にかせさえて おゝゐのよとにこほりをそしく  0276: 山さとはしくれしころのさひし さにあられのおとはやゝまさりけり  0277: かせさえてよすれはやかてこほりつゝ かへるなみなきしかのからさき  0278: よしのやまふもとにふらぬゆきならは はなかとみてやたつねいらまし  0279:   ゆきのあしたきせむと申す  ところにて人々うたよみはへり  しに たけのほるあさひのかけのさすまゝに みやこのゆきはきえみきえすみ  0280:  山のいへにゆきふかしといふことを とふ人もはつゆきをこそわけこしか みちとちてけりみやまへのさと  0281:  よのかれてひむかし山てらに  はへりしころとしのくれに人々  まうてきておもひのへはへり  しに としくれしそのいとなみはわすら れてあらぬさまなるいそきをそする  0282:  としのくれにこうやより京へ  申しつかはしはへり おしなへておなし月日のすきゆ けはみやこもかくやとしはくれぬる  0283:  さうの下八十三首  いはひのうたよみはへりしなかに わかはさすひらのゝまつはさらに又 えたにやちよのかすをそふらむ  0284: きみかよのためしになにをおもはま しかはらぬまつのいろなかりせは  0285:  うちにかゐあはせあるへしと  きこえはへりしに人にかはりて かひありなきみかみそてにおほはれて こゝろにあはぬこともなきよは  0286: ふくかせははなさくなみのをるた ひにさくらかひよるみしまえのうら  0287: なみあらふころものうらのそて かひをみきはにかせのたゝみおくかな  0288:  承安元年六月一日院くまのへ  まいらせおはしますついてにすみ  よしへこかうありけりす行し  まはりて二日かのやしろにまいりて  みまはれはすみのえのつりとの  あたらしくしたてられたり  こ三条のゐむのみゆきかみお  もひいてたまふらむとおほえて  つりとのにかきつけはへりし たえたりしきみかみゆきをまちつ けてかみいかはかりうれしかるらむ  0289:  まつのしつえあらひけむなみ  いにしへにかいらすこそはとおほ  えて いにしへのまつのしつえをあらひけむ なみをこゝろにかけてこそみれ  0290:  すむ恵天わうしにこもりて  すみよしにまいりてうたよみ  はへりしに すみよしのまつのねあらふなみの おとをこつゑにかくるおきつしほかせ  0291:  むかし心さしつかうまつりし  ならひによのかれてのちにも  かものみやしろへまいることにて  なむとしたかくなりてしこ  くのかたへす行すとて又かへり  まいらぬことにてこそはとおほ  えて仁安三年十月十日のよ  まいりてへいまいらせしにうち  へもいらぬことなれはたなう  のやしろにとりつきてたて  まつりたまへとて心さしはへり  しにこのまの月ほのほのに  つねよりもあはれにおほえて かしこまるしてになみたのかゝる かなまたいつかはとおもふあはれに  *(以下欠)  底本::   著名:  復刻日本古典文学館 山家心中集   著者:  西行   監修:  久保田 淳   発行所: 日本古典文学会   発行:  昭和46年10月1日  参照::   著名:  山家心中集抄   著者:  伝 西行 筆   校訂:  飯島 春敬   発行者: 飯島 重子   発行所: 有限会社 書藝文化新社   発行:  1996年11月15日 重版  参照::   著名:  西行全集 第一巻        山家心中集(妙法院本)   校訂:  伊藤 嘉夫・久曾神 昇   発行者: 井上 了貞   発行所: ひたく書房   初版:  1981年02月16日 第 1刷発行  翻刻::   翻刻者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力日: 2000年08月12日-2000年08月15日   改装日: 2000年12月04日-2001年01月08日  校正::   校正者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   校正日: 2000年09月15日