Data  *(宮)宮本本  *(御)御所本  *(内)内閣文庫本  Title 山家心中集(妙法院本)  *(宮)(御)花月集といふへし  0001:  *(宮)(御)花・三十六首 なにとなくはるになりぬときく日 より心にかゝるみよしのゝやま  *2(内)はるきにけりと  0002: 山さむみはなさくへくもなかりけり あまりかねてもたつねきにける  0003: よしのやま人に心をつけかほに 花まつみねにかゝる白雲  *4(内)花よりさきに  0004: さかぬまのはなには雲のまかふとも 雲とは花のみえすもあらなん  *4(宮)ミセケチ、傍記ヤスウマチツゝ  *4(御)やすうまちつゝ  0005: いまさらにはるをわするゝはなもあらし 思のとめて今日もくらさん  0006: 白河の木すゑを見てそなくさむる よしのゝやまにかよふ心を  0007: おしなへてはなのさかりになりにけり 山のはことにかゝる白雲  0008: よしのやま木すゑのはなをみし日より 心は身にもそはすなりにき  *5(内)そはぬなりけり  0009: あくかるゝ心はさてもやまさくら ちりなんのちやみにかへるへき  0010: はなにそむこころのいかてのこりけむ すてはてゝきと思わかみに  *5(内)思わかみは(傍注「に」)  0011: ねかはくは花の下にて春しなむ そのきさらきのもち月のころ  0012: 仏にはさくらのはなをたてまつれ我 のちの世を人とふらはゝ  0013: ちよくとかやくたすみかとのをはせか しさらはをそれてはなやちらぬと  *1(御)(内)勅とかや  *3(御)(内)いませかし  0014: 浪もなくかせををさめし白河の 君のをりもや花はちりけん  0015: かさこしのみねのつゝきにさく花は いつさかりともなくやちるらん  0016: よしのやまかせこすくきにさく花は 人のをるさへをしまれぬかな  0017: ちりそむるはなのはつ雪ふりぬれは ふみわけまうきしかのやまこえ  0018: 春かせのはなのふゝきにうつもれて ゆきもやられぬしかのやまこえ  *5(内)しかのやまみち  0019: よしのやまたにへたなひく白雲は みねのさくらのちるにやあるらん  *4(内)岸のさくらの  0020: たちまかふみねのくもをははらふとも はなをちらさぬあらしなりせは  0021: このもとにたひねをすれはよしのやま はなのふすまをきする春かせ  0022: みねにちるはなはたになるきにそさく いたくいとはしはるのやまかせ  0023: あたにちる木すゑのはなをなかむ れはにはにはきえぬ雪そつもれる  *5(内)雪のつもれる  0024: かせあらみこすゑの花のなかれきて にはになみたつ白河のさと  0025: 春ふかみえたもゆるかてちるはなは 風のとかにはあらぬなるへし  0026: かせにちるはなの行ゑはしらねとも をしむ心は身にとまりけり  0027: ちるはなをゝしむ心やとゝまりて またこんはるのたねになるへき  0028: をしまれぬ身たにも世にはあるものを あなあやにくのはなのこゝろや  0029: うき世にはとゝめをかしとはるかせの ちらすは花をゝしむなりけり  0030: もろともにわれをもくしてちりね はなうき世をいとふこゝろあるみそ  0031: をもへたゝはなのなからんこのもとに なにをかけにて我身すみなん  0032: なかむとて花にもいたくなれぬれは ちる別こそかなしかりけれ  0033: なにとかくあたなるはなの色を しも心にふかく思そめけん  0034: 花もちり人もみやこえかへりなは やまさひしくやならむとすらん  0035: よしのやまひとむらみゆる白雲は さきをくれたるさくらなるへし  0036: ひきかへて花みる春はよるはなく 月見ん秋はひるなからなん  0037:  月 八月十五夜 *(御)(内)三十六首 かそへねとこよひの月のけしき にて秋のなかはをそらにしる哉    0038: 秋はたゝこよひ一よの名なりけり をなし雲井に月はすめとも  0039: さやかなるかけにてしるし秋の月 とよにあまれるいつかなりけり  0040: うちつけにまたこん秋のこよひまて 月ゆへをしくなる命かな  0040.5 (御)(内) おもいせぬ十五のとしもあ子ものを こよひの月のかからましかは  0041:  くもりたりし月の十五夜を 月まてはかけなく雲につゝまれて こよひならすはやみにみへまし  *題(御)(内)くもリたる十五夜を  *題詞末(御)童子神心ヲ  *題詞末(内)童子神之忌  0042:  九月十三夜 雲きへし秋のなかはのそらよりも 月はこよひそなにをへりける  0043: こよひはと所へかほにすむ月の 光もてなすきくの白露  *2(内)こゝろへかほに  0044:  後九月に 月見れは秋くはゝれるとしはまた あかぬ心もそふにそありける  *題(御)のちの九月に  *題(内)のちの九月  0045:  月の哥あまたよみ侍しに 秋の夜のそらにはいつてふ名のみして かけほのかなるゆふつくよかな  0046: うふしとやまつ人ことにをもふん 山のはいつる秋の夜の月  *3(御)(内)をもふらん  0047: あつまにはいりぬとひとやをしむらん 宮こにいつる山のはの月  0048: まちいてゝくまなきよひの月見は 雲そ心にまつかゝりぬる  *5(御)まつかゝりける  *5(内)まつかゝりけり(傍注「る」)  0049: はりまかたなたのみをきにこきいてゝ あたりをもはぬ月をなかめん  0050: わたのはらなみにも月はかくれけり 宮このやまをなにいとひけん  0051: あまのはらをなしいはとを出れとも 光ことなる秋のよのつき  0052: 行すゑの月をはしらすすきゝ ぬる秋またかゝるかけはなかりき  0053: なかむるもまことしからぬ心地して 世にあまりたる月のかけかな  0054: 月のためひるとおもふかかひなき にしはしくもりてよるをしらせよ  0055: さためなく鳥やなくらん秋の夜は 月のひかりを思まかへて  0056: 月さゆるあかしのせとにかせ吹は こほりのうへにたゝむ白浪  0057: きよみかたをきのいはこす白浪に 光をかはす秋の夜の月  *2(内)関のいはこす  *4(内)光をかさす  0058: なかむれはほかのかけこそゆかしけれ かはらしものを秋のよのつき  0059:               に 人も見ぬよしなき山のすゑまても すむらん月のかけをこそ思へ  *3(御)(内)すゑまてに  0060: 身にしみてあはれしらするかせより も月にそ秋の色は有ける  0061: 秋かせやあまつ雲井をはらふらん ふけ行まゝに月のさやけき  0062: なかなかにくもるとみえてはるゝ夜の 月はひかりのそふ心ちする  *4(御)月はひかりそ  0063: よもすから月こそ袖にやとりけれ むかしの秋を思いつれは  0064: つきを見て心うかれしいにしへの 秋にもさらにめくりあひぬる  0065: いつくとてあはれならすはなけれとも あれたるやとそ月はさひしき  0066: 行くゑなく月に心のすみすみて はてはいかにかならんとすらん  0067: なかなかに心つくすもくるしきに くもらはいりね秋の夜の月  0068: 水のおもにやとる月さへいりぬるは 浪のそこにもやまやありける  *3(内)いりぬれは  *4(御)(内)池のそこにも  0069: 有明の月のころにしなりぬれは なからへすはと思ひなるかな  0070: いとふよも月すむ秋になりぬれは なからへすとは思ひなるかな  0071: 何事もかはらのみ行世の中に をなしかけにてすめる月かな  0072: 世の中のうきをもしられてすむ月 のかけはわか身の心地こそすれ  *2(御)(内)うきをもしらて  0073:  恋 (御)三十六首 ゆみはりの月にはつれてみしかけの やさしかりしはいつかわすれん  *2(内)月にはつれ  *4(御)さやしかりし  0074: しらさりき雲井のよそにみし 月のかけをたもとにやとるへしとは  *5(御)(内)やとすへしとは  0075: 月まつといひなされつるよひのまの こゝろの色を袖にみえぬる  0076: あはれとも見人あらはおもはなん 月のおもてにやとす心を  *1(内)あはれもと  *3(内)おもへなん  *5(内)やとる心を  0077: なけけとて月やはものを思はする かこちかほなる我涙かな  0078: おもひしる人有明のよなりせは つきせす身をはうらみさらまし  0079: かすならぬ心のとかになしはてし しらせてこそは身をもうらみめ  *3(御)なしはてゝ  0080: あやめつゝ人しるとてもいかゝせん しのひはつへきたもとならねは  0081: 今日こそは気色を人にしられぬれ さてのみやはと思ふあまりに  0082: 身のうさの思しらるゝことはりに をさへられぬはなみたなりけり  0083: ものおもへはそてになかるゝ涙かは いかなるみをにあふせありなん  0083.5 (御)(内) もらさしと袖にあまるをつつままし 情をしのふなみたなりせは  0084: けさよりそ人の心はつらからてあけ    ゆく はなれぬるそらをうらむる  *4(御)(内)あけはなれゆく  0085: きえかへりくれまつそてそしほれ ぬるをきつる人はつゆならねとも  0086 (御)(内)「きかへり」Γことつけて」哥前後ス ことつけてけさのわかれはやすらはん 時雨をさへやそてにかくへき  0087: あふまてのいのちもかなとをもひしを くやしかりける我心かな  *3(内)をもひしは  0088: なかなかにあはぬ思ひのまゝならはうらみ はかりやみにつもらまし  0089: さらにまたむすほゝれゆくこゝろかな とけなはとこそ思しかとも  0090 (内)コノ歌ナシ むかしよりものおもふ人やなからまし 心にかなふなけきなりせは  0091: 夏草のしけりのみゆく思かな またるゝ秋のあはれしられて  0092: あはれとてとふ人のなとなかるらん ものおもふやとのをきのうはかせ  0093: くれなゐのいろにたもとの時雨つゝ そてに秋ある心ちこそすれ  0094: けふそしる思ひいてよとちきりしは わすれんとてのなさけなりけり  *1(御)(内)いまそしる  0095: 日にそへてうらみはいとゝおほうみ のゆたかなりけるわかなみたかな  0096: なにはかたなみのみいとゝかすそひて うらみのひはや袖のかはかぬ  *5(御)袖のかはかむ  0097: 日をふれはたもとの雨のあらそひて はるへくもなきわかこゝろかな  *3(御)あしそひて  0098: かきくらす涙の雨のあしゝけく さかりにものゝなけかしきかな  *3(御)(内)あしゝけみ  0099: いかにせんそのさみたれのなこり よりやかてをやまぬ袖のしつくを  0100: さまさまにおもひみたるゝ心をは君か もとにそつかねあつむる  *5(内)つかみあつむる  0101: 身をしれは人のとかともをもはぬ にうらみかほにもぬるゝ袖かな  *2(御)(内)人のとかには  0102: 人はうしなけきはつゆもなくさ ますさはこはいかにすへき心そ  0103: かゝる身をゝしたてけんたらちね のをやさへつらき恋もするかな  *1(御)(内)かゝる身に  0104: とにかくにいとはまほしき世なれと も君かすむにもひかれぬるかな  0105: ものをもへとかゝらぬ人もあるものを あはれなりける身の契かな  *1(内)ものをもへとも  0106: むかはらはわれかなけきのむくひにて たれゆへ君かものを思はん  *4(内)君もたれゆへ  0107 (内)コノ歌ナシ あふと見しそのよの夢のさめて あれななかきねふりはうかるへけれと  0108: あはれあはれこの世はよしやさもあらはあれ こむよもかくやくるしかるへき  0109:  雑上 (御)(内)百七十首 なにとなくせりときくこそあはれ つみけん人の心しられて  *3(御)(内)あはれなれ  0110: はらはらとをつる涙そあはれなるた まらすものゝかなしかるへし  0111: わひ人のなみたににたるさくらかな          こほ かせみにしめはまつみたれつゝ  *5(御)(内)まつこほれつゝ  0112: よしのやまやかていてしと思身を はなちりなはとひとやまつらん  0113: こからしにこのはのをつる山さとは涙 さへこそもろくなりけれ  0114: つくつくとものを思にうちそへてを りあはれなるかねのをとかな  0115: 暁のあらしにたくふかねのをとを こゝろのそこにこたへてそきく  *5(内)たへてきくかな  0116: とふ人もをもひたへたる山さとの さひしさなくはすみうからまし  *5(内)すみそかへまし  0117: たにのまへにひとりそまつも たてりけるわれのみともはなきかと思へは  *1(御)(内)たにのまに  0118: まつかせのをとあはれなるやまさとに さひしさそふるひくらしのこゑ  0119: 山さとはたにのかけひのたえたえに 水恋とりのこゑきこゆなり  0120: ふるはたのそはのたつきにゐる はとのともよふこえのすこきゆふくれ  0121: みくまのゝはまゆふをふるうらさひ てひとなみなみにとしそかさなる  *2(内)はまゆふおける  0122: いその神ふるきをしたふよなり せはあれたるやとに人すみなまし  *5(内)月すみなまし  0123: ふるさとはみしよにもにすあせに けりいつちむかしの人ゆきにけん  0124: かせ吹はあたにやれ行はせをはの あれはとみをもたのむへきよか  *(内)はせふはの  0125: またれつるいりあひのかねのをとす なりあすもやあらはきかんとすらん  0126: いりひさす山のあなたはしらねとも こゝろをかねてをくりをきつる  0127: しはのいほはすみうきことも あらましをともなふ月のかけなかりせは  0128: わつらはて月にはよるもかよひけり となりへつたふあせのほそみち  *3(内)かよふなり  0129: 光をはくもらぬ月そみかきけるいな はにかゝるあさひこのたま  0130: かけきえてはやまの月はもりもこす たには木すゑのゆきとみへつゝ  0131: あらしこすみねのこのまをわけき つゝたにのし水にやとる月かけ  0132: 月をみるほかもさこそはいとふらめ 雲たゝこゝのそらにたゝよへ  *4(内)雲たゝみねの  0133: くもにたゝこよひは月をまかせ てんいとふとてしもはれぬものゆへ  *3(内)ませけん  0134: くるはるはみねにかすみをさきたてゝ たにのかけひをつたふなりけり  0135: こせりつむさはのこほりのひまた えてはるめきそむるさくらゐのさと  0136: はるあさみすゝのまかきにかせさ えて夫たゆきゝえぬしからきのさと  0137: はるになるさくらのえたはなにとな く花なけれともむつましきかな  0138: すきてゆくはかせなつかしうく ひすよなつさひけりなむめのたちえに  *5(御)むめのしたえに  0139: うくひすはゐ中のたにのすなれ ともたひたるねをはなかぬなりけり  *4(御)たみたるねをは  0140: はつ花のひらけはしむるこすゑより そはえてかせのわたるなるかな  0141: をなしくは月のをりさけ山さくら はな見んよるのたえまあらせし  *4(御)はなみぬよるの  *4(内)はなみぬよるも  0142:    るる そらはれて雲なりけりなよしのやま 花もてわたるかせとみたれは  *1(御)(内)そらはるゝ  0143: はなちらて月はくもらぬよなりせは ものをもはぬわか身ならまし  *4(御)(内)物を思はぬ  0144: なにとなくくむたひにすむこゝろかな いはゐの水にかけうつしつゝ  *5(内)かけをうつしつゝ  0145: たにかせはとをふきあけている ものをなにとあらしのまとたゝくらん  *4(内)なとかあらしの  0146: つかはねとうつれるかけをともに してをしみすみけり山かはの水  *4(御)(内)をしすみけりな  0147: をとはせていはにたはしるあられこそ よもきのまとのともになりけれ  *1(内)をとわけて  0148: くまのすむ苔のいはやまをそろしみ むへなりけりなひともかよはぬ  0149: さと人のおほぬさこぬさたてなめて むまかたむすふのへになりけり  0150: くれなゐの色なりなからたてのほの からしや人のめにもたてぬは  *5(内)めにもかけぬは  0151: ひさきおいてすゝめとなれるかけな れやなみうつきしにかせわたりつゝ  0152: おりかくる浪のたつかとみゆるかな すさきにきよるさきのむらとり  *4(内)すさきにきぬる  0153: うらちかみかれたる松のこすゑには なみのをとをやかせはかるらん  *5(内)たせはへるらん  0154: しほかせにいせのはまをきふせは まつほすゑを浪のあらたむる哉  *3(内)ふけはまつ  0155: さもとゆくふなひといかにさむからん くまやまたけををろすあらしに  0156: おほつかないふきおろしのかせさき にあさつまふねはあひやしぬらん  *3(内)かさゝきに  0157: いたけもるあま見る時になりにけり えそかちしまをけむりこめたり  *2(内)あまみかときに  *5(内)かすみこめたり  0158: ものゝふのならすすさみはをもたゝし あけそのしさりかものいれくひ  *2(内)なたかす君は  0159:  春はつはるのあしたに たちかはるはるをしれともみせかほ にとしをへたつるかすみなりけり  *題(御)(内)春ナシ  *2(内)はるをしれも  0159.5 (御)(内)  春きたりてなほ雪きゆ かすめとも春をはよその空にみて とけむともなき雪のしたみつ  0160:  山さとをはるたつという事を はるしれとたにのほそ水もりそくる いはまのこほりひまたえにけり  *題(御)(内)山水春を告くといふことを菩提院の前さい宮にて人々よみはへりしに  0161:  海辺のかすみといふことをいせ  のふたみと申す所にて 浪こすとふたみのまつのみえつるは              り こすゑにかゝるかすみなりける  *題(御)海辺霞と申すことを伊勢にてかむぬしともよみはへりしに  *題(内)海のほとりのかすみと申すことを伊勢にてかむぬしともよみはへりしに  *5(御)(内)かすみなりけり  0162:  ねのひ はることにのへの小松をひく人は いくらのちよをふへきなるらん  0163:  雪の中のわかな けふはいたくをもひもよらてかへりなん ゆきつむのへのわかなゝりけり  *1(内)けふはたゝ  0164:  雨中のわかなを はるさめのふるのゝわかなをいぬらし ぬれぬれつまんかたみたぬきれ  *題(御)(内)あめの中のわかな  0165:  わかなにはつねのあひたりしに人の  もとへ申をくり侍し わかなつむけふにはつねのあひぬれは まつにや人の心ひくらん  *題(御)(内) わかなにはつねのあひたりしに人のもとへ申しつかはし侍し  0166:  わかなによせて思ひをのふと侍  しを わかなをふる春ののもりにわれなりて うき世を人につみしらせはや  *題(御)わかなによせて思ひをのへはへりしに  *題(内)わかなによせて思ひのへはへりしに  0167:  すみ侍りしたにゝうくいすのこえ  せすなりしかはなにとなくあは  れにおほえて ふるすうとくたにのうくいすなり はてはわれやかはりてなかむとすらん  *題(御)(内)すみ侍りしたにゝうくいすのこえせすなりはへりしかなにとなくあはれなるやうににおほえて  *3(内)なりはてゝ  0168:  むめにうくいすのこゑかほりて  きこえ侍しに    か むめかへにたくへてきけはうくいすの こゑなつかしき春のあけほの  *題こゑ->(御)(内)こゑの  *1(御)(内)うめかかに  0169:  たひのとまりのむめ ひとりぬる草のまくらのうつりかは かきねのむめのにほひなりけり  *題(御)(内)旅宿梅  0170:  さかにすみ侍しをりみちをへた  てたりしはうよりむめのかせに  ちりこしを ぬしいかにかせわたるとていとふらん よそにうれしきむめのにほひを  *題(御)(内)さかにすみはへりしにみちをへたてゝはうのはへりしよりむめのかせにちりこしを  0171:  きゝす をいかはるはるのわかくさまちわひて はらのかれのにきゝすなくなり  *題(御)(内)きゝすを  0172: もへいつるわかなあさるときこゆなり きゝすなくのゝ春のあけほの  0173:  かすみのうちかへるかりといふ事を なにとなくおほつかなきはあまのはら かすみにきえてかえるかりかね  *題(御)(内)かすみのうちかへるかり  0174:  かへるかりの哥よみ侍しに たまつさのはしかきかともみゆるかな とひをくれつゝかへるかりかね  *題(御)(内)かへるかりを長楽寺にて  0175:  やなきかせにしたかふ みはたせはさほのかはらにくりかけて かせによらるゝあをやきのいと  *題(御)(内)やなきのかせにしたかふ  0176:  山さとのやなきといふことを やまかつのかたをかかけてしむる のゝさかゐにみゆるたまのをやなき  *題(御)(内)山さとのやなき  0177:  つとめて山のはなにをもむく  とにふことを さらにまたかすみにくるゝ山ち かなはるをたつぬる花のあけほの  *題(御)つとめて花をたつぬといふ事を朝赴花  *題(内)つとめて花をたつぬといふ事を  0178:  ひとり山花をたつぬといふことを たれかまたはなをたつねてよしの やまこけふみふくるいわつたふらん  *題(御)(内)ひとり山花をたつぬ  0179:  山のはなをたつねてみるといふ  ことを よしのやま雲をはかりにたつね いりて心にかけしはなをみるかな  *題(御)(内)はなをたつねてみるといふことを  0180:  くまのへまいりしにやかみの  王宮の花をもしろかりしかは  社にかきつけ侍し まちきつるやかみの桜さきにけり あらくをろすなみすのやまかせ  *題(御)熊野へまゐり侍しにやかみの王子の花のさかりにておもしろかりしかは社にかきつけ侍し  *題(内)熊野へまゐり侍しにやかみの王子の花のさかりにておもしろかりしかきつけ侍し  *1(御)まちきつを  *5(内)みねのやまかせ  0181:  上西門院の女房法勝寺花みられし  に雨ふりてくれにしかはかへられ  にきまたのひ兵衛のつほねのもとへ花の  みゆきおもひいてさせ給らんとおほえ  侍しとてをくり侍し 見人にはなもむかしをおもひいてゝ 恋しかるへしあめにしほるゝ  *題(御)上西門院の女房法勝寺の花みられしに雨のふりてくれにしかはかへられにきまたのひ兵衛のつほねのもとへ花のみゆきおもひいてさせ給らんとおほえてかくなん申さまほしかりしとてをくり侍し  *題(内)上西門院の女房法勝寺花みられしに雨のふりてくれにしかはかへられにきまたのひ兵衛とののつほねのもとへ花のみゆきおもひいてさせ給らんとおほえてかくなん申さまほしかりしとてをくり侍し  *1(御)みる人に  0182:  かへし いにしへをしのふるあめとたれかみん はなもそのよのともしなけれは  0183:  わかきひとひとはかりなんをいにける  身はかせのわつらはしさにいとはるゝ  ことにてとありしいとやさしく侍き  花の下にて見月といふ心を くもにまかふはなの下にてなかむ れはおほろに月はみゆるなりけり  *題(御)わかきひとひとはへりなんをいにける身はかせのわつらはしさにいとはるゝことにてとありしいとやさしく聞え侍き花の下にて月を見て  *題(内)わかきひとひとはへりなんをいにける身はかせのわつらはしさにいとはるゝことにてとありしはと花の下にて月を見て  0184:  をいてはなをみるといふことを おいつとになにをかせましこの はるのはなまちつけぬわか身なりせは  0185:  ふる木の桜はな所々さきたる  をみて わきてみんをい木ははなもあはれなり いまいくたひかはるにあふへき  *題(御)(内) ふる木のさくらに花の所々さきたるをみて  0186:  かきたえてこととはすなりた  りし人のはな見にやまさとへ  まてきたりしときゝて としをへてをなし木すゑにに ほへともはなこそ人にあかれさりけれ  *題(御)かきたえこととはすなりたりし人のはな見にやまさとへまてきたりしに  *題(内)かきたえてこととはすなりにし人のはな見にやまさとへまてきたりしに  0187:  よをのかれてひむかしやまに  すみ侍しころしらかはのはな  さかりに人さそひしかはみにまかりて           かへりて  むかしおもひいてゝ ちるを見てかへる心やさくらはな むかしにかはるこゝろなるらん  0188:  さわらひ なをさりにやきすてしのゝさわらひ はをる人なくてほとろとやなる  0189:  やまふき家のさかりたいといふ  ことを やまふきのはなさくさとになり ぬれはこゝにもいてとおもほゆるかな  0190:  かはつ ますけをふるあらたに水をまか すれはうれしかほにもなくかはつかな  0191:  春のうちに郭公をきくといふ  ことを うれしともおもひそはてぬほとゝ きすはるきくことのならひなけれは  0192:  三月一日たらてくれ侍しに はるゆへにせめてもものを思へ とやみそかにたにもたらてくれぬる  0193:  山さとのはしめの秋といふ事を さまさまのあはれをこめてこすゑ ふくかせに秋しるみやまへのさと  0194:  秋の歌に たまにぬくつゆはこほれてむさし のゝくさの葉むすふあきのはつかせ  0195:  はしめの秋のころなるをと申す  所にてまつ風のをとをきゝて つねよりも秋になるをのまつかせ はゝきて身にしむものにそ有ける  0196:  たなはた ふねよするあきのかはせのゆふ くれはすゝしきかせや吹わたすらん  0197:  野径秋風 すゑはふくかせはのもせにわたるとも あらくはわけしはきの下露  0198:  草花遮道といふ事を ゆふつゆをはらへは袖にたまきえて 道わけかぬるをのゝはきはら  0199:  行路草花 をらてゆくそてにもつゆそしほ れけるはきの葉しけきのちのほそみち  0200:  すゝきみちにあたりてしけしと  いふことを はなすゝき心あてにそわけてゆく ほのみしみちのあとしなけれは  0201:  野萩似錦といふことを けふそしるそのえにあらふから にしきはきさくのへに有けるものを  0202:  月の前のの花といふ事を はなのいろをかけにうつせはあきのよの 月そのもりのかゝみなりける  0203:  をみなへしつゆおひたるといふ  ことを 花のえにつゆの白たまぬきかけて をるそてぬらすをみなへしかな  0204:  池の辺のをみなへし たくひなきはなのすかたををみなへし いけのかゝみにうつしてそ見る  0205:  月のまへのおみなへしを にはさゆる月なりけりなをみなへし しもにあひぬるはなとみたれは  0206:  秋の野のはなむしといふ事を はなをこそのへのものとはみにき つれくるれはむしのねをもきゝけり  0207:  田家虫を こはきさくやまたのくろのむしの ねにいほもる人や袖ぬらすらん  0208:  ひとりむしをきくといふ事を ひとりねのともにはならてきりきりす なしねをきけはもの思そふ  0209:  としころもうしなれたりし人  ふしみにすむときゝてたつね  てまかりたりしににはのくさ  道もみえすしけりてむしの  なき侍しかは わけているそてにあはれをかけよ とてつゆけきにはにむしさへそなく  0210:  むし 秋かせにほすゑなみよるかるかやの 下はにむしのこえみたるなり  0211: よもすからたもとにむしのねを かけてはらひわつらふ袖の白露  0212: むしのねにつゆけかるへきたも とかはあやしやこゝろもの思へし  0213:  暁はつかりをきく よこ雲のかせにわかるゝしのゝめに やまとひこゆるはつかりのこゑ  0214:  とをくちかくかりをきく 白雲をつはさにかけて行かりの かとたのをものともしたふなり  0215:  よにいりてかりをきく からすはにかくたまつさの心ちして かりなきわたるゆふやみのそら  0216:  きりのうちのしか はれやらぬみやまのきりのたえたえに ほのかにしかのこえきこゆなり  0217:  ゆふくれにしかをきくといふ事を しのはらやきりにまとひてなくしかの こえかすかなる秋の夕くれ  0218:  暁のしかを よをのこすねさめにきくそあはれなる ゆめのゝしかもかくやなきけん  0219:  田家しかといふ心を をやまたのいほちかくなくしかの ねにをとろかされてをとろかすかな  0220:  山さとのしか なにとなくすまゝほしくそおもほ ゆるしかあはれなる秋のやまさと  0221:  月をまちてしかをきくと  いふ事を かねてより心そいとゝすみのほる 月まつみねのさをしかのこゑ  0222:  田上月を ゆふつゆのたましくをたのいな むしろかけすほすゑに月そやとれる  0223:  月のまへにとをくのそむといふ事を くまもなき月のひかりにさそは           そも れていく雲ゐまて行心かな  0223.5  老人の月をもてあそふとい  ふことを われなれや松の木すゑに月たけて みとりの色に霜ふりにけり  0224:  かすかにまいりて侍しに月あか  くあはれにてみかさのやまをみや  りてよみはへりし ふりさけし人の心にしられぬる こよひみかさの月をなかめて  0225:  へんせうしにて人々月をもて  あそひはへりしに いけのをもにうつれる月のうき雲 ははらひのこせるみさひなりける  0226:  さぬきのせんつうしのやまにて  うみの月を見て くもりなき山にてうみの月みれは しまそこほりのたえまなりける  0227:  月の前のちる葉 山をろしの月にこのはをふきかけて ひかりにまかふかけをみるかな  0228:  秋の歌よみ待しに しかのねをかきねにこめてきく のみか月もすみけり秋の山さと  0229: いほにもる月のかけこそさひし けれやまたはひたのをとはかりして  0230: なに事をいかにおもふとなけれと もたもとしくるゝ秋のゆふくれ  0231: なにとなくものかなしくそ見え わたるとはたのをもの秋のゆふくれ  0232: おほかたのつゆにはなにのなるならん たもとにをくは涙なりけり  0233: 山さとは秋のすゑにそおもひしる かなしかりけり木からしのかせ  0234:  ものへまかりしみちにて こゝろなき身にもあはれはしられ けりしきたつさはの秋の夕くれ  0235:  ひとり衣うつをきく ひとりねのよさむになるをかさねはや たかためにうつころもなるらん  0236:  山里のもみちといふ事を そめてけりもみちの色のくれなゐ をしくるとみえしみやまへのさと  0237:  寂然高野にまいりて深山紅葉  といふことを宮法印御庵にて  よむへき申侍しにまいりあ  ひて さまさまのにしきありけるみ山かな はなみしみねをしくれそめつゝ  0238:  秋のくれに なにとなくこゝろをさへをつくすらん わかなけきにてくるゝあきかは  0239:  よもすから秋をゝしむといふ事を  北白河にて おしめともかねのおとさへかはるかな しもにやつゆをむすひかふらん  0240:  卯月のついたちになりてちりて  のちのはなを思という事を人々  よみはへりしに あをはさへみれは心のとまるかなちり にしはなのなこりとおもへは  0241:  夏の歌よみ侍とて くさしける道かりあけて山さとは はなみし人のこゝろをそみる  0242:  しやとうのうの花 かみかきのあたりにさくもたより あれやゆふかけたりとみゆるうのはな  0243:  むこんに侍りしころほとゝきす  のこえをききて 郭公ひとにかたらぬをりはしも はつねきくこそかひなかりけれ  0244:  ゆふくれのほとゝきす さとなるゝたそかれときのほとゝきす きかすかほにてまたなのらせん  0245:  ほとゝきすをまちてむなしく  あけぬといふことを ほとゝきすきかてあけぬとつけ かほにまたれぬとりのねそきこゆなる  0246:  ほとゝきすのうたよみ侍しときに ほとゝきすきかぬものゆへまよは ましはなをたつねし山ちならすは  0247: ほとゝきすおもひもわかぬひとこゑ をきゝつといかゝ人にかたらん  0248: きゝをくるこゝろをしらてほとゝきす たかまのやまのみねこえぬなり  0249:  雨のうちのほとゝきす さみたれのはれまもみえぬ雲ちより 山ほとゝきすなきてすくなり  0250:  さみたれの歌よみ待し中に            かつまた 水なしときゝふるしてしさみたれ のいけあらたむるさみたれのころ  0251: さみたれに水まさるへしうちはしや くもてにかゝる浪の白いと  0252:  はなたちはなによせてふるきを  おもふといふ事を のきちかき花たちはなに袖しめて むかしをしのふ涙つゝまん  0253:  海辺夏月 つゆのほるあしのわかはに月さへ てあきをあらそふなにはへのうら  0254:  納涼の歌 夏やまのゆふ下かけのすゝしさ にならの木かけのたゝまうきかな  0255:  あめのゝちの夏の月 夕たちのはるれは月そやとりける たまゆりすふるはすのうきはに  0256:  いつみにむかひて月をみるといふ  ことを むすふてにすゝしきかけをそふる かなし水にせとる夏のよの月  0257:  夏野草を みまくさにはらのすゝきをしかふとて ふしとあけぬとしかをもふらん  0258:  たひのみちにくさふかしといふ事を たひ人のわくる夏のゝくさしけみ はすゑにすけのをかさはつれて  0259:  山さとに秋をまつといふ事を 山さとはそとものまくすはをしけ みうら吹かへすあきをまつかな  0260:  十月はしめのころ山さとにまかり  たりしにきりきりすのこゑわつかに  し侍しかは しもうつむゝくらの下のきりきりす あるかなきかのこゑきこゆなり  0261:  暁のちるは 時雨かとねさめのとこにきこゆるは あらしにたえぬこのはなりけり  0262:  水のほとりのかれたる草 しもにあひて色あらたむる あしのほのさひしくみゆるなにはへのうら  0262.5  山の家のかれたるくさ かきこめし裾野の薄しもかれて 寂しさまさるしはのいほかな  0263:  しつかなる夜の冬月といふ事を しもさするにはのこのはをふみ わけて月はみるやととふ人もかな  0264:  ゆけくれのちとり あはちしませとのしほひの夕くれ にすまよりかよふちとりなくなり  0265:  さむき夜のちとり さゆれとも心やすくそきゝあかす かせは千とりともくしてけり  0266:  ふねのうちのあられ せとわたるたなゝしをふねこゝろ せよあられみたるゝしまきよこきる  0267:  冬の歌あまたよみ侍とて はなもかふもみちもちりぬやま さとはさひしさをまた問人もかな  0268: たまかけしはなのすかたもをとろ えぬしもをいたゝくをみなへしかな  0269: ひとりすむかたやまかけのともな れやあらしにはるゝ冬のよの月  0270: つのくにのあしのまろやのさひし さは冬こそわきてとふへかりけれ  0271: 山さくらはつ雪ふれはさきにけり よしのさとに冬こもれとも  0272: よもすからあらしのやまにかせさへ      よ ておほゐのやとにこほりをそしく  0273: 山さとはしくれしころのさひしさ にあられのをとはやゝまさりけり  0274: かせさへてよすれはやかてこほりつゝ かへるなみなきしかのからさき  0275: よしのやまふもとにふらぬゆきならは はなかとみてやたつねいらまし  0276:  雪の朝両山と申所にて人人  歌よみ侍しに たけのほるあさひのかけのさす まゝに宮この雪はきえみきえすみ  0277:  やまさとに冬のふかくといふ事を とふ人もはつゆきをこそわけこしか みちとちてけりみやまへのさと  0278:  世のかれてひむかし山に侍しに  人々まてきてとしのくれによせて  思をのへしに としくれしそのいとなみはわすられて あらぬさまなるいそきをそする  0279:  としのくれにかうやより宮こ  なる人に申つかはし侍し おしなへておなし月日のすき ゆけは宮こもかくやとしはくれぬる  0280:  雑下八十三首  いはひの歌よみはへりし中に わかはさすひらのゝまつはさらにまた えたにやちよのかすをそふらん  0281: 君か世のためしになにを思はまし かはらぬまつの色なかりせは  0281.5 ひまもなくふりくる雨のあしよりも かすかきりなき君か御代かな  0282:  うちにかいあはせあるへかりしに人に  かはりて かいありな君かみそてにおほはれて こゝろにあはぬ事もなきよは  0283: 風吹ははなさく浪のをるたひに さくらかひよるみしまえのうら  0284: なみあらふ衣のうらの袖かひを みきはにかせのたゝみおくかな  0285:  承安元年六月ついたちのひ院  くまのへまいらせをはしましける  ついてにすみよしへ御幸ありけ  りしゆ行しまはりて二日かの  やしろにまいりて侍しにすみのへ  のつり殿あたらしくしたてられたる  後三条院入みゆき神思ひいて給らん  とおほえてかきつけ侍し たえたりし君かみゆきをまちつけて 神いかはかりうれしかるらん  0286:  まつのしたえたあらひけん浪  いにしへにかはらすこそはとおほえて いにしへのまつのしつえをあらひけ むなみを心にかけてこそ見れ  0287:  俊恵てんわうしにこもりて人々  くしてすみよしにまいりて歌よみ侍し  に すみよしの松のねあらふなみの をとを木すゑにかくるをきつしほかせ  0288:  そのかみこころさしつかまつりし  ならひによをのかれてのちも  かものやしろへまいることにて  なんとしたかくなりて四国のかた  へ修行すとてまたかへりまいらぬ  ことにてこそはとて仁安二年十月  十日の夜まいりてへいまいらせ侍  うちへもいらぬことなれはたなうの  やしろにとりつきてたてまつり  たまへとて心さし侍しにこのま  の月ほのほのにつねよりも神さひ  あはれにおほえてよみ侍し かしこまるしてに涙のかゝるかなまた いつかはとをもうあはれに  0289 (御)以下欠  斎院をりさせ給て本院のまへ  をすき侍しおりしも人のうちへ  いりしにつきてゆかしくはへりしかは  見まはりておはしましけんを  りはかゝらさりけんかはりにける  ことからあはれにおほえてせんしの  つほねのもとへまうしをくり侍し 君すまぬみうちはあれてありす かはいむすかたをもうつしつるかな  0290:  かへし おもひきやいみこし人のつて にしてなれしみうちをきかんものとは  0291:  ゆかりなる人の新院のかんとうなり  しをゆるしたふへきよし申いれ  たりしおほんかへりことに もかみ川つなてひくともいなふね のしはしかほとはいかりをろさん  0292:  おほんかへし つよくひくつなてとみせよもかみ 川そのいなふねのいかりをさめて  かく申いれたりしかはゆるし  たひたりし  0293:  世の中に大事いてきて新院あらぬ  さまにならせをはしましておん  くしおろしてにわしにおはします  をきゝてまいりて兼賢あさり  にあひて月あかく侍しかは かゝる世にかけもかはらすすむ月 をみるわか身さへうらめしきかな  0294:  ならのそうとかのことによりて  あまたみちのくにへつかはされた  りしに中尊寺と申ところに  まかりあひて宮このものかたりすれは  涙なかすあはれなりかゝる事は  ありかたきことなりいのちあらは  ものかたりにもせんと申て思のふ  へきよしをのをの申侍りて遠国  述懐といふ事をよみはへりし 涙をはころもかはにそなかしつる ふるき宮こを思いてつゝ  0295:  としころあひしりて侍人の  みちのくにへまかるとてとをき  くにわかれとまうすことをよみ  侍し 君いなは月まつとてもなかめやらん あつまのかたのゆふくれのそら  0296:  宮法印かうやにこもらせたまひ  てことのほかにあれさむかりし夜  こそてたまはせたりしまたのあ  したたてまつり待し こよひこそあはれみあつき心ちして あらしのをとをよそにきゝつれ  0297:  あさり兼賢よをのかれてかう  やにこもりてあからさまにとて  仁和寺へいてゝそうかうになりて  かへりてまいらさりしかはいひ  をくり侍し けさの色やわかむらさきにそめて けるこけのたもとを思かへして  0298:  大峯の笙石屋にてもらぬ  いはやもとよまれけんをり思いて  られて つゆもらぬいはやも袖はぬれけり ときかすはいかにあやしからまし  0298.5  深山の紅葉を見て 名において紅葉の色のふかき山を心 にそむる秋にもあるかな  0299:  深仙にて月を ふかき山のみねにすみける月みれは おもひてもなきわか身ならまし  0300: 月すめはたにゝそくもはしつみ けるみね吹はらふかせにしなれて  0301:  をはかみねともうすところのみわた  されて月ことに見え侍しかは をはすてはしなのならねといつくに も月すむみねの名にこそ有けれ  0302:  さゝと申すくにて いほりさすくさのまくらにともな ゐてさゝのつゆにもやとるへきかな  0303:  平ちと申所にて月を見侍しに  木すゑの露のたもとにかゝり侍しを 木すゑもる月もあはれをおもふへし ひかりにくしてつゆのこほるゝ  0304:  夏くまのへまいり侍りしに  岩たと申所にてすゝみて下向  するひとにつけて京へ西住  上人のもとへつかはし侍し まつかねのいはたのきしのゆふすゝみ 君かあふなとおもほゆるかな  0305:  はりまのしよさへまいるとて野  中のし水み侍しこと一むかしに  なりてのち修行すとてとをり  侍しにおなしさまにてかはらさり  しかは むかしみし野なかのし水かはらねは 我かけをもやおもひいつらん  0306:  なからをすき侍りしに つのくにのなからははしのかたもなし 名はとゝまりてきゝわたれとも  0307:  みちのくにのかたへ修行して  まかりしにしらかはのせきにとま  りてところからにやつねよりも  月をもしろくて能因の秋風そ吹くと  申けんをりいつなりけむとあは  れに思ひいてられてせきやのはし  らにかきつけはへりし しらかはのせきやを月のもるかけは 人のこゝろをとむるなりけり  0308:  心さすことありてあきの一の宮  へまいり侍しにたかとみのうら  と申所にかせに吹とめられて  ほとへ侍しにとまやより月の  もりしを見て 波のをとを心にかけてあかすかな とまもる月のかけをともにて  0308.5 月のみやうはの空なるかたみにてお もひも出はこゝろうかはん  0309:  たひまかるとて みしまゝにすかたもかけもかはらねは 月そ宮このかたみなりける  0310: あはれしる人みたらはとおもふかなたひ ねのとこにやとる月かけ  0311: 宮こにて月をあはれとおもひしは かすよりほかのすさみなりけり  0312:  素覚か許にて俊恵なとまかり  あひてをもひをのへ侍しに なにことにとまる心のありけれはさら にしもまた世のいとはしき  0313:  秋のすゑに寂然かうやにまいり  て春秋述懐とにふことをよみ侍し  に なれきにし宮こもうとくなりはてゝ かなしさそふる秋のくれかな  0314:  中院右大臣すけおもひたつ  よしの事かたり給しに月  いとあかくあはれにてあけ侍に  しかはかへり侍にきそのゝちその夜  のなこりおほかるよしいひおくりたま  ふとて よもすから月をなかめて契をき しそのむつことにやみははれにき  0315:  かへし すむとみえし心の月のしあらはれて この世もやみのはれさらめやは  0316:  たいけむもむ院のほりかはのつ  ほねよをのかれてにわしにすまる  るときゝてたつねまかりたれは  すみあらしたるさまにて人の  かけもせさりしかはあたりの人  にかくとまうしをきたりし  をきゝていひをくられ侍し しほなれしとまやもあれてうき 浪によるかたもなきあまとしらすや  0317 (内)「かへし」の次、歌ナシ。以下欠。  かへし とまのやに浪たちよらぬ気色にて あまりすみうきほとはみえにき  0318:  をなし院の中納言のつほねよを  そむきてをくらのやまのふもとに  すまれしにまかりたりしにこと  からいふにあはれなりかせの気色  さへかなしくおほえてかきつけ  侍し やまおろすあらしのをとのけはし さをいつならひける君かすみかそ  0319:  あはれなるすみかとひにわけ  いりてこの歌を見て又かき  つけられる           おなし院兵衛殿 うき世をはあらしのかせにさそはれて いへをいてにしすみかとそ見ん  0320:  ある宮はらにつけつかまる女房  世をそむきてみやこはなれて  とをくまからむとおもふとて歌  たてまつりしにかはりて くやしきはよしなく君になれそめて いとふ宮このしのはれぬへき  0321:  ためなりときはにたうくやうし  侍しに世をのかれて山てらに  すみ侍ししたしきひとひとまうて  きたりときゝていひをくれる いにしへにかはらぬ君かすかたこそ けふはときはのかたみなるため  0322:  かへし 色かえてひとりのこれるときは木 はいつをまつとか人のみるらん  0323:  ともにあひてむかしをこふと  いうことを いまよりはむかしかたりは心せんあや しきまてに袖しほれけり  0324:  いつみぬしかくれてあとつたえ  たる人はかりにていつみにむかひ  てふるきをおもふといふ事をひとひと  よみ侍しに すむ人の心くまるゝいつみかなむか しをいかにおもひいつらん  0325:  十月はしめのころほうこんかう院  のもみち見はへりしに上さいもん  院おはしますよしきゝてたいけ  もの院の御ときおもひいてられて  兵衛とのゝつほねにさしをかせ  侍し もみちみて君かたもとや時雨るらん むかしの秋の色をしたひて  0326:  かへし いろふかき木すゑを見ても時雨 つゝふりにしことをかけぬまそなき  0327:  大かくしのたき殿の石ともかむ院  にうつされてあとなくなりたり  ときゝてみにまかりたりしに  あかそめかいまたにかゝりてと  よみけんをり思ひてられて いまたにもかゝりといひしたきつせの そのをりまてはむかしなりけん  0328:  すわうの内侍われさへのきのと  かきつけたるふるさとにて  ひとひとおもひのへ侍しに いにしへはつかいしやともあるものを なにをかけふのかたみにはせん  0329:  ためなりときはの家にて故郷の  思をのふといふ事をよみ侍し  にまかりあひて しけきのをいくひとむらにわけ なしてさらにむかしをしのひかへさん  0330:  修行してみちのくにへまかり  たりしに野ゝ中につねよりも  とおほしきつかのみえしを人に  とひ侍しかは中将のみはかとは  これか事なりとまうしゝかは  中将とはたれか事そとまたと  ひ侍しかはさねかたの御事なりと  まうすいとあはれにおほえてさら  ぬたにものかなしくしもかれのすゝ  きほのほのみえわたりてのちにかた  らんもことのはなきやうにおほえて くちもせぬその名はかりをとゝめお きてかれのゝすゝきかたみにそする  0331:  ほりかはのつほねのもとよりいひ  つかはしたりし この世にてかたらひをかむほとゝきす してのやまちのしるへともなれ  0332:  かへし ほとゝきすなくなくこそはかたらはめし てのやまちに君しかゝらは  0333:  仁和寺の宮にて道心遂年深  といふことをよませ給しに あさくいてしこゝろの水やたゝふらん すみゆくまゝにふかくなるかな  0334:  暁の念仏といへることを ゆめさむるかねのひゝきにうちそへ てとたひのみなをとなへつるかな  0335:  法華経序品 ちりまかふはなのにほひをさきたてゝ 光をのりのむしろにそしく  0336:  勧持品 あま雲のはるゝみそらの月かけに うらみなくさむをはすてのやま  0337:  寿量品 わしのやま月をいりぬとみる人は くらきにまよふ心なりけり  0338:  観心を やみはれて心のそらにすむ月は にしのやまへやちかくなるらん  0339:  無常歌あまたよみ侍し中に とりへのを心のうちにわけ行は ゆふきのつゆに袖そそほつる  0340: よの中をゆ上とみるみるはかなくも 猶おとろかぬわかこゝろかな  0341: とし月をいかてわか身にをくり けん昨日の人も今日はなきよに  0342:  桜のちり侍しにならひてまた  さきけるはなを見て ちるとみれはまたさくはなのにほひ にもをくれさきたつためしありけり  0343:  暁無常を つきはてんそへいりあひのほとなるを このあかつきにおもひしりぬる  0344:  ものあはれにこゝろほそくおほえ  しおりしもきりきりすのまくら  ちかくなき侍しかは そのをりのよも木かもとのまくら にもかくこそむしのねにはむつれめ  0345:  とう門に侍し上人れいならぬ事  大事なりしをり月あかくて  あはれなりしに もろともになかめなかめて秋の月 ひとりにならむ事そかなしき  0346:  月のまへのむしやうを 月を見ていつれのとしの秋まてか この世の中に契あるらん  0347: この世にてなかめなれぬる月なれはまとは むやみもてらさゝらめや  0348:  とりへ山にとかくのわさし侍し  けふりのなかよりふけていてし  月を見て とりへのやわしのたかねのすそならん けふりをわけていつる月かけ  0349:  大いの御門の大臣大将と申侍し  おりてしのふくのうちにはかなく  なり給ぬときゝてかうやよりとふら  ひたてまつるとて かさねきるふちの衣をたよりにて 心の色をそめよとそ思  0350:  かへし ふちころもかさぬる色はふかけれと あさき心のしまぬはかなさ  0351:  おやかくれたのみたるむこうせなと  してほとなくまたむすめに  おくれたりし人のもとへ このたひはさまさまみけんゆめよりも さめすやものはかなしかるらん  0352:  ゆかりにつけてものおもひし  人のもとよりなとゝはぬそとうら  みたりし返ことに あはれとも心におもふほとはかりいはれ ぬへくはとひこそはせめ  0353:  はかなくなりてとしひさしく  なりにし人のふみをものゝ  なかよりみいてゝむすめに侍り  しひとのもとへつかはすとて なみたをやしのはんひとはなかすへき あはれにみゆるみつくきのあと  0354:  想空入道大原にてはかなく  なり侍たりしをいつしか  とひ侍らすとて  寂然 とへかしな別のそてにつゆしけき よもきのもとの心ほそさを  0355:  かへし よそにおもふわかれならねはたれをかは 身よりほかにはとふへかりける  0356:  とう行侍し上人おはり思さま  なりときゝて           寂然 みたれすとおはりきくこそうれ しけれさてもわかれはなくさますとも  0357:  かへし この世にてまたあふましきかなし さにすゝめし人そ心みたれし  0358:  あとのことひろいてかうやへまいり  てかへりたりしに又 いるさにはひとのかたみものこりけり かへる山ちのともはなみたか  0359:  返し いかにともおもひわかてそすきにける ゆめにやまちをゆく心ちして  0360:  ゆかりなる人はかなくなりてとか  くのわさにとりへ山にゆきて  返りて かきりなくかなしかりけりとりへやま なきをゝくりて返こゝろは  0361:  院二位のつほねみまかりてあと  に十のうた人々よみ侍しに おくりおきてかへりしのへのあさ つゆを袖にうつすはなみたなりけり  0362: ふなおかのすそのゝつかにかすそひて むかしのひとに君をなしつる  0363: のちの世をとへとちきりしことのはや わすらるましきかたみなるへき  0364:  とはの院かくれさせをはし  まして御さうそふの夜おり  しもかうやよりいてあひて とはゝやと思よらてそなけかまし むかしなからの我身なりせは  0365:  さぬきにまうてゝまつ山のつと  申所に院のをはしましける  あとをたつねてまいりたりしあと  かたもなかりしかは まつ山のなみになかれてこしふねの やかてむなしくなりにけるかな  0366:  しろみねと申所へ御はかにまいりて よしやきみむかしのたまのゆかとても かゝらんのちはなにゝかはせん  0367:  せむつうしにくさのいほりむ  すひてすみ侍しにいほりの  まへに侍しまつを見て ひさにへて我のみの世をとへよ松 あとしのふへき人もなきみそ  0368:  とさのかたへやまかりなましと  おもひたつことの侍しに こゝをたゝわれすみうくてうかれなは まつはひとりにならむとすらん  0369:  つねよりもところにつけてあは  れなることのはへりしかは いまよりはいとはしいのちあれはこそ かゝるすまゐのあはれをもしれ  0370:  ゆきふかくつもりて侍しに おりしもあれうれしくゆきのうつむ かなかきこもりなんと思山ちを  0371: なかなかにたにのほそみちうつめゆき ありとて人のかよふへきかは  0372:  はなまいらせしをしきにあら  れのふりかゝりしかは しきみおくあかのをしきのふちなくは なにゝあられのたまとまらまし  0373:  五条三位うたあつめらるゝときゝ  てうたつかはすとて はなゝらぬことの葉なれとおのつから いろもやあるときみひろはなん  0374:  返       右京太夫俊成 世をすてゝいりにしみちのことのはそ あはれはふかきいろはみえける  End ある人のもとにまかりたりしに 山さとのしふと申ものゝ侍を見 れはさなりけりとをかしくたれか しはさとおほえぬこともかきつけ られたりみくるしくかをあかむ心ちすれ ともちり侍にけれはかゐなくおほえ てみもゝうたむそちこそさること はへりきとおほゆれそれをぬき給へと 申て侍ぬすゑにみ給はむ人むなしき こと葉をひるかへしてりう花 のあか月さとりひらけむちきりに なしたまふへし みやきかうたかとよあそひたはふ れまてもと申たることのはへる はいとかしこし  抽三百六十首名山家心中  集、山家集千三百首其中  三百六十也   花三十六ゝ 月三十六ゝ   恋三十六ゝ 雑上 百七十     無題五十首 春卅三首     秋四十七ゝ 夏廿首 冬廿首   雑下八十二首 人々歌十四首 二位つほねのあとのうたにふなを かとよみたることはへりそのをりの ひとのうたにとりへのよまれたる ことの侍しをふなおかにてたそ とかくの事ははへりしにとりへのと はいかにと申侍しかともくるし かるましきよしにてやみはへり にきそのとりへのゝうたはしふ にいりて侍とかやおきつしらなみ たつた山と申こともはへれはしら なみみとりのはやしをなしさま のことにてこれもふなをかとりへ 山ひとつすちにてさるへきこと かとたつねまほしくおほゆれはかくまう すなり  西行の歌集のひとつとして三百六十首を収載した「山家心中集」とよばれるものがあったことは、すでに「山家集」古写本の奥書(温故堂旧蔵本など)や「群書一覧」「国書解題」によって知られていたが、この書をはじめて発見紹介せられたのは故佐々木信綱博士であった。すなわち明治四十一年図書寮(現書陵部)蔵書のうちに見出された。その後解説を附して昭和六年に覆製刊行せられ、さらにこの翻刻は西行全集(昭和十六年刊)におさめられて学会周知のものとなった。その後、昭和二十六年この親本と見られる冷泉家旧蔵本が知られたが、なおその所載歌数は二九一首で「雑下八十二首」と記されながら九首のみを存して以下を欠く本であった。昭和二十六年にいたり樋ロ芳麻呂氏によって内閣文庫本が紹介され、巻末に約三〇首が追加されたが、なお完本とは言えないものであった。全歌数三六〇首と考えられる完本を見ることは、長い間の私のひとつの願であったが、去る昭和四十ニ年十二月京都妙法院において三崎良泉僧正の御厚情によって、この完本とも考えられる本を拝見することが出来たことは大きな喜びであった。この本の全貌の紹介は西行伝究の上に若干の資料をつけ加え得るかと思う。              (永井 義憲)  底本::   著名:  西行全集 第一巻        山家心中集(妙法院本)   校訂:  伊藤 嘉夫   発行者: 井上 了貞   発行所: ひたく書房   初版:  1981年02月16日 第 1刷発行   注:   頭記の数字は妙法院本の通し番号。  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力日: 2000年10月30日-2000年11月14日  校正::   校正者:   校正日: