Title  グリーン・カード 77  緑の札 77  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊   昭和五年十一月六日(木曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  夜明けの人生 三  Description 「ア、アキラさん………」  噛み占めていたセキの唇が慄 へながら苦しく溶けた。 「なんにもいはないで----赦して お呉れ………初めて、初めて妾の 惡夢が醒めました……なんにもい はないで【。】妾がわるかつたのです。」  全身の涙を搾るやうに、戻に彼 女は劇しく身を慄はせた。 「………………」  アキラは何もいへなかつた。ま つたく夢想だもしなかつた母の姿        ヽヽ に、彼は神經がしびれて終つたの だ。彼はバタリと電銃を落した。 「お、お母さま!」  彼の手はセキの胸元に伸びた。 「………………」               ヽ  セキは力の限りアキラの手をか ヽ き寄せた。 「お、お母さま!ぼ、ぼくは初め て人生を訂正するものゝ力を見ま した!」  〃おゝ!吾等の人生は訂正され る!憎しみも、怒りも、嘲りも、 罵りも----一切の邪心を洗ひ拂つ て、聖く殉情な母は吾等に與へら れた!!〃  二人は長い間抱擁した。つめた い實驗室に訪れた春だつた。  しかし間もなく彼はシノブの屍 を眺めて、さツと、雙頬の色を失 した。 「ぼ、ぼくは人を殺したのです。 ぼくの仕亊は罰しられました!人 間の化學は、所詮----眼に見えぬ ものゝ力には及びません! ぼ、 ぼくは處決します! しかし、ぼ くは滿足です………。」  アキラは靜かに、その足の右側 に落されている電銃を慄へる手に               ヽ 握りしめると、影繪のやうな足ど ヽ りで、寂しい姿を力なく實驗室へ と引きずつた。 「お待ち!」  セキはアキラを止めた。  そして電話でタキ・ハルキ博士 を呼んだ。     × 「ハナド!」  シノブの身體を見た博士の顏は 明るかつた。           たす1 「大丈夫! この人は救かります【。】 この人の神經はまだ死んではゐな い!」 「博士! ほんとうでせうか?!」  思はず、アキラは叫んだのだ。 「ハヽヽ」  タキ博士は哄笑した。 「お若い科學者、あなたはキカイ の暴君ではあるけれど、人間の生 命の前では、わたし----タキの下 僕に過ぎません………。」  まつたく、精鋭な科學の力も、 極度に進歩した醫術には適はなか つた。  博士は冗談半分な言葉を撤きな がら、更生術を始めた。  間もなく----。  博士の言葉は裏切られなかつ た。  デスクの上の屍は、再び飛び 散つた生命を肉體に宿して、今 迄蒼白く血潮を失つた唇に、赤 い燃えるやうな血潮が巡々と動い た。  〃靈を裁くことは赦されない! だが、靈を護り、靈の成長にのみ 人間の全能は赦される!〃             ヽ  靈は解決した!アキラはほツと してタキ博士の顏を見たのだ。  博士はやつぱり微笑んでゐた。  その微笑みは、此の年少な科學 者の夢想を憫れむ----といふより は、キカイの暴君に對して捧げる 老人らしい愛嬌であつた。  End  Data  トツプ見出し:   補充計畫に關し   軍令部長頑張る   最後案として飽まで讓らず   けふ海相、谷口部長重要會議  廣告:   我政府ノ最優秀ト確證セル世界的新治療豫防特殊免疫元 コクチゲン   喘息ニハ アトス 定價 壹圓  廣告:  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:   昭和五年十一月六日(木曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年09月11日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年09月18日    $Id: gc77.txt,v 1.3 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $