Title  グリーン・カード 24  緑の札 24  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年八月二十七日(水曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  母と妹 五  Description  星と月の光りで面白く感想集を 讀んでゐると、不意にドアーがノ ツクされた。 「お這入り----」  文字から眼を離さずに、タズは ノツクする人に答へた。  ドアがギーと外に開いた。廊下 からの明るい光りがパ! と流れ た。その光りを背に流して、づか づかと這入つたのほアキラだ。              ヽヽ 「タズ、どうしてスヰツチをひね つてゐる?」 「あら!兄さん----」  アキラの姿を見た瞬間に、彼女 はデスクから飛び離れて、スヰツ チに手を觸れた。  同時に、明るいホーム・ライト が室内を眞晝に染めたのである。 アキラは胸に抱へてゐた小箱を、 圓い卓子に置いた。  彼女は異樣な眼で小箱を凝視め た。 「兄さん、何の箱?」 「これか----」           ヽヽ  しかし、その言葉をぶしつけに 滑らしたまゝ三脚の椅子の一つを 選んでゆつたりと腰を落したの だ。彼女はまだ立つたまゝでぢつ と小箱を凝視めてゐる。 「タズ。」  いひ知れぬ感情の波が、酷い力 で湧き返つてきたのを僅かにその 言葉でアキラは抑へたのだ。 「この小箱、これが何だと思つて ゐる……?」 「…………?」     ヽヽ  彼女はたゞでないアキラの言葉         ヽヽ に、鋭いとは別なある怖ぢ氣を感 じて默つてしまつた。 「タズ。」  その眼は異常に光つてきた。     ヽヽヽ 「お前、いくつになつた?」 「あたし?----十九。」 「さうか。ではお前がまだあの時 にはたつた九つ……ほんの子供だ つたんだな----。」 「兄さん、あの時つて?」 「あの時のことだ!」 「あたし、それが………何のこと だか………。」 「解るまい! 十年前、九月五日 の日の、それが何であるかゞ解る まい!」 「九月五日?、?」 「さうだ! 十年前の----、タズ まあこの小箱を御覽----」  彼は二本の指でその小箱を、彼 女の側にぐい!と突いた。 「兄さん?」 「何か書いてあるだらう?」 「九月五日、----記憶せよ……こ れ、あたし達に?」 「お前と兄さんが記憶しなければ ----誰れがこの日を記憶する!?こ の箱の中には生きてゐるものがあ るんだ!」 「ま!箱の中に!?」  アキラの指先は慄へながらその 小箱に觸れた。  彼女はそれを正視することに堪 へられなかつたのか、身を慄はせ て顏を伏せた。小箱の中に生きて ゐるもの、それが二人の兄妹の記 憶しなければならないものである とすれば、十九の少女の身の慄へ るのを、誰が否めよう。  軈てアキラの手に遺書が握られ た。 「タズ!」        ヽヽ  彼の唇と舌がもつれた。 「御覽!これだ。」  その聲に眼をつぶつて彼女は顏 を擡げた。さうして、その眼は慄 へながら卓子へ、小箱の上へと微 な探りを始めたのだ。         ヽヽ  ----と、彼女はとん狂に叫ん だ。 「そ、それ?! 生きてゐるといふ ものは?」  意外であつたに違ひない。もつ     ヽヽ と異常はものがその小箱から取り 出されるものと信じてゐた彼女の 眼に映つたのはたゞの紙片だ。  End  Data  トツプ見出し:   地方長官   十四縣に亙り   大異動行はる   けふの閣議で決定   安達内相が第三次の大鉈  廣告:   主婦之友 九月號   美神丸   オーレイン  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年八月二十七日(水曜日)日 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年07月31日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年08月14日  $Id: gc24.txt,v 1.5 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $