Title  グリーン・カード 57  緑の札 57  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年十月八日(水曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  緑の札 十  Description  二人はにらみ合つて、デスクに 差向つた。 「御用件は?」 「いつか、約束したことを僕は果 したいと思ふのだ」 「約束----?君と? ハテ何だつ たかな」     テーブル2  不意に卓子を叩いてソウタは立 ち上つた。彼の唇は火を吐くほ どに鋭かつた。         レーボア・マーケツト4 「おい!!ハナド、勞働市塲は     つなみ2  つなみ2 失業者の海嘯だ!その海嘯がど   ヽヽヽ こにぶつかつてゆくか----考へて 見ろ!」 「フヽヽ。それがこのハナドと君 達との交渉だといふのかね。」 「當り前ぢやないか!だから僕 は約束を果したいと思つたのだ。」 「約束なんて----まだ僕には呑み 込めない、一體、何を果したいと いふのだ?」 「なに?----ハヽ、別にいふほど のものではないが……。」  急にソウタは投げやりな口調で ポケツトの中から電銃と紙片をつ かみ出すと、それをぽん!とデ スクの上に叩き投げた。 「電銃か、署名か、この二つの中 から、君の意思に叶つた奴を一つ 選べばそれで足りるのだ、ごてご てとした理窟はいらない。」  アキラは急に態度をくづした。 彼は兩腕を組んでニツと嗤つた。 「無線電力の權利を讓れといふの だな?」          レーボア・マーケツト4 「いふまでもない、勞働市塲の つなみ2 海嘯を支へる----それが唯一の抵 抗だ!」 「僕が斷然拒絶したら?」 「これだ!」  ソウタの電銃を握つた手が伸び た。アキラは紙片を握つて立ち上 つた。 「署名は斷然、幾十萬勞働者の健 全なる生活のために拒絶する!!」  握られてゐた紙片がパツとソウ タの前に投げ返された。懸命な眼 の奧でお互が嗤つた。  一秒、二秒、三秒……。ソウタ の血に滲んだ手が、電銃へと伸び て行つた。  危險はアキラに冠せられた。  ----この時。突如! いまゝで 餘りの怖ろしい光景に暫くはた             デツス1 じろいてゐたシノブ----「死」の          タイラント2 爭鬪に、彼女の心の暴君が跳ね 上つた。  ソウタの手が電銃の寸間に迫つた 刹那である。 「あ!」  ソウタの異常な愕きの叫びを 包んで、す早く伸びたシノブの手 が、怖ろしい電銃を窓の外に投げ つけた。パツとグラスの裂ける音 が室内の空氣を割つた。  End  Data  トツプ見出し:   御馬上にて   青年團御親閲   畏き大御心から   明治節當日二重橋前で   ----   まづ見本として   十萬俵輸出を内命   準備に忙しい神戸東神倉庫   米價調節具體策進む  廣告:   赤まむしの活精絞り汁 天龍仙 携帶用 (凡七日分)壹圓  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年十月八日(水曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年08月28日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年09月07日    $Id: gc57.txt,v 1.4 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $