Title  グリーン・カード 53  緑の札 53  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年十月三日(金曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  緑の札 六  Description 「ハナド」  シノブはヂツとアキラを見つめ た。 「それがあなたのレデーに對する 禮儀なの?」 「失禮なといふんですか。しかし    ヽヽ 僕は、きみが考へてゐるやうな感      ヽヽ 情からは、とつくの昔に離れてゐ る、そんなことはどうであつても ヽヽ よいことです、僕は一筋の道を急 ぐ旅人、道以外の凡ゆる感情には 超えてゐるはずだと、御承知下さ い----。」 「へ! 大變な王樣!」       ヽヽヽ  わざ----とはずんだ調子でシノ               ヽ ブは仰山にいつてみせた。そのお ヽヽヽ どけた輕い言葉の裡には、無論彼 への嘲笑に近い叛意があつた。 「ハナド、そんなこといつてゝ も、女は魔法使だつてこと解ら ない? すぐ虜にされるつてこ と、考へない----?」      イン・ロジカル3 「ハヽヽ、不合理な! そんなこ とはこの僕には無いはずです。」 「でも、虜にされたら?」 「僕は自殺する!」 「ほんたう?!」 「ほんたうです!」 「約束する?」 「するとも! それほどの女性が 現はれたとするなら!」 「現はれてるぢやないの? ハナ ド----?」 「それは?」 「あたし! ウズキ・シノブ!」 「…………」  アキラの胸の奧に、憎惡の炎               ヽ がめら/\と燃え立つた。何のこ ヽヽ だはりもなく人生に君臨し、男性               ヽ に君臨する踊子が、彼の神經をか ヽ きむしらずにはおかなかつた。 「ウズキ!」  彼の唇がぴり! と慄へた。  ヽヽ 「きみがこのハナド・アキラを虜 にするのだつて?!」 「えゝ! してみせる!」  平氣で、微笑さへ含んでシノブ は答へた。 「駄目だ!」  彼は鼻で喘つた。 「大丈夫よ! 見てゝ御覽なさい【。】 ハナドはきつとあたしが好きにな れる!」 「そんなことは考へられない」 「えゝ、考へられなくつたつて結 構よ! あたし、ちやんと勝算を もつてゐる! あたしは----おそ らく日本一の魔法使だもの!」              ヽヽ 「僕は科學者だ! 僕こそ、きみ  ヽヽ のさうした誇りの生熊を奪つてみ せる!【」】 「その前に、あたしのこの唇が あなたを奴隷にしてみせるのよ」 「お歸り!【」】  アキラは不意に立ち上つた。彼 の瞳は獸のやうに光つてゐた。 「お歸りなさい!」  彼はもう一度、シノブに向つて 命令した。 「歸れつて、ハナドはあたしに命 令するの?」 「…………」 「命令なら、あたしは歸らない、 殺されたつて歸らない!」 「命令ではありません!」t 【嘆】 「歎願? 正直にいつたらどう? 嘆】 歎願でせう? ね----?ハナド」    ヽヽ        ヽヽ 「僕はきみのやうに、言葉にとゞ ヽ めを刺す人は嫌ひだ!」 「ありがと。でも、あたしはハナ ドが大好きになつてるのよ、あた しを嫌惡する人なんて、日本中 に、もしかすると世界中に、ハナ ド一人であるかも知れない! ハ ナドは、なんて、英雄だらう!」  新しい金口を取り出してシノブ は歸りさうにもなかつた。             ヽヽヽ  アキラはヂツとシノブとにらみ 合つて立つてゐた。  二人とも無言だつた。  突然そこへ、ヒ力ルが現はれ た。      テーブル2  ヒカルは卓子の上のカードを見 て愕然となつた。 「このカードは?」  End  Data  トツプ見出し:   ロンドン條約の   批准を御裁可   政府より聲明發表  廣告:   ぜんそく スペロイン 藥價六日分一圓   脚氣新藥 パラヌトリン  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年十月三日(金曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年08月25日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年09月07日    $Id: gc53.txt,v 1.5 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $