Title  グリーン・カード 07  緑の札 07  ----五十年後の社會----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年七月二十七日(日曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  プロローグ 七  Description  調べは終つた。  何にも變つたことは發見されな かつたらしく、警官は乘客に挨拶 をして乘務員室に退いた。 「何か亊件ですか」  航空長が質問した【。】 「大きな聲ぢやいへないが、最近 某國からスパイが入りこまうとし           ヽヽ ヽヽ てゐるのです。それがけふ、あす    ヽヽヽ といふしらせがあつたから、かう やつて一々調べてゐるわけです」 「それで----」 「この飛行機ぢやないらしい。ど うもそれらしいものが發見されな いんです。然しこのことは貴下だ けの腹にをさめておいて下さい」  警察機は機體を離れた。  旅客機は再び驀進をつゞけた。 見る/\二機はスツカリ見えなく なるまで隔たつてしまつた。 「やれ/\とんだ目にあつた」 「本當ですね。だがこんなことも 單調な旅行には却つて話題ができ て良いもんですよ」 「さうとでも思はなけりや、やり 切れませんよ」  ひとしきり客室の方では話がは づんだ。  ヒカルも乘客の華やかな氣分に 釣り込まれてスツ力リ元氣を取戻 してゐた。 「考へて見れば、いゝ經驗でした わね、妾こんなこと始めてゞせう だから面食らつちやつて----」 「僕だつて始めてゞすよ、だがあ なたをすつかり僕の連れにしちま ひましたね」 「本當に----御迷惑でしたでせ う、だつて私が何かいはうとして ゐる間に先生がさう仰しやつたん ですもの、でもおかげで妾荷物を 荒されなくつていゝ鹽梅でした わ」 「さうでしたね。何かの役に立つ ものですね。僕のやうなもので も」 「ありがたうよ、改めてお禮を申 しますわ」  こんなことで時間が早くたつ た。窓の外には、日本の灯がチラ チラと見え出した。 「おや、もう日本に來ましたよ」 「何だか早く着いたやうな氣がし ますわね、あんなことがあつて時 間のたつのを忘れたからでせう」 「僕も、あなたのやうなお連れが あつたんでずゐぶん愉快な旅行を しましたよ」 「いやな先生、御冗談ばかり」 「かも知れませんわね、妾だつて さうですの。----それはさうと、 さつきのお話のつゞきはどうなり ましたの」  ヒカルは急に思出したやうに言 つた。 「話のつづきといふと?」 「アラ、もう忘れて? そら先主 と妾とが度々逢へるだらうといふ お話よ」 「あゝあれですか、何でもないん ですよ。つまりあなたがこれから 訪ねて行かうとしてゐるハナドは 僕の友人なんです。だからあなた がハナドのアシスタントになれ ば、僕がハナドを訪ねて行く度逢 へると、つまりそれだけの話なん ですよ」 「まあ、それぢや先生とハナドと はお友達なんですか、そして御親 友なの」 「さうです」             ヽヽ 「さうですか、まあなんてうれ ヽヽ しいことなんでせう、妾、同時に 二人も尊敬するお方とおちかづき になれるんですわね」 「尊敬するとは恐縮ですな、僕は ハナドとはだいぶちがひますよ」 「だつて先生もずゐぶん有名な方 ですわ----おゝさうだ、ねえ先生 あなたハナドに妾の紹介状を書い てくれない?」  ヒカルは急に眼をかゞやかせ た。  End  Data  トツプ見出し:  救護法は來年度から  實施するやう努力  委員會における内相の挨拶  失業日傭勞働者救濟要綱決定  廣告:  主婦之友 八月號 五十錢  安川コロダイン 一圓廿錢  りん病根治法  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年七月二十七日(日曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年7月19日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年7月26日  $Id: gc07.txt,v 1.6 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $