Title  グリーン・カード 48  緑の札 48  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年九月二十六日(金曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  緑の札 一  Description  ハザクラ・テアトル  地上街、唯一のハザクラ・テア トル!贅澤な建物である。  夜になると「冷光燈」が太陽より も、もつと強力な光を此の建物に 浴びせかける。  建物は圓形に造られ、屋上とそ の前庭は飛行機で埋められてゐ る。  前庭には、間々自動車も交へら れてはゐるが、その數は至つて僅 少である。ハザクラ・テアトルの 觀客が乘り捨てた飛行機であるこ とはいふまでもない。  ハザクラ・テアトルの外廓には 廣告燈が明滅する。  テアトルの内部----  七層の螺旋形に組まれた觀客席 に六部目位の觀客が散らかつてゐ る。内部の中央----。大きい穴に なつてゐるのが、ステージだ。  合圖のべルが鳴ると、地下から ステージがキカイのカに依つて擡 出する。  所作亊がステージの出擡擡下で 開始され、終結するのだ。無論途 中からの登揚人物は輕快なヱレべ               ヽ ーターを利用して、その芝居をま ヽ とめる。配光は劇塲内の周圍から 放射されるが、芝居といつてもハ ザクラ・テアトルはレビユーの進 歩したものであるから、バツクの 必要は皆無のやうに出來上つてゐ る。  内部はいふまでもなく光の海 だ。凡ゆる設備の贅美なことは、 さすがに金權階級の娯樂塲である ことを思はせる----。        【屋】  シノブの化粧部室----。          【屋】  ウズキ・シノブの部室は花束で 埋められてゐる。  シノブは廻轉椅子に身を寄せて 多くの女達に手傳はれながら、扮 裝に懸命だ。  進軍の女騎士が、怖れ戰く味方 の戰士を踏み越えて、敵陣深く進 出するといふ----ストウリーに盛 られた淒壯な舞踏である。  殊に彼女は今夜、此の舞踏中に 「アジアの唄」を獨唱するといふこ とが、人々の足を半ば誘つた理由 であらう…。  ヽヽヽヽ  ひよつくりシノブの部屋にこの 劇塲の經營者ミムラ頭取が現れ た。  彼は、何よりもその花束に眼を 落した。彼はその山積された花束 に、彼女の素睛らしい人氣を見て 滿悦した。  間もなくべルが鳴つた。彼女の 出番が報じられたのだ。 【觀】  歡客席----。  三層の一部。こゝは特別席だ。  劇塲關係の人々と新聞記者席で ある。兄のウズキ・ジユンが珍ら しくこの特別席の中央に座を占め てゐた。彼はシノブといふアイド ルによつて高調される「アジアの 唄」のためにいつもは極端に嫌つ てゐる劇塲で、極端に嫌つてゐる 有閑人種と肩をならべてすわつて ゐるのだつた。  End  Data  トツプ見出し:   選擧權年齡制限を   滿二十歳に低下   内務省の態度決定す   他の改正とともに來議會へ  廣告:   毛髮若返り香油 ビタオール 定價一圓  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年九月二十六日(金曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年08月22日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年09月07日    $Id: gc48.txt,v 1.4 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $