款冬 != 山吹


「山家集類題」を翻刻していたら、「新訂山家集」では「山吹」という詞書が「疑冬」と読めました。いろいろ調べたら「疑冬」ではなくて「款冬」である事が分かりました。このうたは「山吹」のうたなのでしょうか?「ふきのとう」のうたとも取れるのですが。

「山家心中集」(宮本本)
 0192
 山ふきいえのさかりたりといふことを
やまふきのはなのさかりになりぬれは
こゝにもゐてとをもほゆるかな

「山家心中集」(妙法院蔵本)
 0189
 やまふき家のさかりたいといふ
 ことを
やまふきのはなさくさとになり
ぬれはこゝにもいてとおもほゆるかな

「纂校山家集」(六家集本山家集近衛本)
 0186:0165
 山ぶき
きしちかみうゑけむ人ぞうらめしきなみにをらるるやまぶきの花
 0187:0166
山ぶきのはなさくさとになりぬればここにも井でとおもほゆるかな

「西行法師家集」
 0126
 〓冬家のさかりたりといふことを
山ぶきの花のさかりになりぬればここにもゐでとおもほゆるかな
 〓:(ヒ/矢+欠:款の異字体)
 *詞書心中集より補ふ

「山家集類題」
 0220:0167
 款冬
きし近みうへけむ人そうらめしき波にをらるゝ山ふきの花
 0221:0168
山吹の花さくさとに成ぬれはこゝにもゐてとをもほゆる哉

「新訂山家集」岩波文庫
 0253
 山吹
きし近みうゑけん人ぞ恨めしき波にをらるる山吹の花
 0254
山吹の花咲く里に成ぬればここにもゐでとおもほゆるかな

「山家集」新潮日本古典集成(陽明文庫蔵)
 0165
 山吹
岸近み 植ゑけん人ぞ 恨めしき 波に折らるる 山吹の花
 0166
山吹の 花咲く里に なりぬれば ここにも井手と 思ほゆるかな


文明本節用集では
款冬 フキノタウ 倭俗款冬二字云山吹大誤也

大辞林 第二版では
かんとう くわん— 【款冬】
〔「かんどう」とも〕
(1)フキの異名。
(2)ヤマブキ(山蕗)の異名。
(3)ツワブキの異名。
やまぶき 【山吹】
(1)バラ科の落葉低木。山地に生え、庭木ともする。茎は緑色で多数叢生(そうせい)し、高さ約1.5メートルで先は垂れる。葉は狭卵形で鋸歯がある。春、小枝の先に黄色の五弁花を一個ずつつける。果実は卵円形。園芸品種には重弁花もある。[季]春。
(2)家紋の一。山吹の花や葉を図案化したもの。水を配するものもある。
(3)「山吹色」に同じ。
(4)襲(かさね)の色目の名。表は薄朽葉、裏は黄色。春、着用する。
(5)〔山吹色であることから〕大判・小判など、金貨の異名。「—二枚取り出し/浮世草子・元禄太平記」
(6)〔女房詞〕鮒(ふな)。[大上臈御名之事]
(7)〔中世女性語〕酒。[日葡]
(8)鉱山で、採取した鉱物から金銀銅などを吹き分けること。また、その吹き分けたもの。

元和三年(1617)版『下学集』
ヤマブキ,〓〓,ヤマフキ/ドビ,日本ニ所〔トコロ〕ノ謂〔イフ〕山吹〔ヤマフキ〕是レナリ也 暮春〔ホ[シユン]〕ニ有リ花 日本ノ俗呼テ〓冬ヲ謂フ山吹ト者ハ誤〔アヤマリ〕也,草木,123-6,2421
クワンドウ,〓冬,クワンドウ/フキ,枳莖〔キキヤウ/フキ〕菜〔サイ〕ナリ也 本草ニ云ク〓冬十二月有リ花 其ノ色黄〔キ〕或ハ紫〔ムラサキ〕 其ノ味イ苦〔ニカシ〕也 三躰詩〔[サン]テイシ〕ニ云ク僧房〔[ソウ]バウ〕ニ逢著〔ブチヤク〕ス〓冬花〔[クワンドウ]クワ〕 出テテ寺ヲ吟行スレハ日已〔ステ〕ニ斜ナリ 十二街中〔カイ[チユウ]〕春雪遍〔アマネシ〕馬蹄〔[バ]テイ〕 今ニ去テ入ラン誰〔タレ〕カ家ニカ 按〔アン〕スルニ此ノ詩ヲ十二月ノ之花至ル暮春雪ノ時分ニ也 然ルニ我カ朝ノ朗詠集ニ清愼公ノ詩ニ云ク〓冬誤〔アヤマツ〕テ綻〔ホコロフ〕暮春ノ風ニ 何ンソヤ哉所詮〔[シヨ]セン〕日本ノ之俗皆以テ山吹〔[ヤマ]フキ〕ヲ謂フ〓冬ト 山吹ハ即チ〓〓〔ドビ〕ナリ也 其ノ色ロ黄〔キ〕ニシテ而如シ緑酒〔リヨク[シユ]〕ノ也 清愼公ノ之作モ亦タ誤テカ歟 〓〓ヲ謂フ〓冬ト也 其ノ詩ノ意ニ云ク此レ花ノ名也 若〔モシ〕是レ〓冬ナラハ何〔ナン〕ソ綻〔ホコロビン〕暮春ノ風ニヤ乎 咎〔トカメ〕テ〓冬ノ字ヲ而云フ尓〔シカ〕ノミ耳 詩ノ意ロ雖トモ工〔タクミ〕ニ用ユト上ノ故事〔コジ〕ノ誤リ矣 可シ辨〔ベン〕ス之ヲ,草木,123-6,2422
フキ,〓冬,クワンドウ/フキ,枳莖〔キキヤウ/フキ〕菜〔サイ〕ナリ也 本草ニ云ク〓冬十二月有リ花 其ノ色黄〔キ〕或ハ紫〔ムラサキ〕 其ノ味イ苦〔ニカシ〕也 三躰詩〔[サン]テイシ〕ニ云ク僧房〔[ソウ]バウ〕ニ逢著〔ブチヤク〕ス〓冬花〔[クワンドウ]クワ〕 出テテ寺ヲ吟行スレハ日已〔ステ〕ニ斜ナリ 十二街中〔カイ[チユウ]〕春雪遍〔アマネシ〕馬蹄〔[バ]テイ〕 今ニ去テ入ラン誰〔タレ〕カ家ニカ 按〔アン〕スルニ此ノ詩ヲ十二月ノ之花至ル暮春雪ノ時分ニ也 然ルニ我カ朝ノ朗詠集ニ清愼公ノ詩ニ云ク〓冬誤〔アヤマツ〕テ綻〔ホコロフ〕暮春ノ風ニ 何ンソヤ哉所詮〔[シヨ]セン〕日本ノ之俗皆以テ山吹〔[ヤマ]フキ〕ヲ謂フ〓冬ト 山吹ハ即チ〓〓〔ドビ〕ナリ也 其ノ色ロ黄〔キ〕ニシテ而如シ緑酒〔リヨク[シユ]〕ノ也 清愼公ノ之作モ亦タ誤テカ歟 〓〓ヲ謂フ〓冬ト也 其ノ詩ノ意ニ云ク此レ花ノ名也 若〔モシ〕是レ〓冬ナラハ何〔ナン〕ソ綻〔ホコロビン〕暮春ノ風ニヤ乎 咎〔トカメ〕テ〓冬ノ字ヲ而云フ尓〔シカ〕ノミ耳 詩ノ意ロ雖トモ工〔タクミ〕ニ用ユト上ノ故事〔コジ〕ノ誤リ矣 可シ辨〔ベン〕ス之ヲ,草木,123-6,2422
*〓(ヒ/矢+欠:款の異字体)と思われる。Nitobe

『伊呂波拾遺』
"やまぶきの衣","〓〔ヒ矢欠〕冬ヲヽル。春也","紫式部集二の宮御五十日","八八一",881

国文学研究資料館 「二十一代集データベース」による「ゐて」の検索(除「居て」等)