Title  グリーン・カード 28  緑の札 28  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年八月三十一日(日曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  悲しき餐宴 二  Description  三人は人つ氣のない空洞のやう な工塲へ來た。ガランとした工塲      ヽヽ の中には魔もののやうに聳え立つ てゐる大きなダイナモ、蜘蛛の巣 を張りめぐらせたやうに、うつか り足の入れ塲もない位交錯してゐ るべルト、巨人の手足のゃうにそ そり立つている奇怪な型をした鋼 鐵切斷機、等等等----みんな不氣 味な沈默のうちにすべて運轉を中 止して、眠つてゐるかのやうに見 えた。 「それで九分通り出來てゐるとい ふのは?」 「鑄物工塲の過程はスツカリ完成 してしまつてゐるのです。だから 外形は完成したといつて良いでせ う。たゞ内部の重要な部分がその まゝになつてゐるのです、つまり 祕密工塲の過程が殘されてゐるわ けです」  アキラの機械はみんな組立工塲 の方へ廻されてゐた。  恐ろしく分業化された工塲で       ヽヽ は、あらゆるものの製作に從亊す る職工は、その受持ちの部分だけ を知つて、それがどんな機械にな るかを知らなかつた。  ある職工は十年間も鐵板に穴を あける仕亊ばかりしてゐた。  ある職工は、ローラー機械から 流れ出る薄い鐵板を積み重ねる仕 亊だけを十五年もつゞけてゐた。 ある職工はコイルをまきつける仕 亊を二十年も前から毎日々々くり 返してゐた。  さうして出來上つた各部分品 は、組立工塲へ廻附される。  そこで、熟練工が技師の指圖に 從つて一個の備はつた機械に組立 て上げるのである。  アキラの機械は半分ばかり組立 てたまゝになつてゐた。  一つはかなり大きな送電機だつ た。もう一つは、餘り大きくない コントローラーだつた。送電機は 從來の送電機に附屬せしめて、こ の機械に電流を通じることによつ て、何十萬ボルトの交流電力も、 途中で消費されることなしに、こ れまでの約十倍も遠距離に無線輪 送することができた。  コントローラーはアキラの最も 苦心したところだつた。  この一個の小形なコントローラ ーは飛行機や汽船や自動車や汽車 や、何にでも据ゑつけることがで きた。  このコントローラーは變壓機が あつて、受電したボルテーヂを更 に數倍に擴大することができた。 そしてそれを機關室の發動機に誘 導する性能を持つてゐた。  このコントローラーが今度のア キラの發明の生命だつた。 「組立てなんか二、三日もあれば 十分できますよ、問題は祕密工塲 の方ですね」  アキラは、そこに投げ出されて ある機械の分子を悲し氣に眺めな がら誰にともなくいつた。そして その足で祕密工塲へ向つた。  祕密工塲の入口まで來たとき、 アキラはフト足を止めた。 「ヒカル。氣の毒だけれど、あな たはこゝへ入つていただけない」  いまゝで默つて、アキラのあと からついて歩いてるたゞけのヒカ ルだつた。突然かういはれると、 心持ち彼女の頬に血の上るのを見 逃せなかつた。 「アラ、何故ですの?」 「判つてるぢやないか、こゝは祕 密工塲なんだ。僕の發明の心臟部 が仕舞つてあるところなんだ」 「ぢやあ猶更拜見したいと思ひま すわ。ハナド、妾はあなたの助手 ぢやなくつて?」          【アキラ】  ヒカルの瞳はヂツとあきらの眼 を射た。初めて逢つたときから恐 れてゐる瞳だつた。しかしアキラ はその瞳を射かへして答へた。 「それは判つてゐる。しかし、こ のキカイについては、あなたは僕 の助手としての資格はない。すで に完成した後だから。」  End  Data  トツプ見出し:   浮揚力十分ならず   惜しや離陸に失敗   煙幕のごときガソリンの放出   恨みを呑むタコマ市號  廣告:   肉汁造血滋養劑 ミュスキュロジン「ビラ」 大瓶 五・〇〇   ロイマチス神經痛に アトファン  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年八月三十一日(日曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年08月03日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年08月20日  $Id: gc28.txt,v 1.5 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $